泣斬馬謖⑦
ガイアが目を覚ますと、横には椅子に掛けた白魔女がいた。心配してずっと見守ってくれていたのにあろうことか、
「な~にしてんだ、お前ぇ?」
もう本当に、正気の沙汰ではない。本当にもう、拳骨のひとつでも落としてやりたいくらいだ(ローグに忘れられたせいで、スライムは独り無人島に取り残されていた)。
「あの・・・・・・・・・」
絞り出した掠れた叫び、だがそこから続かない。じっと下を向いて、膝の上の布をぎゅっと握ったまま、黙ったまま。そこで一切の我慢なく、早々に痺れを切らすガイア。
「何も無ぇなら、俺はギードの所へ行かせてもらうぜ。」
無骨に言い放って、上半身を半分起こしかけた所で見えない強い力が働いた。額を押されてベッドに叩きつけられ、寝かされた。
「ちょっと待って下さい。」
魔法でガイアを強引にベッドへ押し戻した白魔女であった。
「その・・・・・・」
「考えがまとまったら訊いてやる。俺はギードの所で鎧を―」
ドスン!
「あの・・・ですね・・・・・・」
「装備の色を―」
ドスン!
「私・・・・・・」
「・・・・・・よっ。」
ドスン!
隙をついて勢いよく跳ね上がろうとしたガイアだったが甘い甘い、見事な返り討ちにあっていた。
「わ、分かった。話は訊いて屋やるから、とりあえず体は起こさせてくれ。」
「大人しくしてくれますか?」
「あぁ、大人しくしているから・・・・・・っ言うか、俺が暴れたことなんかあったか?どいつもこいつも大人しくしてろだ、静かにしてろだ。誤解も邪推も甚だしいぜ、全く。」
フードの中で白魔女が微笑んだ。
「そうですね。」
「これから人間族と戦うのですか?」
「知らん。」
白魔女の問いに対して、何の感情もなく一蹴したガイア。気遣いはみられないが、嘘をつく人間ではない。
「勇者をこの世界から抹消して、新しい戦争のない国を作るのでしょうか?」
「さぁな、ローグの奴に訊いてみろ。」
喋りながらガサゴソ煙草を探すガイアだったが、残念ながら既に白魔女がお預かり。
「『そんなことしないよ』と言われました。」
「じゃ、戦わねぇんじゃねぇか。ティナにも訊いたのか?」
「ティナさんも『それはないんじゃないかしら』と笑っていました。」
「じゃ、お前ぇの考えす―」
「お二人は頭が良くて、優しくて、嘘も上手で、物事をしっかり考えて―」
「この野郎・・・喧嘩売ってんのか。」
いつの頃からか、2人は随分親しくなった。
「お2人の意見を聞いて、ガイアはどう思いますか?」
「そうだな・・・・・・」
腕を組んでしばし黙るガイアに、白魔女が情報を提供する。
「B国王に渡した半紙を覚えていますか?」
「ん?ああ、漢字の書いてあった和紙だろう。あれがどうした?」
「ローグさん、ティナさんも同様の紙を渡しています。書かれた文字は『林』、『思』と数字の『4』。これが何を意味するか分かりますか?」
「さぁな~・・・住所か何かか?」
ローグから紙を受け取った際に確認したりはしないんだな。
「3枚の半紙を重ねると『魔』という文字が浮かびます。要は、人間族への自己紹介です。魔王は生きていて、魔族は滅んでいないという宣戦布告なのではないでしょうか。」
顔は見えないが不安な様子が声から伝わってくるが、ちゃんと喋れるようになった。何に緊張していたのだろうか。それとも演技か何かか。
ガイアに言われ、食堂にやってきた白魔女。そこにはティナがいて、何やら百科事典みたいな書物を広げていた。紅茶のいい香りと静かな音楽も流れている。
「あら、もういいの?」
「はい。」
「ガイアも起きたのかしら?」
「はい。」
食堂に顔を出してみろ。おそらくローグの奴は出掛けているはずだ。それと―隠れた目線で目的の物を探していた白魔女だったが、あっさりとティナに狙いを見抜かれてしまった。
「仮面なら、ないわよ。」
「あ・・・・・・」
ティナの視線には気付かず、思わず声を漏らした白魔女。別に悪いことをしているわけではないのだが。
「じゃあ、ローグさんは?」
「ちょっと出てくるって。」
そう答えると、パタンを本を閉じた。
「そろそろかしらね。貴方も外にいらっしゃい、できればガイアも連れてね。『演説が始まる』と言えば、きっとついてくるはずよ。」




