大山鳴動②
ティナが補助魔法をかけて、ローグとガイアが突っ掛ける。毎度お馴染み、そしてこれしかない。ティナと一緒に後方で見守るスライムの目からは、竜の群れに呑みこまれて2人の姿は消えてしまった。ドラゴンの膝下以下の背丈しかない人間が頭から突っ込めば、まぁそうなるか。外側の敵からとか、そういう考えはないのだろうか。どうして敵陣の中央に切り込むのか理解が追い付かない。時折わちゃわちゃ、がちゃがちゃ響いてはくるので、まだ踏まれたり叩かれたりはしていないみたいだが、あんな密集地帯に乗り込んでどうするつもりなのか。飛んで火にいるとはこのことだ。無鉄砲もいい所だと呆れかけた時、ふと別の疑問が浮かんだ。密集状態の竜共はどうやって戦うのだ?火を吐く訳にはいくまい。尻尾も振り回せない。
もしも人間の攻撃を侮っていたならば、あっけなく片が付く可能性もある。侮っていなくたって、その可能性があるのに。
しばしの間は見てるだけ。どうなっているのか、何が起きているのか、戦況の詳細はここからでは分からない。ローグとガイアが竜の群れに埋もれて束の間、音沙汰はなかった。何もしていないはずはないが、小人の攻撃など巨人の前では波風を立てることすらできないのだろうか。騒いでも上から簡単に押さえつけられてしまう。一方、隣のティナはというと、腕を組んでじっと、離れた戦場を見つめていた。人間族の家族という組織は詳しくないが、なんかこう子供の活躍を期待と心配を胸に応援する母親像を連想させられた。その願いはささやかなもの。無事に帰ってきてくれること、再び温かい食事を囲むこと。
戦況が動いた。突如、戦場に火柱が昇った。かと思いきや、柱なんて代物じゃない。火山でも噴火したのかという炎が密集地帯から溢れた。これを見たティナは腕組みを解き、羽衣が輝きを放つ。法力を解放して参戦の準備を済ませる、いかなる戦況にも対応できるよう。そういえば、ティナはいつの頃からかロッドを手にしなくなった。物理攻撃力は期待できないが、いわゆる法力の増強装置。持っていて損はないはずなのだが、その役割は羽衣が担っているのだろうか。
開戦間もなく地獄絵図の景観を醸し出した竜国。落雷に火山爆発、暴れ狂う巨大な竜。そこから2人が戻ってきた。
「大丈夫?2人共。」
ぱっと見、怪我はなさそうだが、それなりに険し表情で舞い戻ったローグとガイア。規模は小さいが戦争の真っ只中だからへらへらされても困ってしまうが、似合わぬ真剣な表情をされるとそれはそれで不安がよぎる。そんなスライムの感情を真っ向から否定するように地響きが轟いた。次々と竜達が倒れていく。派手な音を立てながら開戦早々結構な数を減らした。
「野郎・・・・・・」
ガイアが厳しい顔のまま吐き捨てた。敵の攻撃に対してあまりこういう目付きはしない。大抵は笑いながら、やるじゃねぇかと構えを改めるのだが。
「敵、味方関係なく仕留めようとしたんだと思う。俺もガイアが守ってくれなきゃ丸焦げだった。」
「抜かせ、お前ぇなら炎よりも速く宙に逃れられたろうが。」
僅かにガイアの目が笑ったか。何やらごちゃごちゃ喋っているが、分かったことが3つあった。1つ、やはりこの2人は桁違いに強い。相手が勇者だろうと竜族だろうと関係ない。2つ、火柱を上げたのは竜族で、味方のドラゴン諸共潰しにかかった。そして3つ。
「こっからが本番だ。ティナ、お前ぇは距離を取りながら援護しろ。俺とローグで間合いを詰める。」
「よし、残り3匹だ。」
スライムとて引き算はできる。一瞬とも呼べる短時間に27体もの竜を倒したというのか。身体の大きすぎる竜族が近接戦闘に不向きなのは確か。だがしかし、それはあくまで相手がドラゴンを脅かす程の圧倒的近接戦闘能力を有している場合。具体的には竜の手に負えぬスピードと、竜の鱗に負けぬ攻撃。そして、その条件を満たすのがローグ。そこにパワーはもちろん、何やら怪しげな特技を身につけたガイアと、羽衣に奥の手を隠し持つティナ。だから竜族の攻撃が遠距離砲に切り替わったことは、賢明な判断だった。無属性球、無属性砲、火炎噴射―攻撃の種類はこんな所か。
前進しながら遠距離砲をかわすローグとガイア、後方へ退避しながら回避するティナとスライム。やはりドラゴンはその場から攻撃を仕掛けてきた。後衛の我々が砲撃をかわすことは難しくない、距離さえ保てれば。同時にこちらの攻撃も効果は薄いだろうが、それは2人に任せるしかない。そのローグとガイアは危険を顧みず(ちょっとは安全策を取ってほしいものだが)、前進しながら攻撃をかわし、軌道を変え、跳ね返す。
強すぎる―勇者一行が束になっても敵わない訳だ。ギードが魔王への転職を渋らない訳だ。竜族に引けを取らない。あの時点よりも、この短期間で数段レベルアップしている。勝てる。人間界を守れる。人の未来を変えられる。私の目に狂いはない。生き永らえた歳月は竜族の長にも劣らないのだから。
加えてティナに油断はなかった。遠方から狙っているのか流れ弾か、飛んでくる遠距離砲をかわしながら、羽衣の光を絶やすことなく、隙を見逃すまいと戦況を見つめていた。隙?竜族の隙?そんなもの幾ら見逃したって痛手にならない。圧倒している、竜族を。もっとじっくり時間をかけて戦うかと思っていたが、その必要もなさそうだ。このまま押し切ってしまえばいい。御親切に相手の反撃を待つ必要もない。我々の援護が必要なければそれが一番いい。ほれ、今もまたもう一匹、竜が倒れた。残すは2匹。疑いの余地はない。この戦争、勝った。




