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泣斬馬謖②

 

 転送先は魔王城。勇者の襲撃を受けた日以降は誰の訪問もない、あの日のままだ。闘技場はいささか散らかっているが、その他の階は綺麗なものだ。スライムも頑張って掃除をした、暇だったからな。食堂だって使用可能。いつでも食事ができる、話ができる。

 闘技場に足を踏み入れる3人。はてさて、どんな思いだろうか。思い出はあろうか。懐かしさなんて感情は二の次で、敗走の悔しさが滲むのだろうか。勇者共への恨み、憎しみ、復讐心。もしくは恐怖か悲しみか。スライムよ、お前はどうかと問われれば、不信感だろうか。勇者だけでなく、人間族という種族の内側に秘められた野心と、暴凶性とも言うべき内面性。それと、同一種族における、単体毎の性質の違い。善くも悪くも個性が強い。そこが興味深いとも言えるし、統一化したいとも思わせる。

 城内をスライムが先導する。行き先は食堂、待ち人は白魔女―魔王と魔王軍幹部が不在の間、魔族をまとめていたのが他ならぬ彼女だった。まとめていたというよりは、万が一に備えていた。もしも他種族、人間族がさらなる攻撃を仕掛けてこようものなら、先頭に立って抵抗したであろう人物が白魔女だった。魔王城から最も遠く、最も何もない、最も寂しい場所へ転送の準備を行い、逃走の手順を整えた。武に武で対するだけが魔族のやり方ではないと、幹部共に教えてやるべきだ。結果的に人間族が戦争を仕掛けてくることはなかったが、正にそれが、これから白魔女が魔王に報告すべきことなのであった。

 扉を開けると、白魔女が部屋の片隅に立っていた。3人を確認すると黙って頭を下げる。机の上には紅茶まで用意されている。淹れたばかりなのだろう、湯気も立っていた。

「ただいま、白魔女。」

「おぅ。」

「貴方も座って。」

残された者達ほど、石になっていた3人は時の流れを感じてはいない様子。久々という感覚が実感として伴っていない雰囲気が漂っていた。つい今し方、散歩から戻ってきた人間かと錯覚してしまう。10ヶ月と数週間、短い時間ではなかった。殊に、人間族の観察を続け、元来の魔族ではない白魔女にとっては。


 魔王の討伐に成功した人間族。人間界の空に映し出された、非道で邪悪で残忍な魔王を、ついに我等が勇者が打ち破ったのだ。人間族と正義の勝利。しかしながら、ローグが御膳立てした人間族の和は長続きしなかった。勇者が魔族と戦っている隙に裏で手を回し、根を回し、金を回していたのでないかと勘繰ってしまうくらいに早かった。各国で一頻り騒いだ後、もしくは祝いの最中(さなか)から、新たな戦争が生まれた。国同士、人同士、勇者同士・・・・・・

 一人の勇者、一発の魔法、一個の兵器が一国を超える。一種族を超える。一世界を超える。その頂に立つ為に―勇者を始め、その仲間達、戦闘能力を有する者達を我が国に収めんとする争奪戦が始まった。哀れかな、魔族が消滅した途端、力の使い道を閉ざされた途端、平和が約束された途端、自分達の手で戦争を引き起こしたのだ。世界各地で人知を超えた力がぶつかり合っている。魔族に対抗する為の力が、同族に向けられている。一般兵もいるにはいるが、普通の人間が戦場に出てどうにかなるレベルではない。罠、作戦、軍略・・・裏で頭を働かせる、人を殺す為に。

 話を訊き終えたローグはじっと目を瞑って考えをまとめているようだった。呼吸を整え、怒りを静めているようにも見えた。ガイアも腕を組んで目を閉じている。ティナの方は落ち着いて紅茶を(すす)る。2人共、そして白魔女もローグの返答を待っていた。何も小難しく考えることはない。いつぞやみたいに仮面を被って、人間界の空に映し出せばいい。魔族を再び人間界に送り込む、とでも脅迫すれば戦争なんかやっている場合ではなくなる。勇者が勇者に戻り、皆が手を取り合い、国は手前(てめぇ)の事だけで手一杯になる。そうなればまた、平和が訪れる。また・・・・・・そう、まただ。また、繰り返すのだ。勇者に頼った平和を。悪者に頼った平和を。何も変わらない。何も変えられなかった。また、元に戻っただけなのだ。

 人間界に魔族の国を作る―石になる前から考えていたのか、復活してから決断したのか。魔族の国というものをどんな風に想像しているのかは不明だが、勇者一行並びに人間族との抗争が避けられなくなる。そもそも魔族の国なるものをすんなりとは作らせてくれまいて。仮に描いた通りの国ができたとして、狙いは何だ。勇者を潰すのか、国を潰すのか、人間族を潰すのか。ともかく、この魔界と魔王城に別れを告げるということだろう。


