掌中之珠9
翌日、3人は昼近くまで寝ていた。なので代わりに説明をば。次の目的地は王都ザルバック。小国ながらも200年間独立を維持する、金城鉄壁の軍事力で名を馳せている王国だ。歴史を紐解けば、幾度となく受けてきた他国の侵略を全て跳ね返し、この50年はザルバックに攻撃を仕掛ける国もない。そのご自慢の軍事力で外野を黙らせた。
そんな折、現国王のザルバックⅥ世から勇者ローグ当てに招待状が届いた。内容は不明だが、行く当てのない荷風散人の3人。魔王、魔族、魔界の手がかり、情報を集める気などさらさらないように思えるほど。だから呼ばれれば参上する。そこで色々訊けばいいということらしい。ただしここからザルバックへ向かうには現在封鎖中の地下道を通るか、砂漠を越える必要があった。無論、砂漠遠征なんてティナが許すはずもなく、扉を開ける為の魔法の鍵を入手したという訳だ。閉じられた理由なぞ、気にも留めないのだろう。
「わざわざ手紙なんか寄越して。要件は何だ?」
「さぁ・・・手紙には何も。」
そんなことはないはずだが、街を出たのは昼をだいぶ過ぎてから。数時間後には太陽が橙を帯びる頃合いになってから。のんびり、ゆったり歩いている。少なくともローグとガイアの2人はザルバック地下道がいつ封鎖されたのか、何故封鎖されたのかなんて考えることなく前進しているのだろう。ざっと百年も昔の話だから若い物が知らないのも無理ないが、理由は明白。他国の進軍を制限する為。ザルバックへの交通網を海路と砂漠に限定することで、気付かない内に敵国に包囲されていたという事態を未然に防ぐ。交通手段を絞ることで自国の優位性を高めんとした。安全性を確保した。その結果、周辺諸国からの進行は激減。その分、物資の流通という面では手間と時間が要されるようになったが、民の命には代えられない。全てを一度に解決することは焦りに繋がる。勝っても負けても戦争は沢山の物を奪い去る。自国・自陣が戦地となれば息をするように何もかもが消滅していく。砂時計のように儚く、無慈悲に、音もなく。そんな歴史を繰り返すまい。そしてやられた分は取り戻す。それについては文句を言わせまい。