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異端邪説⑩




 竜国。ローグは初めて訪れた。国と言っても、別に家やら城が並んでいるわけではない。

「じゃあ、ローグ。この山の頂上に族長さんがいるはずだから。頑張ってね。」

「どうせなら頂上まで転送してくれればいいのに。」

「それはこっちでは礼儀に反する行為なのよ。だから私が送ってあげられるのはここまで。大丈夫、話は通してあるから安心して山頂を目指しなさい。」

「は~い。」

不安しかないわな。

「じゃ、道中気を付けてね。」

そう言って、ティナはすぅっと消えてしまった。後戻りの道が無くなったローグはとぼとぼと歩き出した。

 初めは良かった。ローグであれば苦にならないくらいに険しい道のりだった。尤も道のりといっても道などは作られておらず、また斜面も急で足場が悪いことなど、ローグにとっては何の障害にもならない。常人には考えられないスピードで山を登っていく。跳ねるように進んでいく。人を寄せつけぬような山岳の背面遥か遠くには、美しい平野と湖が日の光を浴びて、キラキラと輝いていた。竜族が人間界を所望する理由も分かる気がした。理由というよりかは本能的なものだろうか。そっくりなのだ、かつての人間界に。そして竜族であれば、かつての姿に戻す為の下準備にはそれほど時間はかかるまい。目の届く範囲であれば一息、二息で事足りる。

 とはいえさてさて、中腹からは地獄絵図。唐突にドラゴンが姿を見せ始めた。否、突如姿を現したのはローグの方で、ドラゴンの棲家に足を踏み入れたというのが正しい。そんな不法侵入者を見過ごすはずはない。もちろんローグの方からちょっかいを出すようなことはしていないが、ドラゴンの面々からは痛烈な攻撃をかまされた。火球を吐く竜、踏み潰さんとする竜、尻尾で払い退けんとする竜。殺意剥き出しで仕掛けてくる。そりゃそうだ、家の中にあぶらむしが湧けば全力で殺しにかかる。相手の目的や攻撃性の大小なんて関係ない。たとえたまたま通りかかっただけだって、問答無用に抹殺を試みるだろう?うろちょろする輩が悪いのだ。加えて、そういう奴に限って妙にすばしっこい。ローグもひょいひょいと攻撃をかわしながら、隠れながら、消えながら、山頂を目指すのだった。

 道のないことは、ローグにとって幸いだった。迷う心配がない。とにかく上を目指せば自然と頂上に、目的地に辿り着けるというのは、精神的負担を随分と楽にした。道を間違えたかもしれないという、あの独特の恐怖心から解放された。さらに、ドラゴンの攻撃もローグから言わせれば大雑把。被弾すれば大ダメージは避けられないが、当たらなければ・・・そういうことだ。敵の攻撃力の大きさに動きが鈍るなんてこともない。それと、体が大きすぎるというのも考えものだ。小さき者からすれば死角へ簡単に潜り込めてしまう。逃げ回るだけならば、さほど難しくない。近寄らないようにすればいい。あくまで一定値以上の戦闘能力があれば、の話である。


 大樹。頂上には天をも貫きそうな巨木が一本、何物にも邪魔されることなく、下界を見下すように立っていた。何もない所に一粒の種子が舞い降りたのか、数々の樹々の中で唯一生き残ったのか、周囲の樹を犠牲にしての現在か。ともかく、ローグの何十倍、何百倍も生きてきたことは間違いない。鬱蒼(うっそう)と茂る深緑の葉からは、まるでその1枚1枚が命の源であるかのような力強さを発していた。そんな大樹の前では、一匹の竜族の族長も小っぽけな存在でしかなかった。そしてそこを訪れた人間なんぞ、その葉1枚にも満たぬ幼い存在。相互に御供の者もなし。一対一(さし)での話し合いの場が設けられた。

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