大山鳴動④
2匹の竜は尻尾を引きずりながらゆっくりとティナに近付いてきた、雨を一緒に引き連れて。ティナもすぐ様ずぶ濡れになってしまった。美しい浅紅の髪が、血とも炎ともとれる緋色に染まる。こちらの狙い、時間稼ぎは丸見え。そして人間族の特徴を、還元したくはないが弱点を、よくよく理解している。仲間や身内の死に耐えられない。機能を戻す為に時間を要する。ティナが動けばローグとガイアを潰す。ティナが道を譲らなければ順番が変わるだけ。九十九か百か、好きな方を選べというわけだ。悲しいかな、歩を進めた魔導士ほど無防備で危うく、脆い者はない。
ティナの抵抗。その瞳は決して怯えていない。心がしかとそこにある。兎にも角にもデコイで竜の目を惑わせる。それでいい。敵を攻撃する必要はない。身の安全を確保しつつ、時間を稼げばいい。何十人もの天女が2匹の竜を囲うように踊る。攻撃はしない。ダメージを与える必要はない。竜の気を引いて、2人が復活するまで耐えきることができれば、バトンを渡せる。そんな道筋が見えた時、再び火柱が昇った、デコイ全てを巻き込んで。幻は一瞬で消滅、そして上空から本物が降ってきた。辛うじて着地はしたが、炎のダメージを受けてしまった。羽衣で軽減はできたが、その割合は軽微なもの。魔導士にとって、やはり竜族との近接戦闘は分が悪い。ついでに無属性の方のドラゴンは炎耐性があるようで、火柱に巻き込まれてもダメージがない様子。だから火炎竜の横に立っているのだが、これもまた厄介である。
着地して片膝をついたティナだったがすぐに顔を上げて、間近に迫った竜と距離を取るべく後退した。無意味な間合い管理ではあるが、巨大なドラゴンと面と向かって遣り合うことはできない。
火炎竜はグレヴェル。無属性の方がザガル。それなりに名の知れた竜であり、決して邪竜、悪竜というわけではない。その2匹が取った選択は、まずは天女を排除すること。
頭を整理しろ。現状を把握しろ。心を決めろ。できることとできないことを明確化し、最優先事項に着手しろ。できなければ死神が背中について回る。
ティナの前方に炎のグレヴィル、後方に無のザガル。虎と狼が愛しく思えてしまう。
「終わりだ、娘。」
グレヴィルが宣告した。しかしティナも負けずに返す。
「体が大きいと、足の先まで視線が届かないのかしらね。」
どうやら人間というのは転んでもただでは起きない者が多いらしい。ティナは着地をした際、地面に細工を施していた。ティナの嫌味通り、竜の目には映らなかったか。ティナが立ち上がると、グレヴィルの足元が音を立てて崩壊した。ティナの足元も落ちていったが、ティナは既に浮遊していて事無きを得た。その穴は奈落まで続く深さで羽ばたく間も与えずグレヴィルを飲み込んでしまった。人間族の抵抗に、背後のザガルが前脚を振ったが空振り、ティナが天へ舞い上がる方が早かった。膝を付いた時にでも魔法陣を描いたのだろう、まんまと炎の竜を落とし穴に放り込んでやった。それでも大したダメージはないだろうし、いずれ飛んで這い上がってくるだろうけれども、一矢報いてやった。さらにティナは残ったザガルの頭上に舞い上がり、一瞬で法力を蓄え、法術の構えを取り・・・・・・白い光が散った。無属性の射撃がティナを呑みこみながら天へ昇っていった。
逆転―ティナが地面に落下した。今度は墜落する形になったが、地面すれすれで一瞬浮力が働いたように見えた。羽衣の力か・・・もっとしっかり守らんか。抵抗できるのはスライムのみ。現在の力で何ができるのか。けれども今を失いたくない、失わせたくない。




