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異端邪説⑤




 「人間族の諸君、新しい世界はいかがだろうか。破滅と壊滅と滅亡の世界、楽しんで頂けているかな。有難いことに、全てが我々の計画通りに運んでいる。これを邪魔しようと、諸君の希望の光である勇者達がしばしばこの魔王城に足を運んでいるようだが・・・この3ヶ月、私の元まで辿り着いたパーティーは、ゼロだ。ただの1組も、私の配下にすら勝てないというのが現状だ。この意味が分かるかな。諸君にとっては実に面白くない話になるが、最上階で待ちくたびれる私を余所に、これまで訪れた全てのパーティーが1階で全滅しているのだよ。」

例の骸の仮面を被って演説を行うヴァグナード。板についてきたなんて口を滑らせたら、さぞ悲しい顔をするだろうな。けれども望む、望まないに関わらず与えられる適性。それが才能。資質。魔王たる資格があるということ。なんて誉めたら、さぞ傷付くだろうな。

 「そこで・・・だ。別に敵の城拠点を堕とさんとするのは君たち、人間族の特権というわけではない。配下のモンスター共が暴れたりないと文句を言うのでね、これまで以上に手を加えようかと思う。どういうことか―我々の国を人間界に創る。」

ヴァグナードの一言と同時に画面が巨大な壁掛けを捉えた。魔王が食堂で偉そうに演説していると知ったら、さぞ人間族も驚くだろう。裏側を見てしまうと人間臭くて笑えてくる。魔王が可愛く見えてしまう。

「こちらの地図をご覧頂こうか。赤い印が見えるだろうか。ここに我々の城を築き、そこを拠点に国を興す。私の配下を派遣するし、近い将来、諸君も我々の手足となって働いてもらう。せいぜい家畜程度には扱ってやるから安心したまえ、アーッハッハッハッハッハハ・・・・・・」

怒りと恐怖は共存できない、殊に弱い人間においては。はてさて、今の段階でどちらが多いのだろうか。それはそうと、誰もいない食堂で独り練習している姿を見てきた者からすると、大変よくできました、となる。


 演説と一夜城、どちらが驚いただろうか。朝起きたら一晩の内に、音もなく魔族の砦が建っていたのだから。

 徹夜だったローグとティナはまだぐっすりだ。ティナが明かりを灯しながら現地まで、城とローグを連れて転送し、到着したらそこにローグが魔王軍を召喚する。中ボスクラスと一般モンスター。一連の作業は言葉で記すほど短時間では済まないし、2人共かなりの法力を必要とする。誰彼問わず遂行できる任務ではないし、やろうとも思わない。厳密に言えばやる必要もない。一晩で全部片付けなくともよいのではと考えるのはスライムだけで、2人は何の迷いもなく計画通り完遂した。

 前日の内にティナが作り置きしてくれていたので、ガイアとスライムが朝食を喰いっ(ぱぐ)れることはなかった。午前中はガイア独りだ。そしてこういう時に限って非日常というものがやってくる。タイミングが悪いのか、日頃の行いのせいか。

 朝食後はいつも通り1階の闘技場へ降りた。今日は勇者が来るのか来ないのか、日々中ボスとしての役割を果たすガイアであった。ローグやティナにわざわざ伝えるようなことはしないが、この役目、退屈はしない。定期的に身体を動かせることはもちろん、色々な職業(ジョブ)に出会うことができた。見慣れた者がほとんどだったが、中には見たことも訊いたこともない輩もいて、思わぬ苦戦を強いられることもあった、ごく稀に。また、知らないジョブについては夕食時に報告する約束になっていた。面倒だなぁ、なんてぶつくさ言う事もあったが、2人の知らないことを教えてやるのは悪くない気分だったはずだ。3人共にそれなりの熱量をもって盛り上がっていた。前職の酒場での弾み方とはまた一味違っていた。


 「ほい、邪魔するぞ。」

今にも寝落ちしそうだったガイアの目がカッと開き、胡座(あぐら)を解いて瞬時に身構えた。

「転職の・・・館の・・・」

「左様、覚えておったか、黒ノ守人よ。」

「何の用だ・・・・・・」

このたった一言、二言で気圧されているのがガイアだと明らんだ。珍しいこともあるものだが、これは正しい反応。強き者の生存本能が正常に働いている証拠。気配も殺気も抑えて立ち入ってきた老人に対しても感覚(アンテナ)が警告した。

「魔王様にお目通りを願いたいのだが―」

「残念ながら取り込み中だ。今日は忙しい。明日以降、出直すんだな。」

「上には、いるんかの~?」

「いようがいまいが、帰れと言っている。ここを通るというのならば、斬る。」

「そうじゃの・・・それがお主の仕事じゃからな。よかろう・・・少々稽古をつけてやるかのぅ。」

煽っているのか老婆心か。

「正気がジジィ、本当にぶった斬るぞ。」

「結構。その位の気迫で向かって来んと、怪我では済まんぞ。」

「後悔するなよ。」


 「我は天導士。全ての魔導士の頂に立つものなり。」

小さな体で大の字を描いた老人の回りに、幾つもの光が生まれた。蛍よりも少しばかり大きな光。

「我が名はギード。魔王殿への挨拶はまた後日にしようかの。」

意外とよく喋る。

「2つばかり訂正だ。ひとつ、魔導士のてっぺんはこの城で預かっている。ふたつ、手前ぇに後日は無ぇ。いくぞ!」

こちらは余裕がない。ガイアがギードを威嚇した理由は明らかに恐怖。小さな老人の法力に怯える己を振り払うべく声を荒げた。盾も構えず、大剣片手に突進した。

 押しても斬っても叩いても、距離を縮めることすらできなかった。遠い。ガイアの直感に間違いはなかった。現状、一太刀浴びせるなど以ての外。ある地点からは距離を縮めることすらできなかった。雄叫びを上げながら何十、何百を斬りつけたが、ギードを守る数々の光の弾を一つたりとも壊すことができなかった。

「クソが!何だぁこりゃ!」

大粒の汗を流し、肩で息をするガイア。対してギードは澄まし顔。

「一応『ゴムボール』という法術なのじゃが・・・」

「そりゃ、大層お強そうな魔法だこった。ぶっ潰してやる。」

「やれやれ・・・羨ましいのぉ、若くて青くて、向こう見ずというのは―」

ギードが右手人指し指で鉄砲の形を作り、発砲の真似をするとガイアの前のゴムボールが数個、破裂した。その衝撃でガイアは背面の壁まで吹き飛ばされてしまった。

 地震かと思われる振動が城全体に伝わったはずだが、ローグとティアが目を覚ますことはなかった。まだぐっすり夢の中。この上ない穏やかな空気が流れていた。

 そんなことは露知らず、1階闘技場は戦場と化していた。ガイアが本気(マジ)になった。

「ギード・・・と言ったな。覚悟はいいな。」

出し惜しみなく倒しにかかるらしい。『黒の覚醒』。ちなみに、これまで勇者相手には1度もこの技を使っていない。単純かつ分かり易い闘気覚醒―自分の選んだ能力値を倍増する―単細胞にはお似合いの技。攻撃力、防御力、素早さ、何を犠牲に、何を強化するのか。今のガイアには訊くまでもない。ガードとスピードを殺してアタックに全振り。白魔女と魔導装置も光りに包まれた。

「お前ぇらは、手ぇ出すなよ。」

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