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百年河清4

 白とも水と桃ともつかぬ羽衣が、微かに朱を帯びるティナの髪色に呼応して、よく映えていた。特殊ジョブであることは明らか。その姿を見てピィピィとティナの回りを跳ね回るスライム。

「『天界大魔道』・・・というそうよ。」

慣れず戸惑い、そして安堵していることだろう。まだ、また、まだまだ戦えると。

 天界大魔道―耳にしたことはあっても、我とて実際目にしたのは初めてだ。攻・守・補、数多(あまた)の法術に精通し、その気になれば幻獣召喚まで可能という。天より火の雨を降らせ、海を巨鯨もろとも凍てつかせ、大地に雷の風を走らせる天界の使者。才ある者とは感じていたが、力を隠しているとは思っていたが、可能性を見出していてはいたが、想像を遥かに超えていた。頼もしい限りではあるが、当分は肉体と精神が追い付くまいて。大きな力を手にすれば、それだけ大きな邪念もついて回る。煩悩とは人が身につけた力の証明。邪念を実現できる力を宿してしまったことを、いつか後悔しなければいいが―


 「キレイだなぁ・・・天女様みたいだ。」

(おだ)てたって何も出ないわよ。」

「ふんっ、そんな動きにくい恰好でまともに戦えるかってんだ。絡まって、素っ転んで終いだよ。おいローグ、次は俺が入るぞっ。」

ノックもせずに扉を開き、音を立てて閉じたガイア。

「な~に怒っているのかしら。」

「さぁ・・・?」

双方に対してやれやれ・・・である。ガイアの心情を正確に察することはできないが、どことなく気持ちは分かる。美しい女性を美しいと言えない自分への苛立ちもあろうが、それ以上に、ティナの無言の圧力も原因のはずだ、決して本人は認めないだろうが。(おの)が将来、何者に変身するかを考えるだけで人は病むと訊く。あっぱれ、ガイアも人の子ということだ(ちょっと嬉しい)。そして責任感の強い者ほど足が竦んでしまう。力不足で自分が傷つくことは構わない。他人の妨害となり、仲間が苦しみ、友を失う悪夢にうなされる。


 手抜きか偶然か。ティナに比べてガイアは随分と早く戻ってきた、実にガイアらしい姿で。全身を黒い鎧で覆い、黒い大剣を背負い、左腕部にはこれまた真っ黒でガイアの背丈の半分程もある盾が装備されていた。魔界の中ボスと言われたって納得してしまう見てくれではあるが、ティナ同様、秘めたる力はずば抜けていたようだ。

 『黒ノ守人(くろのもりびと)』。ガイアが再び盾を手に取った。何故、などと野暮なことは誰も訊かない。熊も鬼も圧倒できる攻撃力も選択肢のひとつとして示されたはずだ。しかしガイアは守備に真価を発揮する戦士を望んだ。どっちが正しいとか、どちらが強いとかそういう問題ではない。ガイアが壊す力よりも守る力を選んだ。それ以上でもそれ以下でもない。


 最後は勇者ローグ。力の解放において最も選択肢の多いジョブが勇者である。だから1番道に迷うのも勇者である。道は多ければ多いほど良い、というのも一理あろう。ただしそれは己の目指すべき終着駅が決まっていて、道が明確に繋がっている時。さもなければ過度に多岐に渡る道はそれこそ迷子の原因。邪魔になるだけ。

 それともう1つだけ。今歩いている道がどこか別の道に通じていることも常々、頭の片隅に置くようにしたい。つまりこの道が全てではない。正義ではない。必ず正しいという証拠も保証もない。ならばどうするか。正しいと思い込むしかあるまい。それを信念と呼ぶ。だから簡単に曲げてはならぬのだ。悩むことはあろう。考えさせられることも多いはずだ。けれども最後の決断を他人に委ねてはいけない。たとえ親でも親友でも、恩師でも我が子でも。

 ローグがどんな道を選んだのか、一目では分からなった。赤いマントを身にまとい、ティアラのような装飾も頭に乗っていたが、以上である。上級職、あるいは特殊ジョブだとは思うのだが、先の2人と比べて変化が小さかった。そんなローグの最たる変化を見つけたのはティナだった。なかなかジョブを明かそうとせず、教えてよとか、勿体ぶるんじゃねぇなんて(じゃ)れている最中、突然ティナがローグの顔を両手で挟んだ。ローグの顔が潰れている。ティナの方は驚いたというか、顔面蒼白だ。

「ローグ、あなた、目が・・・・・・」

左がシルバー、右がエメラルド。オッドアイが示すものとは―どうやらティナは知っていたようだが、だからこそ顔を潰すまで力が入ったのだろう。ティナに言わせることはしない。いよいよローグが白状した。

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