異端邪説④
「ローグ、もうひとつだけいいか?」
「うん。」
真面目に戻ったか。
「経済的に余裕がある国、資源の豊かな地域は、他国との交流、交易がなくともまぁ、やっていけるだろう。」だが、貿易ありきで民の命を維持している国もある。他国からの支援でどうにかなり立っている村もある。そういう国や地域にとって鎖国状態は命取りになるぞ。」
思わず耳を疑った。ガイアの発言とは信じられなかった。戦争を防ぐために人を国に閉じ込めるという作戦は、さらなる苦痛を与えかねないことになる。所によっては、兵糧攻めを受けていることと同じなのだから。どうしてガイアにその筋道が分かるのだ。瞬時に適切な指摘ができるのだ。
「全ての地下道を解放した。魔法の扉も全部開錠して、モンスター達も地上に移動させた。必要だと判断したら、新たに地下道を掘らせる。」
いささかローグの語気が粗ぶってきたか。やや興奮しているように見える。
「これまで全てにおいて時間短縮を優先してきたんだ。たまには自分達の足でゆっくり歩くのも悪くないだろう。」
最後は我々ではない、別の誰かに喋りかけているみたいだった。
「そうね、分かったわ。今日はおしまい。指を出して、絆創膏貼ったげる。ゆっくりお茶を飲んで、今日は休みましょう。」
ガイアとティナから反対意見は出なかった―ローグのやらんとしていることは人間社会の破壊。人間族の経済社会の時間軸を戻すこと。成長を止めること。退化させること。国のレベルを同一、均一に近付けること。
翌朝。まずは城作り。とは言え、現地で堂々と建設を始めるわけにもいかない。ヒト型モンスターに仕事を振ることもできたが、発見され次第、勇者達に潰されるのがオチだろう。時間をかけてダラダラやる仕事ではない。何より本物の城など不要。どうせ遠からず勇者が征服するのだから。人間族の国を、社会を、世界を支配するつもりなど毛頭ない。モンスターが闊歩しているから外を歩けないと擦り込むことが目的だ。魔族の恐怖を植え付け、自分達の事だけで手一杯にする。他国に首を突っ込む余裕を除去するのだ。
「じゃあ、ローグ。始めるわね。」
「うん、宜しく。」
魔王と側近のひとりが城の外で城作りを開始した。ハリボテでいいのだ。外見だけ城であれば事足りるのだ。だからローグがティナに依頼した人形は城の形をした、いわば大きな大きなテント。魔界の魔王城みたいにご立派な物である必要はない。それではティナの負担が増えるだけ。目立てばよし。
タイミング悪く勇者が魔王城に向かっていたら、とりあえずは一時退却していたことだろう。そびえ立つ魔王城の前に、突然13もの砦が出現したのだから。魔王の魔力はこれほどまでかと、肝を抜かれてしまっただろう。
「ふぅ~・・・OKよ、ローグ。」
「うん、ばっちりだ。ありがとう。」
とりあえずスライムからは何も見えなくなってしまった。見た目が全く同じ砦が音もなく誕生した。
「よし、じゃあ次は俺だ。」
すーっとローグが浮いていく。魔王に転職すると、漏れなく浮遊魔法が付いてくるらしい(これはおいしい特典だ)。砦全てが見渡せる上空まで昇りきると結界魔法を発動し、13の砦全てにバリアが張られた。これでちょっとやそっとの単発遠距離攻撃ではびくともしまい。これで準備完了。あとは所定の場所に転送してモンスターを配属すれば、二の矢が完成する。




