晴耕雨読①
【仲間モンスターとして勇者に同行するスライムと、晴耕雨読】
どう自己紹介するか、自分の職業をどう明かすかが問題だった。ローグが初めてムヒ国王にあった日のことだ。事前のアポイントなどもちろんなし。ローグはZ国を訪れたことがなかったので、、地図から転送できる最寄りの国を探し、そこから徒歩でZ国に向かったのだが、その道中ずっと身分の明かし方を考えていた。嘘、偽りなく明かすなら勇者と名乗るべきだし、話を早く進めるなら魔王の方が好都合。仮面も持ってきてはいるが、それを被ってZ国に侵入したら大混乱だろう。挨拶、交渉所の話ではなくなってしまう。世界会議では、ローグの思い描く世界会議には、どうしてもZ国の協力が必要だった。ムヒ国王の力と、演技力が必須だった。
どこからがZ国なのか迷ったまま、Z国と思しき敷地内に足を踏み入れた。高い建造物の類なんかは一切ないから何とも見通しの良い国だった。空と大地の境界線が邪魔されることなく気色の一部と化していた。藁葺きの住まいが所々にあって、遠目に至る所で子供達の遊ぶ姿が見えた。ゆっくりと歩を進める。キョロキョロしながら奥へと進んでいく。やがて、服を着ている己が異物であることを痛感し始めた頃、子供達がローグを発見した。きっと目が良いのだろう、新しいおもちゃでも見つけたかのように、遠くの方から砂埃を上げてドドドドド・・・・・・と、10人くらいの子供達が走ってきた。
「お兄さん、だ~れ?」
すぐに囲まれてしまったローグ。モンスターにだって、こんなに簡単に回り込まれたことはない。それと、言いにくいことではあるが、話に訊いた通り調べた通り、子供達の服装でこの国の経済状況、貧困具合いが見えてしまった。
「えっ・・・と・・・・・・ムヒ=チカラさんに会いに来たんだけれど、どこにいるか分かるかな?」
「なんだ~、爺っちゃんのお客さんか~。こっちこっち、連れていってあげるよ。」
ある子は真っ先に先頭を走り、ある子はローグの手を引き、またある子はローグのお尻を押してくれた。手厚い歓迎を受けたのだが、その最中も子供達らしい質問が飛んできた。名前や年齢、どっから来たのは適当な返答で逃げられたのだが、『何しに来たの』は困ってしまった。どうにかこうにか瞬発的に絞り出したのがこれだ。
「ムヒさんとお友達になりたくて。」
「なんだ~、そんなことか。平気だよ、すぐに友達になってくれるよ。」
胸の奥に鉛みたいな罪の意識を感じるローグだった。
国王ではなく村長の家、というのがしっくりきた。
「爺っちゃーん、お客さんだぞ~。」
「お~う、入ってくれー。ちょうど芋が焼けたところだから、お前達も食べていきな・・・」
子供に囲まれた大きな子供を見て、違和感の様なものを察知したのだろう。夾雑物、ここにいるはずのない、いてはならない人物だということを瞬時に悟ってくれた。まずは子供達を家の外へ。
「お客人、少々お待ちくだされ。お前達、藁でくるんでやるから外で食べていなさい。2人で1本じゃぞ。」
手早く子供達を外へ追い出した。
「お待たせ致しました。どうぞお座り下さい。」
そう言って、藁で作られた座布団が差し出された。
「ありがとうございます。」
「お若いの、お名前は?」
そう訊かれたローグの返答は、仮面を見せることだった。右手に持って顔に合わせて、名刺代わりとした。子供が外に出て行ったのは、ローグにとっても好都合だった。もちろんすぐに外して反応を待つ。表情を伺えば、こちらの意図は伝わって幾らか驚いているようだが、特に取り乱すことなくどっしりと落ち着いたものだった。
「ふむ・・・こりゃ、想像していた中身とは大層異なりますな。しかしまだ『いたずら』という可能性もある。貴殿が魔王だと証明できますかな。どうか証拠をお見せ頂きたい。」
「えっ・・・証拠、ですか・・・どうすれば、いいかな・・・」
言葉に詰まるローグ。困ってしまった。
「すいません、名刺を持っているわけではないですし、個の仮面が名刺代わりになればと勝手に思い込んでいまして―」
とても魔界の王には見えない。弱々しい魔王の姿を前に、ムヒ国王はついに笑い始めてしまった。
「ふっふっふ・・・いや、意地悪を言って申し訳ない。結構、結構、存じておりますよ、ローグ君。」
「へ?」
どうやら爺っちゃんの方が一枚上手らしい。
「私は魔王ヴァグナードでして、人間界を支配―」
「その人間界の一部に人間の間では君は、君達は大変な有名人ですからね。君の都合の良い方でお呼びしましょう。ローグ君かな、ヴァグナード様かな?」
あらら、という感じだ。会話の主導権を握ったのはムヒ国王だった。
「え~・・・っと、そう・・・ですね。今から色々お話というか。ご相談させて頂くのですが、とりあえずはローグでお願いします。」
魔王様、たじたじである。




