泣斬馬謖⑨
世界会議当日。驚くなかれ、Z国に議事堂や公会堂と言った建造物は存在しない。青空世界会議の開幕である。前日、そして開幕30分までは、とりあえず目立った暴動はなし。ローグの助言に従ってか、勇者と思しき人物を同行させている国もある。人が魔王に届かんとする日―機会をうかがっている国もあろうが、まずは様子見か。そんな緊張状態では、片隅に隠れて覗いているスライムには誰も気付かない。皆がまだ誰もいない空の壇上に注目していた、明らかに水の不足している乾いた土の上で。
太陽が世界中を照らしていた。宣言時刻ちょうど、聴衆の前にヴァグナードが現れる。例の仮面を被り、、全身を真っ黒なマントで覆っていた。いささか会場がざわつく。状況を推れば、いささかで済んだのが不思議なくらいだ。思ったよりも小さいじゃないか、普通だぞ、弱そうだな、そんな囁きが漏れていた。一方で、ローグの目から会場はどう映ったのだろうか。知った顔があるだろう。挨拶したい人間もいるだろう。しかしそれは許されない、、君が魔王である限り。世界の敵である内は。想いを叶えるその日まで。
お集まり頂いた諸君!!早速ではあるが、、ひとつ君達に問いたい。我々、人間にできることは何であろうか?人の可能性―その答えをこの場で示していこう。
人間族の赤ん坊を見れば分かる通り、人間は生物として絶対的かつ決定的かつ絶望的に無力であった。疾うの昔に滅んでいてもおかしくない存在だった。しかし神は―神様がいればの話だが―人間に知識を授けた。他の種族とは比較にならないくらいに圧倒的な知識だ。しかもその知識は磨くほどに成長する。巨大化する。輝きを増す。知識は剣となり盾となり、時に魔法のような力を人間族に与えた。
これまでとは異なり、大声で叫び続けるローグ。世界の命運を大衆に向けて語っているのだから当然と言えば当然なのだが、絶叫するように訴えを続けた。どうしてだろうか、そこから感じられたのは違和感。気合いの表れというよりは、最後の力を振り絞っているように見えた。
知識を得た結果人間は、元来は弱小生物であるという紛れもない事実を忘れてしまった。そんな人間ができることは何か。大したことはできない。大それたことは期待できない。大口なんぞ叩いてはいけない。せいぜい戦争をしないことぐらいだろう。所詮、人間に与えられた能力など、権利など、その程度のものだ。それすら放棄するというのなら、生存する価値もない。魔王自ら葬ってくれよう。
魔王の熱弁に会場は静まり返っていた。予想、予感との乖離に理解の追い付かない者もいただろう。―支配を止めること。助力を惜しまないこと。余力を自己犠牲に回すこと―
Z国は世界でも指折りの貧困国。そのZ国王を議長として指名した。紹介を受けた国王が登壇し、ヴァグナードに並んだ。しろだか黄だか灰だか判別のつかないヨレヨレのシャツを着て、赤色の短パン姿。頭は真っ白で、顔はしわだらけ。真っ赤な短パンだけがやけに目にうるさい爺さんに、とてもではないが議長を任せることはできない。誰しもそう思ったことだろう。ただ魔王を隣にしても冷静を装うことができている。ヴァグナードからの指名を受けても戸惑うことなく振る舞える。ということは、、である。狼狽えた仕種もないということは、ローグと入念な下準備を済ませていたということ。打合せを重ねていたということ。正体を明かしたということ。




