鳴斬馬謖③
引っ越しの翌日。またもやローグが皆を食堂に集めた。ちなみに、昨日は城周辺、ご近所をあちこち散歩した。山のてっぺんのくせにどこもかしこも林で覆われていて、肌寒いが空気はウマい、くらいしか収穫はなかった。さて、皆を食堂に集合させ、大事な話をするのかと思いきや、
「この城の名前なんだけれど―」
相変わらず、どこか抜けている大将である。
「この山の名前なんだけれど、林を思う山と書いて『林思山』と言うそうなんだ。ちなみに住所は林思4番地。ということで『林思城』にしたいと思う。戦いを終えた後、大将なり国王なりに、何かあれば林思城まで来るように伝えてほしい。それなりに有名な山のようだから場所は分かるはずだ。それと―」
ローグよ、ど~でもいい話だぞ、それは・・・夕食の時に話せばいい内容だ。皆、目が点になっている。白魔女なんかずっと俯いているではないか。
一方で、おっとりのんびりした性格とは裏腹に、人間族への攻撃は手を緩めない。3人で行動を共にするかと思いきや、3人でバラバラの移動先を指示した。三大国を一気に落としにかかる、二人一組で。ローグと魔導装置、ガイアと白魔女、そしてティナとスライム。不安な組み合わせもあるが(失礼な)、ローグは他の魔王軍を呼ぶことも、再びモンスターを世界各地に召喚することもなかった。ほぼ個人で、人間界の三大国を占領しにかかる。それだけの差があるのだ、勇者ローグ一行と、その他の勇者一行との間には。要因は転職の館でギードの助力を得られたかどうか。つまり、上級職についていないのだ、他の者達は。この五十余年でギードが上級職以上に転職させたのは5人だけ。そしてローグ、ガイア、ティナ以外の2人は既に現役を引退している。
ローグと魔導装置はA国に飛んだ。どんな感じで開戦するかと思っていたがA国の勇者達、正確にはA国の雇った勇者達が城門前で待ち構えていた。
「き、来た!本当に来たぞ!」
魔道装置の転送魔法で突如現れたローグと魔道装置に、空気が緊迫する。
「貴様、何者だ!」
「その手に持っている予告状の送り主さ。さぁ、もう少し離れた所で始めよう。城下町に危害を加えるつもりはない。」
そう言い放って、城と敵に背を向けて歩き出すローグ。
「ふざけるなっ。貴様一人で何ができる。そのまま大人しく帰るんだな。」
背後からの声に立ち止まり、ゆっくり振り返る。薄めた目、冷たい瞳。刀を一閃、闘気を放つ。誰かしらの腕が1本、宙を舞った。
「いいからついて来い。でないと、ひとり残らず殺すぞ。そしたら回復もできないだろう。」
声を荒げるでもなく、一定の調子で淡々と恫喝するローグだった。
「この辺りでいいな。じゃあ、こっちから仕掛けるぞ。」
A国の勇者達に選択肢はない。一直線、最短最速で戦闘を終わらせに行くローグ。何なら魔導装置にも何もさせない。A国軍はおよそ30人。百人いてもおかしくないと考えていたので幾らか拍子抜けの感もあったが、それでもそこに頭から突っ込むとは思わなかった。正面から斬り込み、瞬く間に敵軍の背後に辿り着いた。ローグの攻撃を目で追えた者はいない。気付いた時には、10人程が切り刻まれてその場に倒れた。地面のあちこちに血の池ができ始める。こんなもの、子供達には見せられない。
「まだやるかい?さっさと回復してやらないと、死ぬぞ。それとも、もう10人程、減らそうか?」
A国陣営のリーダーと思しき勇者があっさりと降参を宣言した。妥当な判断だ、力の差があり過ぎた。無駄な血を流すことはない。己に牙をむく敵の姿を愛で終えないようでは足掻きようがない。一刻も早く回復に回るのが賢明だ。城内に赴き、国王と面会するローグと魔導装置。
「何が望みじゃ?それだけの力があれば何もかも望みのままじゃろうて。」
「それがそうでもない。他国に戦争を仕掛けるな、それだけだ。簡単な要求だろう。文句があれば林思山まで来るといい。いつでも相手になってやる。それと―」
手短に用件を伝えたローグ。最後に、小さく『林』と書かれた半紙を国王に手渡した。
「これは?」
「いずれ分かる。とにかく大人しくしていればいい。できなければ、次は国ごと潰す。」
そう言い残して、ローグと魔導装置はA国を立ち去った。
