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仲間モンスターとして勇者に同行するスライム(最終話)




 絆創膏を張ったガイアがマウンドに上がり、同じく絆創膏を張ったローグがバッターボックスに立った。今日も快晴、雲一つない。どこまでも青く、太陽は豆粒のような人間をこれでもかと照らし続ける。ティナは離れた場所から2人を見守る。その立ち位置と腰に両手を当てた姿勢はまるで監督だ。昨晩の様な殴り合いを再び始めたら、またキリのいい所で割って入らねばならない。ちょっと反省しなさいと、治癒魔法は唱えなかった。

 ガイアが握るのは本物のボール、ローグが構えるは本物のバット。互いに何も喋らない。それでもそれとなく相手の考えていることが分かってしまう。遥か上空では(とんび)が鳴いている。下界の馬鹿共なんぞに興味はない。一羽の鳥ですら容易に人を見下ろせる。人間なんぞ所詮はその程度のもの。スライムなんぞは石ころと同じ。同族で潰し合って何の得があるのかと、数千年に渡って笑い続けている。


 投球練習はなし。そもそも練習したって何が変わる訳でもないし、捕手もいないし。無言でローグがバットを構え、断りなくガイアが投球動作に入った。どっからどう見ても不格好な投球フォームから、目にも止まらぬ剛速球が飛んでいく。力任せの軌道が奇跡的にストライクゾーンに入ったのか、ローグが素早く立ち位置を変えたのか、スライムの目には定かでなかったが、ローグがバットを振り抜いた。打って変わってこちらはお手本のようなバッティングフォーム。甲高い音と共に白球が蒼天に消えていった。勝負アリ。だのにどうしてだろうか、打ったローグの表情は晴れず、打たれたガイアの方が清々しく球の行方を眺めていた。

 ローグが、マウンドのガイアへ歩み寄る。完璧に打たれた上に、見送る側のガイアが動かないのは、これ如何に。それとスライムはもちろん、ティナも近付かなかった。そんなことは微塵もないのに、邪魔してはいけないという心理が働いていた。

 ガイアが見下ろし、ローグが見上げる。2人の身長差に加えてマウンドの影響も手伝い、普段以上にローグが小さく幼く見えた。両者が拳を作る、さすがに殴り倒す為ではない。ただその想いを合わせるだけ。

「行ってくる。」

「帰ってきたら続きだ。勝ち逃げは許さねぇからな。」

「うん。」


 ローグの背中が小さくなっていく。ティナに親指を立てて合図した後、これまでになくゆっくりと歩いていく。遮るものは何もない。いつまでもローグの姿を目に焼き付けていたと言いたいところだが、唐突に立ち止まったローグは空を見上げ、転送魔法で鳥のように消えていった。世界を動かす、未来を担う、種族の命運を握る旅立ちの日ですら、何もなかったように変わらず太陽は我々を照らし、世界は回る、とでも思ったか馬鹿たれが。子供達に囲まれ説明に四苦八苦するティナの身にもなってやれ(ガイアの奴は知らんの一点張りで逃げていた)。世界が変わらず回り続けるわけがなかろうて。この子供達が変えるのだよ。だからもう、変わり始めている。子供の可能性こそ人間族の希望。今の大人を土台、踏み台、(こえ)にして、世界を創り変えるのだ。そんな子供達の為にもたまには帰ってきて、遊んでやってはくれまいか。




 ギードの所に居座っている。

「寂しいのではないか。」

「抜かせ。もはや寂しい、悲しい言う年ではあるまいて。」

「ま、そういう事にしておくが・・・・・・良いパーティーだったな。」

「可能性は秘めておる。強さだけではない。もしかしたら、変えられるかもしれんな、世界を。」

「付いていてやればいいではないか、どうせ暇じゃろう。」

「もはや力になれることは皆無。静かにしておるよ。」

「・・・ひとつ訊かせてくれんか。」

「ん。」

「どうして人間族についた。」

「十年、たった十年の間、戦争のない歴史が作れれば、世界が変わる。」

「主の持論じゃな。あの3人ならばできそうか。」

「自論に続きができた。」

「続き・・・とな。」

「その為に必要なのは自己犠牲。」

「美しくは訊こえるが、悲劇の香りしかせんの。人間族とはそんな種族である。」

「3人を見守るには、ちと長く共に居すぎた。だから幕を引くんじゃ。な~に、うまくいかなきゃ、また手を貸すまでよ。スライムに手はないがな。」


                    【仲間モンスターとして勇者に同行するスライム (完)】


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