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異端邪説⑪

 

 見下ろす者と見上げる者。首への負担は後者の方がキツそうだ。

「遠いな・・・空は飛べるか、人の子よ。」

以前も感じたことだが、竜族の声というのは重く低く、それでいて不思議と訊き取り易かった。こくりと頷いたローグの姿が竜に目視できたかは不明だが、黙って浮かび上がり、目線を合わせた。

「今日はお願いがあってお伺いしました。時間が惜しいので、単刀直入に申し上げます。人間界への侵攻を考え直して頂きたい。」

演説の効果だろうか、特異な環境でも平常心を保つローグであった。

「ひとつ・・・訊かせてくれんか。」

「はい。」

「竜族と人間族が戦を起こしたら、どちらが勝つと思う?」

至極簡単な質問にも関わらず、内容を理解するのに時間を要した。質問の意図が分からない、どうしてそんな意味のない、という疑念も湧いたが、目を閉じシミュレーションを行うローグ。その結果を答えとして報告した。

「竜国を戦場とすれば竜族が勝ち、竜族が人間国へ攻め入るのならば人間族が勝つのではないでしょうか。」

どこか他人事みたいに喋るローグだったが実際の所、現在は魔族の魔王である。

「ほう・・・その心は?」

「単純な試算です。城を崩すには3倍の戦力が必要と言います。竜族と人間族の間に3倍の差がないと判断しました。だから仕掛けた方が敗れ、国を失う。」

小人が神に向けて説教をかましているみたいだ。果たしてどこまで見越した発言なのだろうか。目の前の戦争か、二手も三手も先の未来か。




 ローグの期待した返答は得られなかった。最初から実らない交渉であることを、ギードやティナは知っていたのかもしれない。ただし、決して関係が悪化した訳ではない。族長は詫びながら話をしてくれた。

 他の者の行動に干渉することはできない。たとえそれが他国に危害を加える行為であっても、魔王となって他国を支配するものであっても、客人を手荒くもてなすことであっても―怪我がなさそうで何よりと付け加えた。竜族における族長とは、単に1番生き永らえている者を表すに過ぎない。特異な能力を持っているわけではなく、特殊な権限を有していることもなく、特別な敬意が払われる云われもない。人間族の敵となる、結界を破ることに執着している竜族は決して多くない。また、そういった者を他の者が敢えて止めるということもない。竜族が一枚岩などということは幻想。他種族と何も変わらない。族長の私が君達に協力できることは、竜国の一角に戦いの場を設けることくらい。邪魔立てはしないし、何が起ころうとも責任は負えない。君達の敗北が、人間界にとって致命傷になろうとも。


 一歩前進したような、何の進展もないような。成果はと訊かれると困ってしまう、複雑な心境で下山を始めたローグ。腕組みしながらとぼとぼ(とぼとぼというスピードではないが)と。当然の如く足やら尾やら火の球が降ってきたが、姿勢も表情も変えずにかわして、最短経路を下っていった。遊びや気まぐれを排除した、とてつもない集中力。族長と会ったことは無駄ではなかった。仮にも上に立つ者、常々、大なり小なりの決断を迫られる。戦いの場を用意してくれるというだけで有り難い成果だった。迷う暇も必要もない。ガイアが戻り次第、竜国へ向かう。ただその前にひとつ、困ったことがある。ローグは転送魔法が唱えられない。とにかく下山して、ティナの迎えを待つしかなかった。

                                    【異端邪説 終】

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