大山鳴動①
【仲間モンスターとして勇者に同行するスライムと、大山鳴動】
『1週間ほど、留守にします。またのお越しをお待ちしております』。この張り紙を門に張ったら出発の準備は完了だ。
「んで、ローグよ。何だこのふざけた紙切れは?」
ローグのボケにツッコむのがガイアの仕事になってしまった(ローグの場合は天然なのだが)。
「ほら、会いに来てくれた勇者に悪いからさ。一応留守にしますって―」
「んなもん要らねぇだろう。捨てちまえよ。」
「えー、せっかく書いたんだし、俺なりの親切心というか・・・」
「分かったから、ほらっ、2人共。下らない事を喋っていないで、出掛けるわよ。全く、少しはスラちゃんを見倣ってほしいわ。静かに落ち着いて待っているじゃないの。」
ティナの静止で戯れることを止めたローグとガイア。誉められたところすまないが、決して心穏やかに待機しているのではない。緊張と恐怖。竜国に戦争を仕掛けるということを。果たして馬鹿2人は分かっているのだろうか。
例の如く、転送魔法にて一瞬で到着。竜国の一角と言っても、実に広大なものである。見渡す限り何もない。竜の姿も見えない。静かに荒野が続く、一戦交えるには絶好の空間だった。
「何でぇ、誰もいねぇぞ。」
「待ち構えて奇襲なんてしないわよ。誇り高い種族だもの。」
「ずっと向こう。遠くに物凄い気配を感じる。」
「あちらさんも準備はできているってことだな。どうするローグ、すぐに向かうか?」
「うん、行こう。竜族を止める。その為にこの戦争を仕掛けたんだ。後戻りはできない、そう言い訊かせるように、道を断ち切るが如く、呪文を唱えた。『我は命じる、魔王の名の下に。人間界を守るべく、竜族を止めよ』。」
ローグ、ガイア、ティナ、そしてスライムの体が光に包まれた、最もその色は灰色とも薄紫ともいえる輝きだったが。とりあえずは良かった、スライムも忘れられてはいなかった。
勝ち目はあるか―まずは竜族の数だ。一族総出で無数のドラゴンと戦うことになっては、さすがにどう足掻いても返り討ち。そもそも戦おうという選択肢はない。しかし戦うのは結界を剥がさんとする限られた竜族のみ。その数30。数が数えられるだけで絶望は避けられるものだ。数知って尚、手を打てぬなら、それはもう手に負えまい。
続いてこちらの戦闘力。3人共、魔王軍を連れて行くという発想はなかった模様。数で押せば可能性は高まった。だが、3人にその選択肢はなかった。各々に理由はあろうが、幹部3人との実力差もその1つ。転職然り、稽古然り、ローグの特殊能力然り、ティナの法力然り。これらを加味すると、はっきりとした足手まといなのだろう。本番に連れていくことはできない。帰りを待ってくれればそれでいい。帰る場所があるということは、それだけで生き続ける覚悟になる。
幾らか距離を縮めれば、しかと竜達の姿を確認できた。ガイアとティナを置いてローグが独り、竜族の下へ歩いていく。
「人の子よ。3人で我々とやるというのか?」
「はい。どうしても人間界へあなた方を通すわけにはいきません。どんな手を使っても阻止します。」
「ふむ・・・・・・『どんな手を使っても』が、3人なのだな。」
「切札は取ってありますよ。」
「確認だが、主が魔王で違いないのだな?」
「風格と証拠はありませんが、紛れもなく、現魔族の魔王は私です。」
「よかろう。いつ仕掛けてもらっても構わん。もう2度と言葉を交わすこともなかろう。始めよう。」
そんな遣り取りを経てローグが戻り、一言。
「開戦だ。どっからでもかかって来いってさ。」
人間界を守る為とはいえ、3人が気乗りしていない雰囲気であることはスライムにも十分伝わってきた。それでも戦わねばならない。仕事だからな、気分が乗らないのでやりませんなんて言い訳は通用しない。どんな仕事にも裏がある。汚い面がある。当事者になってそこが許せないのであれば、きっとその仕事が自分には向いていないのだろう。人間を守ること、それが最優先事項だから、その為にはいかなる代償も支払う、もしくは支払わせる。気乗りしない?馬鹿が、腹を括れ。そう発信したのはガイア。迷いや気後れを吹き飛ばす一撃だった。
「時間がなくてな、こんなモンしか身につかなかった。」
ガイアが軽く大剣を一振りすると、馬鹿でかい衝撃波が竜達へ飛んでいき、同時に空から4本、5本の雷が落ちたようだ。竜に直撃したかは遠くて分からなかったが、とんでもない技を伝授されたものだ。教える方も教える方だが、受け取る方も受け取る方だ。本来は稽古でどうにかなるものではないのだが。
「す、凄いね・・・魔法なのかな。雷が落ちていたみたいだけれど。」
「別に大層なもんじゃねぇよ。帰ったらやり方教えてやるよ。さ、挨拶はこんなもんでいいだろう。始めるか。」
ギードの奴め、そう問うガイアの事を気に入ったのだろう。その才覚に可能性を見出した、そんな所か。娘が一緒なのだから当然と言えば当然なのだが、死なせたくないのだ、この3人を。




