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鳴斬馬謖④




 人目につかない広い場所って言ったって難しいんだよな~。しかも足場がしっかりしていて障害物がなくて動物がいなくてッて、今回は白魔女まで、注文が多いんだよな―ローグの愚痴が止まらない。大変申し訳ございませんと白魔女。そう言いなさんなとガイア。欲求、欲望、我欲心を抑えきれずに13日目、2人が手合わせをする運びとなった。愚図る子供と同じなのだから、白魔女が断固拒否してしまいかと思ったが、若干、ほんの僅かな負い目が生じていたのかもしれない。白魔女がホワイトドラゴンに変身できることを知らなかったのは、ガイアだけ。罪滅ぼしの意も込めて、申し出を受けたのかもしれない。

 何でぇ、観ていかねぇのかというガイアに対して、1時間後に迎えに来るよと返してローグは姿を消した。

「さ、始めるか。」

「はい。もう1度だけ断っておきますが、手は抜きませんよ。」

「おぅ、頼むわ。」

嬉しそうに大剣を構えるガイアに倣って、白魔女も杖を構えた。そのままじっと動かない。剣を振らないし、魔法も唱えない。何もしない2人だが何をすべきか、何を待っているかは明白だ。で、我慢比べに負けるのはいつもガイアだ。

「ほれ、早く変身しねぇか。」

「残念ながら、その必要はありません。」

「ん・・・どういうことだ?」

「無論、この姿のままで貴方に勝てるということです。」

配慮に欠けた、挑発としては百点満点の言い方だ。

「仮にも俺の戦いを後ろで見ていたよな?」

「はい。」

「その上で変身する必要は無ぇ、と。」

白魔女はゆっくりしっかり頷いた。

「黒騎士ガイアの動き、癖、長所、弱点、行動パターン、全てを見てきました。それらを分析した上での見解です。白魔女の姿で貴方を負かしてみせましょう。」

 キレるぞ・・・絶対にキレる・・・・・・手合わせなんかでは済まなくなる。最悪はスライムが転送魔法でどっちかをどっかへ放っぽって・・・・・・遠くから千里眼の特殊能力で見守るスライムの方が油汗をかいてしまった(千里眼の特殊能力を授けたのは、再転職前のローグ。この場所にこっそりスライムを置いていったのもローグ。何やらこそこそ企んでいるのもローグ)。

「そうかい、俺もまだまだだな。そしてお前ぇも、甘っちょろい!行くぜっ」

意外にも怒り狂うどころか、恋人との再会を喜ぶように、笑みを噛み殺しながらガイアが斬りかかった。


 ガイアの近接戦闘に白魔女は付き合わない。当然だ、わざわざご親切に敵さんの土俵で戦ってやる必要はない。後方に下がりながら瞬間移動を繰り返し、シールドのような小さな結界でいなしながら、ガイアの突進をやり過ごした。さながら牛と闘牛士。

「攻撃が単調なのです。反撃を試みなければ、かわすことは難しくありません。」

ガイアの大剣は空しく空を斬るだけだった。

「それなら、コイツはどうだ?」

ガイアとて黙っていない。離れた間合いから刀気の塊を飛ばしたが・・・

「スピードに大きなマイナス補正がかかってしまう。これが黒騎士の弱点です。当たりません、絶対に。」

物悲しそうな、申し訳なさそうな、恨めしそうな白魔女の声が、ガイアの後方から訊こえてきた。

 驚いた様子もなく、ゆっくりとガイアが振り返った。

「黒騎士はその名とは裏腹に、防御に特化したジョブです。攻撃面でも優れているように錯覚したのはあなたの地力、実力、力技。さすがの一言ですが・・・・・・私には通用しません。」

断言した白魔女に対して、質問を返すガイア。

「お前ぇの攻撃で俺を倒せるのかい?黒騎士ってのは防御特化したジョブなんだろう。」

違和感を覚える、妙な問いではある。竜への変化を誘っているのだろうか。

「結界を張って黒騎士の性能を弱めていきます。他にも対策は練ってあります。あなたに勝ち目はありません。」

「もうひとつ訊いていいか?」

「はい。」

「竜の姿でも結界を使えるのか?」

「いいえ。竜の姿では魔法、結界の類は使えません。」

その答えに、ほっとしたような表情を見せたガイア。

「そうかい、それを訊いて安心したぜ。竜でも結界が使えて、その上で変身しねぇってのであればボコボコにしてやるつもりだったが、いいだろう。見せてやる、続けるぞ。」


 白魔女が孤島のほぼ全域に結界を張った(ここは小さな無人島である)、ほんの数秒で。大した法力である。あるいはティナと互角かそれ以上。そしてこの結界は―

「闇落とし。あなたの鎧効果とスピードを徐々に奪っていきます。もはや黒騎士の鎧も盾もただの飾りにすぎません。もう・・・私の魔法を防ぐ手立てはない。」

「何かこう・・・白魔女という名前にはふさわしくない結界だな。」

「白魔女とは、白いフードを被る私に回りが勝手につけた名です。私の属性は闇。黒よりも深い闇の力です。」

ここでガイアがわざとらしく溜息をついた。

「だからお前ぇは間抜けだっ()うんだ。」

「マヌ・・・な、どういう意味ですか?」

どうやらガイアは知っているようだ。ティナかギードあたりから訊かされたのだろう。

「殻に閉じこもって、似たような境遇の人間に気付かない馬鹿者(バカヤロー)ってことさ。ギードの奴に訊いてねぇか、色は勝手に俺が選んだと。俺のジョブは白聖騎士(ホーリーナイト)。特殊能力は魔法剣。魔法は全く使いこなせねぇが、こんな結界、屁でもねぇ。」

ガイアが大剣を天に掲げると、白魔女の作った結界が一瞬で霧散した、虹がかかりそうなくらいに美しく。同時に、黒一色だったガイアの鎧装備が白銀に変わる。本性を現した、ということになろう。

「やれやれ・・・・・・相変わらずうるせぇ色だ。どうも好きになれねぇ。またジジィに封印してもらわねぇとな。」

「貴方は一体・・・?」

「俺に勝ったら教えてやるよ。」

風が反転した。追い込まれたというよりは、追い求める立場になった白魔女。

「約束ですよ―竜幻術。」

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