百年河清⑦
翌朝、鍵を持って魔王城へ出発した。どういう風の吹き回しかそういうものかは知らないが、モンスター共はただの一匹も現れず、魔王城までの道のりは拍子抜けの缶さえあった。有難くはあったが、自分達の立ち位置、言い換えれば魔界のモンスターの強さを把握できずに、未知へのの不安を拭えぬままに敵の居城へ突撃する羽目になってしまった。自分達の新しい力も、ぶっつけ本番となるといささか緊張する。さて、魔王城までは距離も短く邪魔も入らず、あっさりと到着できた。相も変わらず空合いだけが薄紫で気味悪く、ここが魔界であることを念押ししていた。それ以外は人間界と変わらない。むしろ平和だった。
ローグが城門の鍵を開けた。
「この期に及んで、何で鍵なんか掛けるんだ?それにこんなデケェ門にこんな小っこい鍵なんて意味ないだろう。魔王様ともろう方が戸締りを欠かさないというのは、イメージ沸かんな。」
ガイアの小言が止まらない。尤もな意見にも訊こえる一方で、鍵の概念に関しては人間族と魔族とでは隔たりがある。下っ端とか魔王とか大魔王とかは関係ない。他種族の進行に対して鍵をかける事に何の疑問も抱かない。人間族が人間族に対して鍵をかける方がよほど理解に苦しむのだ。不可解なのだ。挙句何かあれば鍵をかけないのが悪いなんて言われる始末。そこに疑問を抱かなくなった人間族は、どこかで何かを失った。その事すら忘れてしまったから、探すこともできない。
最上階に魔王はいる。階段を探すんだ。すんなり見つかるかは五分五分だが、広くはあっても城の中。壁に囲まれていれば、明後日の方向に歩き続けることはない。同じ廊下を往ったり来たりの可能性はあるが、さすがに迷子の心配はあるまい。それよりも懸念すべきは戦闘だ。やはり早く一戦を交えて、現在地を知っておきたい。けれども幸か不幸か、そういう時に限って敵さんは現われてくれない。場内をあちこち探索しているのだが、一向に姿を見せない。気配も感じない。90度の角を曲がる際には心の片隅でエンカウントを期待してしまった。どこか妙だなと思い始めた頃、城の絡繰りではないが、ルールが判明した。そういうことね、と。分かり易くてよい。
とある扉を開くと何もない、ただ、だだっ広い空間が現れ(どこぞの造りと似ている)、その奥に2階への階段と魔物の姿があった。ということで、そういうことだ。各階の中ボスを倒すと上の階に行ける、その第一関門。この城内では三下奴のモンスタ、それがドラゴンだった。定番と言えば定番だが、避けたくはあったモンスターでもある。全ての種族を通して最も屈強で、最も知能が高い竜族。だから神とも世界の創造主とも呼ばれるが、その実は別世界の生物。この世界にいるはずのない存在。1階で待ち構えるは『ダークドラゴン』。翼はなく竜族の中では小型な方だが、それでもトリケラトプス並みの体格だ。特に力が強かったり俊敏だったりするわけではないが、赤紫色の炎を吐いて全てを焼き尽くす。このレベルのモンスターが現れても全く不思議はないのだがそれよりも、竜族は他種族と滅多に交流をもたない種族。こんな所にいてはいけないモンスターではあるが―
「グォー――!!」
城内に響き渡る威嚇を前にとやかく勘繰っている暇はない。
「ほう・・・ドラゴンか、珍しいな。竜神族とやるのは久々だな。」
やはり嬉しそうなガイア(何かまた気になることを口ずさんでいたが)。黒色に身を包む巨体が、右肩をぐるぐる回しながらにんまり笑うと、これまで以上に不敵だった。こちら側からすれば頼り甲斐のある存在、ちょっと恐怖を覚えるくらいに。ご機嫌のご様子でゆったりとドラゴンに向かっていく姿はこれまで通りだったが、今回はそこにティナが並んだ。
「何してる?危ねぇから下がってろ。」
「「攻撃をちょっとだけ待ってほしいの。」
「あ?」
「話をしてみるわ。もしかしたら説得できるかも。」
「は?お前・・・何を考えて―」
突拍子もないティナの提案にガイアはその場に立ち尽くしてしまった。溜息をつきながら、やれやれとすぐにティナの後に続いたが、ティナは宣言通り会話を始めようとしていた。




