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大山鳴動➅

 グレヴィルとザガルが同時に動いた。遠くで見ているスライムまでその衝撃と熱波が伝わってきた。遠くで見ているスライムまでその衝撃と熱波が伝わってきた。そこに正面から挑まんとする2人。正直、馬鹿すぎる、あまりにも。

 ローグとガイア、2人の敗北はこの戦争の敗戦を意味する。それは人間族の消滅の危機。ひとつの敗北がその後2つ、3つの負けを確定させる。取り返しがつかなくなる。それが何かを背負うということ。誰かを守るということ。全てを消してしまえばいいじゃないか。そうすれば戦争なんて起こらない。誰も怒らない。力あるものにとってあ最も手っ取り早い方法。しかしそれでは意味がない。ならば消すのは半分にするか。違う、そういう問題ではない。人間が自ら解決しなくちゃならない。ならば、その見込みはあるのか。現状、まるで期待できない。全く・・・人間族とは一体何なのだ。それは、地上における希望の星であり、諸悪の根源。

 レーザー光線は大地を抉り(えぐ)、火柱は2体の竜も含めた一帯を飲み込んだ。無論、2体の竜に異変はない。問題はローグとガイア。火柱が消失して後、元の場所に2人の姿はなかった。竜共も人間という小さな虫を探しているが、一度見失った蚊蜻蛉(かとんぼ)を再発見することは案外難しい。たとえ自分のすぐ近くにいたとしても気付かない。

 ローグとガイアはグレヴィルの背に乗っていた。最も安全な場所は、そこだろうな。真っ向勝負と見せかけて敵の攻撃を誘発し、裏を取る。完璧だ。そして長剣と大剣がグレヴィルの背を貫いた。突き立てた2本の剣が稲妻となって、火炎竜の背から地面に貫通した。


 次元竜―意のままに空間を操り、移動や攻撃を繰り出す竜族。数百年前に起こった竜族同士の衝突で滅んだと言われていた。

 突如、戦場に現われたもう一匹の竜。その襲撃が全てを飲み込んだ。グレヴィルもザガルも、ローグもガイアも。スライムには何が起こったのか分からない。とんでもない地響きがこちらにまで伝わり、半ば無理矢理ティナを目覚めさせた。

「ありがと、スラちゃん。もう、大丈夫よ。」

ローグとガイアは明後日の方向に吹き飛ばされたようだ。砂埃で戦場が見えない。戦況が判別できない。何がどうなったのか、理解が追い付かない。

 残された竜は一匹だけ。それは新たに現れたドラゴンで、グレヴィルとザガルは消失してしまった。そしてローグとガイアの姿も見えない。まさかの不安も過ったが、その点はすぐに解消された。2人仲良く天に逃れていた。咄嗟にガイアが大盾を構え、障壁も作り出して直撃を回避した。その隙に乗じてローグがガイアを抱えて空へ緊急非難。今は片手を繋いでゆっくり降下。そこでの違和感―ローグに翼が生えている。真っ黒な、烏のような羽根だ。名実共に魔王というわけだが、そんな些細な事象はどうでもよくて。

「真打登場ってとこか・・・上等じゃねぇか。」

「ガイア、ちょっと待ってて。あの竜は多分、俺の会った族長だ。」

そう、族長が参戦してきた。全ては奴の掌の上、ということなのだろうか。

 

 「どういうことか、話を訊かせてもらいたい。」

地上に降り立つと、ローグが単独で族長に歩み寄った。翼をもった者同士が接近し、ローグがふわりと浮かび上がって族長と目線を合わせた。あの時との違いは、ローグの目付きが鋭いこと。先程との違いは、ローグもガイアも明らかにダメージを負っていること。族長が答える。

「主等が人間族だからじゃよ。魔王と言えど、我々竜族が人間に敗れることがあってはならない。許されない。」

親族と同等もしくはそれ以上、少なくとも神格化される竜族。

「だから族長が自ら出向いて、俺達と戦う・・・と。済まないが、貴方単独で勝ち目はない。」

「いや、残念ながら・・・・・・既に手は打ってある。」

どういうことか。形勢はこちらが有利。敵の援軍も見えない。同胞を消し飛ばしたのが策ということはあるまい。

「抵抗すれば人間界に総攻撃を仕掛ける。結界は破壊し、全軍を集めておる。」

刹那、ローグの思考が止まり、ガイアの闘争心が落着した。

 竜族も堕ちたものだ、とは思うまい。族長として種族間戦争に負けるわけにはいかない。如何なる手段を用いても同胞を勝利に導く。百戦錬磨―敵に悩み、考える時間を与えない。惑い、迷い、引いた瞬間を見逃さない。動かない2人にすぐさまブレス攻撃を直撃させた。

 族長は3つの嘘をついた。ひとつ、永く生きたから族長の座に就いていること。ふたつ、人間界に総攻撃を仕掛ける準備をしたこと。みっつ、他の竜族に干渉していない。

 人間を守る。その想いが強すぎるから、あんな単純な出まかせに引っ掛かるのだ。頭の出来では勝ち目がないのは分かっていたが、やはり学びは大事である。


 族長の2つの能力。次元移動は、要は瞬間移動。山のてっぺんから戦場まで一呼吸の間に到着できる。そしてブレス攻撃の名はギルバード=ストーム。横殴りの竜巻を対象にぶつける技だが強風だけだと侮るなかれ、雷撃も含まれた総合属性。贅沢な。

 あぁ、そうそう・・・・・・族長の最も下らない嘘を忘れていた。年齢査証。さほど長生きしとらんよ、奴は。若いとは言わないまでも、戦闘能力が大きく衰えるほどには老いていない。そんなドラゴンからまともに至近距離で攻撃を受ければ、ダメージな甚大。むしろダメージで済めば幸運か。


 立てない。立とうとはしているから意識は保っているはずだが、身体が言う事を訊かない。勝利を確信した族長が歩を進める。一歩踏み出すごとに大地が揺れた、まるで抗う2人を邪魔するように。それなりに吹っ飛ばされたローグとガイアだったが、間もなく族長が距離を詰め終えた。改めて言うまでもないが、何とも小粒な人間族に対して、竜族の巨体。絶望的な格差をこれ程分かり易く表す構図もあるまいて。

「終いだ、人間族よ・・・」

再度ギルバード=ストームが放たれる―次元がゆがんだわけではないが、空間移動は竜族の特権であない。両者の間に割って入った、族長の目の前に現れたのはティナ。出現と同時にローグとガイアを回収し、一瞬でスライムの元に戻ってきた。口を開けたままのドラゴンはさぞかし間の抜けた面だったろう。一難はどうにか逃れられた。

 「今、回復を―」

そういったティナを2人が遮った。掌で言葉を塞いだ、平気だと。ティナとて他人の面倒をみるだけの余力は残っていない。いないのだが、ぼろ雑巾の様な魔王と黒騎士で太刀打ちできるのか。族長イコール最強という方程式は成り立たないが、仮にも種族の頭。弱いとか、そこそこの強さということは戦場に赴いてきたことを考慮しても、ありえまい。高みの見物から戦況を見据えて出てきた族長。用心深く、頭も切れる。ならばどうする・・・・・・逃げの一手ではないのか。

 

 人間界への総攻撃は、生きていれば手を打つことができる。生きてさえいれば。だから死んではいけない。全てが終わるからではない、全てを終わらせる為にお前が必要だからだ。

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