百年河清➅
ガイアはよっぽど歩いて帰りたそうだったが(ただモンスターをぶん殴りたいだけだろうが)、ティナが押し切った。転送魔法で帰れるのだから、わざわざ歩いて危険を冒すことはない、と。正論だが、迷わずオーボンヌに辿り着く自信もなかったのだろう。構わんさ、力試しはいつでもできよう。残るは魔王城のみ。試すか試されるかは向こうに着いてからのお楽しみだ。
ティナの転送魔法によってオーボンヌに舞い戻った。疲労もダメージもなく、大きくレベルアップ(したはずだ)。後は頂けるものを頂かなくてはなるまい。伝説の武器なのか、全てを跳ね返す鎧なのか、死者をも復活させる秘薬なのか。間違ってもミカンの皮ということはあるまいて。贅沢は言わない、魔王討伐に役立つアイテムであれば邪魔にはならない。
武器屋とも道具屋ともつかぬ店舗を訪れた。看板がなく勝手に入っていいものか迷ったが、いらっしゃいませと迎え入れられた。自己紹介にも似た状況説明を終えると、店主が奥から1つの小さな宝箱を持ってくる。この時点で伝説のエクスカリバーの線は無くなったが、どんな傷でもたちどころに直してしまう万能薬の可能背は十分。と思いきや、店主から魔王城の鍵ですとの告白。ローグが丁重に拝借した。店舗内に目ぼしいアイテムは置いておらず、店での遣り取りは以上。その日は宿を取り、魔王とのご対面は翌日に持ち越された。
残念なお知らせがひとつ。オーボンヌには酒場がなかった。宿で静かに時を流す勇者一行。たまにはこんなひと時も悪くない。あって然るべきだ。ティナは読書、ガイアは剣を磨き、ローグは独り外へ出かけて行った―2人には既に話があった。ローグがオーボンヌの出身であること。幼い頃に村は滅ぼされ、当時の唯一の生き残りがローグであること。そして幼いローグを救ったのが時空騎士。復興とは呼びたくない再興を果たしたオーボンヌではあるが、ローグの知人は誰も生きていない。故郷であって古里と呼べない。それでも出身を訊かれればオーボンヌと答える。向こうでは、多くの人間がオーボンヌの名を知らない。だからずっと西の、山間の片田舎ですと説明して会話を終わらせた。
繰り返される戦争、人と人との殺し合い。モンスターを遣おうが機械を使おうが、人と人との殺し合いに変わりはない。この負の連鎖を断ち切る為にローグは魔王を倒す。その力を手に入れるべく勇者となった。才と覚悟が高い次元で一致した時、可能性という光が見えてくる。