 一週間、平穏無事な時が流れた。ローグ、ガイア、ティナの3人は鈍った身体を元に戻しつつ、魔王城の内外で各々の仕事を進めていたようだが、血だらけ傷だらけで帰ってくるようなことはなかった。当然、勇者共の襲撃もない。いささか心配していた魔女の追っ手も来なかった。現状維持で何がいけないのかとスライムなんかは思ってしまうのだが、自分達の存在を葬った人間族を放っておくことができないようだ。さらには魔族に感情移入するという矛盾。もはやどちらも捨てられまいて。それが己の首を絞めていると知りながら、最適解を探求する。それがローグたちの旅なのだろう、二兎追う者はと分かっていても。人が良すぎると身を滅ぼすと分かっていても。

 

 快晴!!全くもっての引っ越し日和だ。先に城の外に出てきたのはローグとガイア。う~んと両手を天に突き上げて伸びをするローグに、挨拶は済ませたのかと問うガイア。誰への挨拶?なんて野暮な切り返しはしない。もう知り合いは誰もいないから―そうだったな。魔界にあるオーボンヌはローグの故郷。懐かしい場所も思い出もあろうに、知人がいなくなるというのは寂しいな。挨拶する人間がいないというのは悲しいな。それでも前を向いて歩ける原動力は、帰れる場所があることだ。

 「さ、お待たせ。準備できたわよ。」

ティナも合流し、いよいよ魔界に別れを告げる。そう、魔界に別れは告げるのだが、こう・・・何と言うか、スライムとは発想力が違うというか、此奴等の常識がぶっ飛びすぎていて、いちいち驚かされてしまう。ティナの転送魔法で引っ越したのだが、着いた先はどこぞの山の頂上。城ごと・・・・・・丸っと。そうだな、これは1番手っ取り早い。勇者だ、魔王だやらずに引っ越し屋でも開業すれば一生安泰だろうて。それと・・・

「なぁ、ローグ。お前ぇ、魔王辞めたんだってな?」

「うん、ギードに転職してもらって、今はまた勇者ローグに戻った。」

随分と軽い扱いを受けている魔王。威厳が一気に半減してしまった。そうなると、この城も魔王城ではマズかろうて。

 引っ越しはあっさりと完了し、ローグがガイア、ティナ、白魔女を食堂に集めた。ついでにスライムもついていく。ローグが教壇に立つ教師で、他の者が生徒の様な立ち位置だ。

「現在の人間族の状況は先日、白魔女が説明してくれた通り。この1週間、俺も人間界で寝泊まりしてみたけれど、どこへ行っても戦争の話題で持ち切りだった。大国と呼ばれる国々は領土拡大しか考えていない。一方で武力と経済面で劣る国には既に打つ手はなく、明日自分達の国が在るのかどうかも分からない状態だった。自国の民の為に他国の民を殺す―これが正義になっていた。そしてその主戦力が勇者であり、戦士であり、魔法使い。魔王を倒し、魔族を滅ぼしたことにより導かれた答えは、人間族の頂点を決めるかのような戦い。敵として叩くか、協定を結んで国を大きくするか。これならば、こんな人間族の姿ならば・・・竜族の侵攻の方がましだったのかもしれないと―」

皆、黙って耳を傾けていた。

「同族で殺し合うのが常だなんて種族は人間だけだ。それを止める為に、俺は魔王になった。けれども結果は振り出しに戻っただけ。うまくいかなかった。だから今度は、人間として世界を治める。」

独裁者にでもなるつもりか、という疑問をガイアが声にした。

「人間族を全滅させるかい?それとも勇者達を片っ端から潰すかい?」

「領土拡大に動いているのはいわゆる大国が中心だ。戦争を行っている大きい国から占領していく。俺達で統治して、勝手な戦争を起こせないよう法で縛る。あとは各国の王なり長老なりが今まで通りやればいい。」

気持ちとやりたいことは伝わったが、焦っているのか、ローグ。具体性に乏しい。思い付きで理想を追うに等しい力技だ・・・・・・この時はそう思っていた。

 食堂の世界地図が魔界の物から人間界のそれに張り替えられていた。そして地図上には赤い点が3つ。まだローグは我々に何も宣言していないが、この3ヵ国を落とすということだろう。

ローグも人間界を回ったと言っていたから知っていようが、現在の人間界の戦争は1年前と様変わりしている。その国の戦力イコール傭兵の強さイコール雇った勇者一行の戦闘力である。より強い勇者をより多く兵隊として獲得すること。一般兵の出る幕はない。また、それなりのレベルに達した勇者の前では、ヘリも戦車もミサイルも無力。攻めるも守るも勇者達の殺し合い。国王含め、一般人は見てるだけ。

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