―以上のように、魔道装置に記録されていた。
B国へ到着したガイアと白魔女。ここにも既に予告状が届いており、勇者一行が待機していた。こちらには20人程のパーティーと、5台の大砲が設置されていた。
「来たぞ!本当に魔女が攻めてきたぞー!!部下も連れているっ、砲撃準備、急げ!」
黒騎士ではなく何やら魔女を警戒するB国の一行。
「ローグの奴、どんな予告状を叩きつけたんだか。完全に魔女狩りじゃねぇかよ。」
「ふふ・・・そうですね。下がっていて下さい、私が片付けましょう。」
「ん、一人でやるのか?」
「はい、十分です。見て頂きたいものもありますし―」
「俺に見せたい物?」
黒騎士ではなく、白魔女が前に出た。
「竜幻術。」
そう唱えたかは定かでないが、白魔女の姿が巨大な竜に変化した。B国城と同じくらいの高さを誇るドラゴン。反射的に砲撃が放たれたが白魔女、否、白き竜は意に介さない。そのまま口から真っ白な吐息を浴びせかけた。ほんの一息で辺りが凍てついた。まともに喰らって完全に凍りついた者もいる。もうこれだけで勝負は見えてしまった。小回りきかせて一矢報いる元気と勇気が残っているかどうか。それを問うべくガイアが竜の横に並んだ。
「おい、まだやるかい?もう一息、吹かせるか?」
物凄い笑顔のガイアが、物凄い大声を上げた。ガイアも白魔女がホワイトドラゴンに変身できることを知らなかったのだろう。そして、愉快でならない。近い内に手合わせを願い出るだろうな。それはさておき、残された動ける者達が武器を地面に投げ捨てた。
人の姿に戻った白魔女と共に、B国王へ用件を伝えるガイア。
「うちの大将からの伝言だ。勝手な戦争は許さねぇ、大人しくしてろ。文句があれば林思山まで来い、だとさ。確かに伝えたぞ、それと―」
若干しわくちゃになった、下半分に『思』と書かれた半紙を渡し、白魔女の魔法で帰城した。
―以上、白魔女の報告である。
C国へはティナとスライムが征く。
どう分析しても他の2組と比べて戦力が劣るであろう第三部隊。当然C国でも雇われ勇者共が待ち構えていた、50人程。ローグの奴め、振り分けを間違えたのではないか。雇われ勇者の少ない国をこっちに当てないか。A国ほどではないにしろ、結構多いじゃないか。
「お、女だ!女とスライムが1匹っ。構えー!」
「手荒な真似はしたくないんだけれど、仕方ないか。スラちゃんはここで待っていてね。」
話し合いには持っていかないのか。時間が惜しいのか。敵陣に向かって歩いていくティナ。その姿が消えては現れ、消えては現れを繰り返した。短い距離の転送魔法を連続詠唱した瞬間移動。もはや人間の移動方法ではない。同時に睡眠魔法を唱えながら一頻り散歩を終えると、スライムの元へ戻ってきた。敵さんは皆ぐっすり夢の中だ。
「そなた一人で片付けただと・・・信じられん。」
「ご心配なく、眠っているだけですから。1時間もすれば起きるでしょう。」
「して・・・余にどうしろと?」
ここでローグとガイアのように戦争するなと釘を刺せば終わりなのだが、そこが2人と異なる所。
「何故、他国と争うのですか?勇者を雇ってまで。」
「持たざる国は潰される。潰れた国では民を守ることはできない。民なくしては国も王も存在しない。残念なことに、現代の人間はそこでは生きてゆくことができない。民も国も王も欠けることは許されない。その為の戦争だ。」
素直に一理あると思う。油断すると手を貸しましょうと言ってしまいそうだが。
「その通りですね・・・では、力を有する我々からの命令です。今後、一切の戦争を禁止します。宜しいですね。それと―」
ティナは歪な数字の『4』、2穫目の長すぎる4が大きく書かれた半紙を手渡し、姿を消した。
これにて第1段階は終了。そこから2週間はさほど(・・・)特別なことは起こらなかった。自由気ままに紅茶を飲みながら読書に時間を費やすティナ。ローグはちょくちょく人間界を巡回。実質戦力ゼロとなった3ヵ国をここぞと攻め立てる国が現れたため、止めに行っていたという。ガイアは飽きもせず外で大剣を振るう。3人一緒に行動するということもなく、顔を合わせるのも主に食事の時くらい。静かな14日間だった。1日を除いては。




