百年河清⑪
「これが格の違い。竜族と人間族とでは天と地ほどの差があるのだ。貴様等はたった三匹の蟻に死の恐怖を覚えたことがあるか?種族間格差、弱肉強食が人間族にだけ当てはまらないとでも思ったか。勇者だろうが戦士だろうが所詮は人間。底辺の種族が頂の竜族に挑んだのだ、それだけで万死に値する。罪と後悔を胸に死ぬがいい。」
「お前がな。」
2人の声が重なった。ガイアはそのまま竜の眼前に立っている。一方もう一人の声の主であるローグはというと、悠々と亡空の背に立ち、剣を突き刺した。背から腹まで光が貫いた。今度は苦しみ悶えるドラゴンの鳴き声が魔界中を覆い尽くした。
一矢報いたローグがガイアに合流した。
「お前ぇ、どうやって・・・あれか、やせっぽっち過ぎて爪の間から抜けてきたのか。」
「まさか。ティナの作った人形は転送移動もできるみたいで、今あいつが踏んづけているのは俺と入れ替わった人形だよ。」
「ほぅ~・・・・・・」
ティナは無事だろうか。それは飛べるし、回復魔法も使える。天女様は伊達じゃない。けれどもまだ帰ってきていない。その説明ができなかった。
2人の会話に割り込む殺気。
「許さんぞ、虫ケラが・・・」
目が血走っていた。大きな口を開けてエネルギーを溜める亡空。どうやら炎ではないらしい。口の中だけではなく全身が輝きだした。ローグとガイアにもビリビリと凶悪な振動が伝わってくる。地面が揺れているのか大気が震えているのか、どちらにしろ、やがて自分達に向けられる咆哮の大きさを肌で感じていた。
「ローグ!俺の後ろで構えろっ。奴の攻撃が済んだら首を斬れ!」
「俺も守りに回る。2人なら―」
「その後で動けなきゃ意味ねぇだろうが!」
「ひとりじゃ危険すぎるっ。」
「俺が信じられねぇのか!」
「そうじゃない、より確実に―」
「いいから後ろに回れ!」
「嫌だ!」
「このガキ!!」
「分からず屋!」
どうしてこの馬鹿二人組はいつ何時でもど阿呆なのか。自分達の置かれている状況がまるで理解できていない、はずはあるまいて。亡空の準備が整った。
「二人仲良く、地獄へ・・・なんだ、と・・・・・・」
亡空の視界に入ったもの。スライムが娘を背負って昇ってきた。生きていたか、だがそんなことは関係ない。2人だろうが3人だろうが、そこに1匹加わろうが・・・・・・1匹?目の端にスライムは映っていたが、そんな色だったか。そんな大きさだったか。羽が生えていたか。
スライムはティナを2人に託すと、ガイアの前に陣取った。金色のスライム。随分とデカくなった。御大層に羽までついている。人間の思考と行動といさかいは驚きのあまり停止してしまったが、ドラゴンは止まらない。標的が1人増えようが1匹増えようが、攻撃範囲に収まっている。終わりだ。亡空の口から最後のエネルギー砲が放たれた。
決着の瞬間を目にした者はいなかった。ローグ、ガイア、ティナの前にはいつもの青くて、小っこくて、ぷにぷにしたスライムが転がっていた。その先にラスボスの姿は無し。
「終わった・・・の?」
気を失っているスライムを抱えてティナが問う。
「多分・・・雨も止んだし、空が明るくなってきた。気配も感じない。スラ坊がやってくれたんだと思う。」
「おい、ティナ。何がどうなってんのか話せ。さっきの金ピカはスラ坊なのか?」
「・・・分からないの。」
軽く首を振りながらティナが記憶を辿りながら答える。
「私は屋上から飛ばされて、気を失っていて・・・気がついたら地面に倒れていて・・・・・・そこに金色の、恐らくスラちゃんだと思うんだけれど、私を背中に乗せてここまで運んでくれて、その後は―」
両腕の中で眠るスライムを見つめた。ローグもそっとスライムを撫でた。
「帰ろう。オーボンヌでスラ坊を休ませなくちゃ。」
こうして、勇者ローグの最初の目的が達せられた。




