異端邪説③
話を戻そう。ガイアが選んだ中ボスは、白魔女と魔道装置。どうしてその2体を選んだのというティナの質問に対して、俺の邪魔をしなさそうと答えた。ま、そんな所だろう。知識皆無のガイアが頼れるものは、視覚的に情報に限られていた。最もひ弱そうな白魔女と、動かなさそうな魔導装置にした、そんな感じだろうて。幸か不幸か、抽選に漏れた中ボス候補たちは、派遣軍として編成される(ちょっと強すぎないか)。
さて、ガイアと戦いを共にする2体の中ボスだが、まずは白魔女。彼女はその名と、白いローブで全身を覆い隠すその姿から想像できる通り、法術特化の魔族。その色彩からは回復や蘇生を連想させるが、魔界の強者はさほど甘くない。白が紅に代わる時こそ、彼女の真の力が発揮される。一方の魔道装置と呼ばれるモンスターだが、こちらはブロック塀にセンサーだかレーダーだかが付いているだけのように見える。生ある物かも怪しい。これはちょっと私も知らない。見たことがない。そもそも動くのか。意思はあるのか。どこから連れてきたのか。
残念ながらと悔いるべきか、さすがと褒めるべきか、人間界は落ち着いたものだった。3日に1箇所のペースでモンスター達が人間族の建造物を破壊している。魔王ヴァグナードの命令通り、いやそれ以上に激しく、地球の裏側まで轟きそうな勢いで廃滅の限りを尽くしていた。だのに行き方が変わらない。なくなると思っていた人間同士の争いが消えないのだ。あろうことか騒ぎに乗じて好機とばかりに領土拡大、火事場泥棒を目論む国も少なくなかった。堂々と偉そうに宣言した割に、居住区への侵攻は数える程度だった。ヴァグナードにそこまでの決意がなかったと言えばそれまでだが、隣国付近で火の手が上がっているのに手を差し伸べるのではなく、止めを刺しにかかるのだ。全てではない、全てではないが、全てであって然るべき。人の心があるのなら。
対してガイアの方はというと、こちらは予定通りの千客万来。続々と勇者一行が押し寄せてきた、などと記すと繁盛する酒場が飲食店みたいだが、さすがにそれはない。それでも多い日は午前と午後に1パーティーずつ、平均すると2、3日に1組の勇者達がガイア、白魔女、魔導装置に戦いを挑んだ。歴代の魔王と比較しても残虐で攻撃的で、人間界に直接的な危害を加えるヴァグナード。奴の首を取るべく、その配下に戦いを挑む数々の勇者達を次々と軽々、黙々と、それでいてどこか喜々として返り討ちにしていくガイア。ストレス発散と暇潰しになっている模様。準備不足の人間が焦っているのか、ガイアが強すぎるのか、圧倒的。だから白魔女も魔導装置も戦闘中は一切手を出さなかった。見てるだけ。
白魔女と魔導装置の活躍の場は、戦闘を終えてから。ガイアがボコボコにした勇者達を反抗できない程度に白魔女が回復し、魔導装置が人間界へ送り返す。お手本のような役割分担だが、ガイアがここまで計算してモンスターを選んだとは考えられない。ローグの仕込みを偶然ガイアが引き当てたという推理はさすがに手前勝手だが、それしかあるまいて。とにもかくにも、ガイアは強かった。曲がりなりにも魔王城まで辿り着いた勇者共が相手にならないのだから。白魔女も魔導装置も戦いを見てるだけ。補助魔法をかけるでも、援護射撃をするでもない。ただじっと、戦闘の終了を待っているた。大した時間、待たされることはなかったが。
3人の中で最も多忙なのはティナだったのかもしれない。行ったことのある場所であれば転送魔法でひとっ飛びなのだが、見訊きしたことのない場所だと、さぁ大変。どこから取り寄せたのか、巨大な壁掛けの世界地図を前に、ローグと打ち合わせをする。ここまで魔法で移動して、そこからは空を飛んで―ここは雪国だから防寒具を―雨季で1日のほとんどが雨降りなんだ―砂漠地帯だから水筒持参で―過酷を通り越して嫌がらせに近い、魔王からの命令だった。それをそつなく文句なく、文句の付けようがないレベルでクリアしていくティナだった。
こうして1ヶ月、2ヶ月と、魔王軍は宣言通り人間族に対して攻勢に出た。魔王城に乗り込んできたパーティーは全て追い返した。そして3ヶ月ほど経過したある日の夕食後、久々にヴァグナードから招集がかかった。ちょっと話したいことがあるから、この後いいかな、と。
ローグはなかなか口を開けなかった。言いだし辛いのかまだ迷っているのか、複数の選択肢が残っているのか。ティナが用意してくれた温かいジャスミンティーのカップをも両手で包み、その水面をじっと見つめていた。まるでそこに答えが浮かんでくるのを待っているかのように。同席するティアはともかくガイアもちょっとは大人になったようで、空気を読んだか、急かさない。突っ込まない。口を開かない。時折、喉を潤しながら、王の次の一手を待った。
黙って立ち上がり、壁掛けの巨大な世界地図に向かうローグ。オーボンヌが載っている魔界の世界地図ではなく、人間界の世界地図。そこにポン、ポン、ポンと親指で小さな赤い印を押していった。悩んで、計算して、決断したのだろう。しっかり場所を確認して、それでいて迷うことはなかった。全部で13箇所。押印を終えると振り返って席に座る2人に告げた。
「二の矢を放とうと思う。印を打った場所に城を建てる。」
それを訊いて驚いて、思わずぴょんと跳ねたのスライムだけで、後の2人は落ち着いたものだった。うんともすんとも、何の反応も示さなかった。無視している感はない。未来をシミュレーションしているのか、城の位置から何かを読み取ろうとしているのか、ローグの狙いを探っているのか、しばしの間は沈黙が続いた。
やがてティナが手を挙げた。
「はい、魔王様。」
「なんだね、ティナ君。」
ちょっとふざけている。
「人間界に建てるお城には中ボス候補を送るのですか?」
「その通り。ある程度の数のモンスターと、それなりに強力な中ボスを派遣する。」
「目的は何でしょうか?そこを拠点に人間族への攻撃を仕掛けるのですか?」
「いや、こちらからは仕掛けない。訪れた勇者を撃退するだけ。目的は人間同士の戦争を邪魔すること。よって今回の砦のほとんどは、紛争の起きた地域に建てている。」
お次はガイアだ。
「俺もいいかい、魔王様。」
「構わんぞ、ガイア君。」
まだ続けるらしい。
「自分達の利害に関わることだ、人間共も黙ってねぇだろう。戦車でも戦闘機でも軍艦でも引っ張り出してくるぞ。」
「僕が全ての城に結界を張る。」
「鉄壁・・・というわけにはいかないわよ。繰り返し攻撃を受ければいずれ・・・魔王様の結界と言えど万能、完璧、絶対ということはありえない。」
「時間が稼げればいい。それに破られたらまた張り直すさ。」




