掌中之珠22
オーボンヌの村。魔王の城に程近い、最果ての村。新米の勇者で華も存在も知らぬ村。辿り着くには相応の強さと覚悟の要求される村。最後の拠点となる村。最強の店売り装備の買える村。何より、勇者を見る目が最も肥えている村。
村の外れの小さな小屋に対となる旅の結界が設置されていた。到着までは一瞬で、あっちの鏡に右足を突っ込んだら、こっちの鏡から出てきた感じだ。
最初に着いたガイアはひょいとスライムを放ると、後続を待つことなく扉を開けて表に出て行ってしまった。まるで勝手知ったる自宅の様に、まるで外から誰かに呼ばれた様に、迷いなく惑いなく。しばらくしてティナとローグが合流、扉を開けると、すぐ目の前でガイアが空を見上げていた。待ち焦がれた遠足を前に天気を心配する子供の様に不安気な無表情で。
薄紫色の空に赤い月・・・だろうか、焦点を合わせても眩しくないので太陽ではなさそうだが、真円を描いていた。ここは魔界。先程までの世界とは文字通り次元が違う。青空なんて存在しない。お天道様なんて拝めない。昼夜問わず紫の空が圧力をかけ続ける世界。
「ガイア・・・」
外に出てきたローグが呼び掛けた。そりゃ見たことのない奇怪な空の色ではあるが、だからと言ってガイアの性格上、心が奪われるとは思えないのだが。
「空がないている。」
「え?」
「いや、こっちの話だ。行くか。」
移動中に頭でも打ったのだろうか。何はともあれ出発するかという所で、村外れの小さな小屋に人が押し寄せてきた。何事だ、盛大な出迎えかという期待も束の間、すぐに人々の正体が判明した。オーボンヌの村人ではなくクラインの民だった。勇者に興味はなく、口々に王の安否を尋ねるのだった。するとローグは嬉しそうに、心を込めてクラインの状況を説明した。王も兵士も城も無事であること。怪我人もなくザルバックを撃退したこと。そして、逸早くクラインに戻って王を安心させてあげてほしいこと。
民なくして王は存在しない。王の支えが民であり、民の幸福を実現することが王の使命でなくてはならない。王が自身の命を削って民を思い、民は王に自分の命を捧げる。それが国である。国が死守すべく唯一の宝は子供達であり、子供達がその星の未来なのである。
【仲間モンスターとして勇者に同行するスライムと、掌中之珠 終】




