百年河清5
その名に騙されるなかれ。禁断の能力、禁忌の特殊ジョブ、ということではない。歴とした勇者の真価形。ローグ自身で選択し、ローグ自身の足で踏みだしたはずだ。十中八九、戦闘能力は問題あるまい。ティナ、ガイア同様に数段レベルアップしていよう。肝心・要はその特殊能力。残念ながら人間族側に特殊能力はない。この世界において人間の知恵など取るに足らないもの。対する魔族側の能力それは―
目的は達した。試し斬りでもしながらオーボンヌに戻るかと外へ向かおうとした時、扉が開いた。そこからひょいと顔だけ出す仙人。左手の人指し指でこちらを指す。ローグか?違う。ガイア?違う。ではティナ?違う。3人が一斉に下を向いた。私か~?この期に及んでスライムに何の用があるのだと思うが早いかガイアがニヤつきながらスライムの頭を掴み、ぽ~んと仙人に向かって放ったタイミングで仙人が扉を全開にして、スライムをキャッチすることなく部屋に迎え入れられ、扉が閉じられた(球形のぽよんぽよんではあるがこの扱いは断じて間違っているぞ)。
ころころ転がって目が回ってしまった。
「初めは気付かんかったぞぃ。スライムよ、喋れるかぇ?」
「・・・・・・あぁ、話せるよ。勇者達には内緒だぞ。」
「んで、何をしているんだぇ、お前さんは?」
「大冒険。」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ・・・そりゃ結構だわぃ。何十年振りかのぉ・・・お前さんがスライムに転職してから―」
「もうすぐ100年。」
「そうかぇ。ふふ・・・互いに年を取ったもんだぃ。」
「私はまだまだ若いつもりだ。」
「見た目がそれなら何とも言えるわぃ。」
しばしの沈黙、その後再び仙人が口を開く。
「いい仲間じゃないか。」
「・・・知っとるよ。」
「女子が(おなご)言っておったぞぃ。勇者を助けられる力が欲しい。手に入れられるのならば圧倒的な力が。そして万が一、故郷が過ちを犯すのならば、責任をもって戦場にいたい、と。」
「圧倒的な力か・・・。その怖さと結末は十分に承知しているだろうに。」
「馬鹿力も言っておったぞぃ。壊す力は何とかする。護る力、守れる力を寄越せ、だそうだぃ。」
「だから黒ノ守人か・・・・・・」
「別に色はどうとでもできたんだが、赤とか白は似合いそうになかったんでのぉ。本人も満更ではなさそうじゃったぞぃ。」
昔、『死神ノ守人』を名乗る奴がいた。何故そんなことを思い出した。重ねてはいけない。
「それはさておき、ローグとやらの目的は知っとるんかぇ?」
「・・・・・・知っている。盗み訊きするつもりはなかったが、仲間に話す際、私もその場に居合わせた。全く、隙だらけの勇者で困ったもんだ。」
「ふむ、時間だ。主の力を解放する。」
扉を開けて再び合流した際の三人の反応は、至極おっとりしたものだった。こういうのを微妙というらしい。ちなみに力が未開放ということはない。パワーアップしたことは間違いない、はずなのだが。
「お帰りすら坊・・・特に変化は無しかな。」
「気持ち・・・デカくなったか?」
「スラちゃん、ちょっとだけ太ったかな?」
納得いかないが、以上がスライムの力の解放であった(イシュタルの奴め、手を抜きおって。王冠をかぶせるとか、羽を生やすとかできたはずだ)。どこかスライムだけ取り残された結果となったが、それはいずれ必要な際にお披露目といこう。なにはともあれ、条件は整った。オーボンヌへ戻るとしよう。我々に打って付けの装備品も頂けそうだしな。




