晴耕雨読②
小一時間話をしていく内に、打ち解けてきたローグとムヒ国王。正しくはローグの動揺が収まってきた。
「以上が我々の計画と、当日の世界会議の段取りとなります。」
「ふむ・・・他国がどう動くか。当日以降は一種の賭けではあるが、我が国が拒む理由はない。我が国を選んでくれたことを感謝する。全面的に協力させて頂きましょう。」
すぅと手を差し出し、握手を交わした。力強い手にの握りだった。打つ手のない状況に降ってきた逆転の目。夢は、と訊かれれば、子供達に毎日たらふく食わせてやること。
「宜しくお願いします。我々も全力を尽くします。ところで―」
無事に任務を終えられたローグは肩の荷を下ろし、ひとまずは強張った表情から、普段の勇者に戻ったようだ。
しばしの雑談。
「『魔王の証拠を見せて見ろ』だなんて、私が本当に魔王だったら一大事ですよ。」
「ローグ君から邪悪な気配を感じなかったからな。だがもしも、子供に危害が及びそうになったら・・・」
手相でも見せるみたいに掌を広げるムヒ国王。そこに握り具合の良さそうな小さな火の玉を発生させた。すぐに消えてしまったが、ローグを驚かせるには十分だった。
「貴方は一体?」
「かつて、勇者と共に魔族と戦った魔法使いですよ。かれこれ60年も昔の話になりますがね。」
万が一ローグが子供達に手を出さんとすれば、炎の力で文字通り身を粉にして、自らを燃やしローグにしがみついてでも抵抗しただろう。
火の魔法なんてこの国ではほとんど役に立たない。1年間365日、24時間、朝、昼、晩。寒い日、凍える時期などありはしない。芋や肉を焼くことはできても、暑さを和らげたり雨を降らせたりはできない。加えてこの年齢では、ローソクよりも一回り大きい火種を3秒間維持するくらいが限界だった。それでも民を、子供を守りたい。よかろう、国を守る為ならば、魔王の手先にも悪魔の僕にでもなろうではないか。
圧倒的な力の前に、意外な程に脆く、世界は動いた。目下、病院の建設中。箱自体は問題なく運んで来られた。ティナが転送魔法を使って、使われなくなった病棟の一部を丸々移設した。医者だっていつでも連れて来られるが、最優先の問題は水だった。蛇口をひねれば流れてくる清潔な水。転送魔法で運搬するには限界がある。現在、各国の力自慢がせっせと穴を掘っている。大粒の、いい汗をかいている。両手に血豆を作っている。国に関係なく人間が人間の為に、魔王に強制されているとはいえ、力を合わせている。この当たり前の行動を平和と呼ぶようになってしまった時点で人間族の愚かさと程度の低さが見えてしまうことを差し引いても、眩しい憧憬だった。
「お昼ご飯できたよー!!」
ティナの手伝いをしていた女子達が大声で呼び掛けると同時に、
「ローグ、遊ぼうぜ!」
「ガイア、準備できてるぞ!」
昼休憩の号令と共に、堰を切ったように男子が雪崩れ込んでくる。
「ほら、こっちは危ないって言っただろう。広場へ行こう。」
「お前ぇ達、後にしやがれ。俺の昼飯が・・・」
毎度毎回飽きずに同じ遣り取りである。ローグとガイア、そして体力に余裕のある者が、1時間遅れでの昼食となってしまうのだった。
他の者が昼寝用の別テントへ移動する頃、ローグとガイア(この日は2人だけ。やはり一般人には体力的にキツイ)もようやく食堂テントに辿り着けた。やっと昼食にありつける。大きな食堂テントはローグ、ガイア、ティナの3人だけとなった(一応スライムもいます)。
「2人共、お疲れ様。今日はカレーよ。」
「あのガキ共、俺の直球を撃ち返すようになってきやがった。」
「ガイア、ボコボコに打たれてたもんね。」
2人共、いい笑顔で子供達との野球を振り返る。昨日も今日も、そして明日も。これが大切なのだ。明日も明日が当たり前のようにやってくることを前提に明日を語れることが、子供達の希望に繋がる。
ボールは布を丸めた物。バットは荒木を削った物。道具は全て手作り。子供達が教わりながら自分達の手で作った。各人、自分のバットは手放さない。もしかしたら、そんな経験も初めてなのかもしれない。




