掌中の珠7
「は~・・・ラクチンラクチン。あんた達は交代してあげないからね、べー。」
「俺達は乗らねぇよ。っ言うか、お前ぇが正座してギリギリの大きさなんだ、俺が座れるわけねぇだろ。」
断じて私は乗り物ではないが振り落とすわけにもいかず、ティナを頭というか、体に乗っけて街を目指している。
「ぷっ・・・くっくっく・・・・・・」
ちらちら振り返りながら歩くローグが今にも吹き出しそうだ。勇者の顔は既になく、そこにいるのはイタズラ好きのガキんちょだ。
「なぁなぁガイア。スラぼうの奴、半分潰れちまってらぁ。」
するとどこかに警戒心を置いてきたガイアも後ろ歩きに切り替えた。
「分~ってるよ。改めて見せるんじゃ・・・・・・ダーッッッハッハッハッハッハッ!こりゃ・・・イーッッッヒッヒッヒ・・・・・・お前・・・ぺちゃんこじゃねぇか!!」
結局は二人揃って馬鹿笑いする始末。ティナに窘められても笑いは止まらず、振り返っては笑い、こしょこしょ喋っては笑うを繰り返しながら街に到着した。覚えておれ、全く・・・
一仕事片付けると、酒場で労をねぎらうのは人間族の慣習なのだろうか。生存を目的とした栄養補給以外は我々に馴染みはないし酒も飲まないが、勇者一行も例外ではない。これがなくては始まらないという人間がここにもいるのだ、2人ほど。
ローグは酒場の片隅、端の端の席をさらに壁に寄せて、静かに食事を摂った。何の落ち度もないのに小さく縮こまって、かわいそうに。壁に向かって食事をしている風にさえ見えた。優しいローグはそんな渦中でも、机の下のモンスターに水と食事を与えてくれる。
「ほら、スラぼう。今日はご苦労さん。ごめんな~、うるさいけどゆっくり食べるんだぞ。」
お前が詫びることはないと、思わず口走ってしまいそうだった。ローグの方こそしっかり食べて体力と体重の回復に努めるのだ。
食は全ての基本。体が傷付いた時も、心が痛んだ時も、嬉しい時も悲しい時も疎かにしてはならない。食の為の時を省くなんぞ以ての外。そして常に変わらず適切な食事が食べられることも才のひとつ。