大山鳴動⑤
「邪魔だ、スライム。」
そう言われても困る。ザガルと対峙した所で、恐ろしさの余り腰が抜けてしまったかもしれない(スライムに腰はないが)。
スライムの特殊能力は至極単純、力を溜めること。力を解放しなければ寝ても覚めてもいつ何時でも力が蓄積されていく。上限はない。また必要に応じて力を小出しにすることも可能(鬼の尻に火を吹いてみたり)。最弱のスライムとて百年の時を経れば、竜族の魔王を一発で消し去ることができた。その際に全ての力を使い切ってしまった。今のスライムには何も残っていない。悲しいかな、ザガルの言う通り。邪魔なのだよ、竜族にとっても、此奴等にとっても。
ザガルが口をあんぐりと開ける。そこにエネルギーが溜まっていく。どんな攻撃がくるか容易に想像できる。全てを賭して護衛に徹す。短い期間の微々たるエネルギーを障壁に。範囲をスライム一匹分、倒れた娘一人が収まる極小に絞り、亀のように甲羅に籠るしかない。
ためらいもなく、何の感情もなく、まるで溜息でもつくようにレーザー光線を吐き出した。スライムが絶えられたのは数秒―渾身の甲羅が溶けていく。かき氷に液体をかけるみたいに溶けていく・・・解けていく・・・・・・融けていく・・・・・・
「頑張ったな、スラ坊。」
「寝るな、馬鹿たれっ。しゃんとしねぇか。」
誉められているのか怒られているのかはさて置き、溶解が止まった。そのまま後ろに転がり、ティナに当たって止まった。やれやれ、結局いい所を持っていかれてしまうのか・・・許す。許してやるからそこの若いの、しっかり持っていけよ。
ローグとガイアが壁となり、ザガルの攻撃を受けて立つ。弾き、跳ね返すのではなく、受け流す。無属性の攻撃は盾によって引き裂かれ、二股に別れて流れていった。レベルは元に戻ったはずだが、十分に竜族と渡り合える。2人共、攻撃を防ぎながらじっとザガルの獣の瞳を睨み続けていた。まるで恐竜を威嚇する小人だ。次第に攻撃は弱くなり、息を吐き尽くした所でレーザー砲が消えた。攻守交代。
後ろで仲良くくたばっている時に、最初の一手は決めていたようだ。まぁ、手ではなく足だったが。反撃の口火、息ぴったりの2人同時の蹴りでザガルをぶっ飛ばした。穴に落とそうとしたのかは分からないが、ティナの開けた大穴を越えて尻もちをついたドラゴン。そこへ、追撃はない。その代わりに、2本の親指がくいくいとこちらを指した。スライムよ、地獄に堕ちろという合図かと思ったが、親指は下を向いていない。真意はすぐに伝わった。確かに寝てる場合ではない。ティナを安全な場所へ―こんなことしかできない。しかしこんなこともできないようなら、まさに邪魔者以外の何物でもない。ティナを背負い(もちろん半分潰れながら)、背を向けて走り出した。
雨が止んだ。ティナは気を失ったまま。スライムの微々たる回復魔法では天女のようにうまくはいかない。己の力不足が情けなくなる。
ザガルが起き上がるのとタイミングを合わせるように、グレヴィルも穴から戻ってきた。両者共にダメージはなし、か。どっこい、ローグとガイアにもこれといった外傷は見当たらない。仕切り直し―数日前、夕飯を摂りながらティナが2人に教えてやっていた。竜族は想像上ほど器用な種族ではない。手数というと意味合いが異なってくるが、攻撃手段に乏しい。特殊能力を有する単体もいるが、殊に戦闘タイプは2種類。2つの技を見切れば、そこが付け入る隙になる。絶対とは言い切れないが、落とし穴にならない程度に意識して損はない。でなければ勝てるものも勝てまい。グレヴィルは火炎砲と火柱。ザガルはエネルギー砲ともうひとつ。奴等なら、1度見た技を見切ることは難しくないはず。味方諸共、人間を消そうとしたことが徒となった。少ない手数を安易に晒しすぎた。
正攻法はスピードで攪乱することだが、ガイアだけでなくローグも歩いて間合いを詰め出した。いつものような速足ではなく、ちんたら且つどっしり。正面から遣り合うつもりか。それとも何か掴んだか。ローグがグレヴィルの正面、ガイアはザガルと面と向かった。おやおや、本当に1対1をおっ始めるらしい。ごちゃごちゃ小細工を弄するのではなく、早々に決着をつけに行く。ローグは居合いの構え、ガイアは大盾を背中に背負い、大剣を中段に置いた。正面から仕留めにいく。
仮に敵の攻撃、敵が何をしてくるかが分かれば、実力にかなりの開きがあっても相応の対処ができる。実力差が小さければ、勝ちに近付く。そりゃ、エスパーでもない限り、他人の次の行動を言い当てることは不可能。けれども行動の選択肢を限定することで敵の次の一手を見透かすことができよう。相手の引き出しが少なければさらに精度が増す。
ザガルの構内にエネルギーが溜まり、グレヴィルの全身が深紅のオーラに震えている。ザガルはガイアへ無属性の砲撃を、グレヴィルはローグへ、そしてあわよくば横のガイアも巻き込んで、火柱の昇り竜を喰らわせる。どちらも痛烈な一撃だ。わざわざ予測できる敵の攻撃を受けて立つのか。どうにもあまりに、馬鹿正直ではないか。




