百年河清⑫
勇者の帰還にも、村が沸くことはなかった。オーボンヌの民の生活に変化は生じなかった。勇者一行を祝福するでもなく、空合いの好転に驚くでもなく、魔王城の鍵の返却を要請するでもなく、それまでの日常をそのまま続けていた。邪魔が入らないのは有難い。先のことはひとまず置いておいて、まずはスライムを休ませなくてはならない。さっさと宿に戻り、ベッドにスライムを寝かせる。掛け布団も掛けてやるが、枕に布団を被せているようにしか見えなかった。ティナが何度か回復魔法を唱えてみたものの、効果はなし。呼吸は穏やかだし熱もないようなので、そのまま回復を待つことにした3人。話題は将来のことではなく、救世主のこと。
「俺は未だに信じらんねぇが、羽の生えた金ピカスライムはこいつで間違いねぇんだな?」
ガイアの疑問は尤もで、部屋で眠っているのは青くて小さなスライム。似ても似つかない。それと戦闘能力がまるで違う。鬼の尻も燃やせないチョロ火と、魔竜を一瞬で消滅させる奇跡の光。正直言って、、3人だけで亡空も課k樋高同課は怪しい。犠牲者が出ていた可能性が高い。ティナが無事だったのもスライムのおかげ。亡空の最期の一撃だって、スライムなしで防ぎ切れた保証はない。たとえどうにかやり過ごしたとしても、反撃に繋げられる力が残っていたかどうか。全てを終えて冷静に振り返ってみれば、敗走が関の山。全ての負の要素を一息で吹き飛ばしたスライム。分からないことだらけだが、ひとつだけはっきりしていることは、誰よりも何よりも強い。人間族よりも、竜族よりも。勇者よりもラスボスよりも。
「根拠がある訳じゃないけれど、スラちゃんで間違いないと思う―それ以外の可能性がない・・・」
「ふ~む・・・この小っこいのがね~。」
「スラ坊が助けてくれなきゃ、勝てたかどうか分からなかった。」
3人の視線をひしひしと感じた。ヒジョーに起きづらい環境だ。疾うに意識は戻っていた。こいつらの事だ、手当、介抱はしてくれると踏んでいたが、3人が3にん共ひとつ屋根の下でスライムを囲むとは思っていなかった。3人が席を外している時を狙って起きたかったのだが・・・・・・せめて男2人はどっかに言ってほしい。ということで、このままもうひと眠りしようかと思う。その間に、この先の事を詰めれば良かろう。その為に、ここまで来たのだろう。
【百年河清 終】




