泣斬馬謖⑧
外に出た3人が、揃って空を見上げる。一応スライムも(迎えに来てくれたのはティナ。ローグめ、完全に忘れてたな)。まるで待っていたかのように空が薄紫色に変色した。そこに映し出されたのは、仮面を被ったローグ
「ご機嫌よう、人間族の諸君。またこうして会うことができて光栄に思う。改めて自己紹介をするまでもないとは思うが、我が名はヴァグナード。先日、野暮用を終えて魔界から人間界に移住した、ごく少数の魔族を従えるものだ。以前、我が居城を襲撃する勇者諸君もいたようだが、既に魔界に城はない。新たな城をこの人間界に築かせてもらった。君達の世界で言う、お引越しという奴だ。だが安心したまえ、人間を餌にしようというわけではない。今の所はな。私の目的はひとつ・・・諸君との話し合いの場を設けたいと思う。」
そうか、もう魔界に戻ることはないか。
「日時は1週間後の9月16日、開始時刻は12時。場所はZ国にて開催する。遠路はるばるという国も多いだろうが、前乗りは極力ご遠慮願おう。強制はしないが、宿泊施設は用意できないので、勝手に野宿でもしてもらうことになる。出席者は各国2名まで。別に勇者を同伴させても構わないが、活躍の場は準備できない。
さて、会議は即日終了させる。尤も、会議とはいっても、私の申し出を諸君に承認させるだけの会議なので、初回においては諸君に発言権はない。安心したまえ、無理な注文はしない。」
各国を一同に集める。それと、会議という単語も使った。そして訊き間違いでなければ、開催国をZと言った。私の記憶が正しければZ国は―
「最後に注意喚起を添えておこう。今回、我々は一切の武力行使をしない。誰一人殺さない。何一つ壊さない。魔王ヴァグナードの名の下に誓おう。ただし、諸君が勇者一味の力を利用して我々、並びにZ国に危害を及ぼす際は話が変わってくる。我々はその国を許しはしない。女、子供を含め、ひとり残らず始末する。ご希望とあらばその様子を、このように空へ映し出しても良かろう。特に、一番最初に手を出した国は見せしめの意味も込めて徹底的に駆逐する、再興不可能になるまで。悪いことは言わない、大人しくしていることだ。それでは1週間後、Z国でお会いできることを楽しみにしている。9月16日は君達にとって価値のある、特別な一日となることを約束しよう。」
魔王ヴァグナードの演説は終わり、空がいつもの色と静けさを取り戻した。
一仕事を終えたローグは夕食時刻の15分前にしっかりと帰ってきた。
「ただいま~、ギリギリセーフ!」
「おかえり~。手を洗ったら座って。ご飯にしましょう。」
「ちっ、間に合っちまったか。」
人間族のとある家庭の一幕と訊き違えてしまう。魔王軍の会話ではない。
「何だよガイア~、『間に合っちまったか』って・・・」
「間に合わなけりゃ、お前ぇの分を―」
「うわ、やった!豚カツだっ。」
「ほら、今揚げるから手を洗ってらっしゃい。」
繰り返す。目の前で食卓を囲んでいるのは―そうだった・・・転職したとローグが言っていた。3人は魔王でも魔族でもなくなった。勇者とその一行、人間の夕食風景だ。
「ほれ、スラ坊。一切れあげるな。揚げたてだぞ~。」
年は取りたくないものだ。豚カツ1枚で感情が昂ぶってしまった。




