掌中之珠20
ローグは元々こちら側、つまりクライン側の人間だった。クライン王とは師弟関係、もしくは先生と生徒ということで当たらずも遠からず。わざわざザルバックの近くに城砦を建てたのはザルバックの不穏な動きを察知していたから。囮役兼監視役。
もうひとつ。手紙に関して。ローグに届いた手紙はザルバック王からの物ではあったが、中身はギルガノフによってすり替えられていた。その内容は手に負えなくなったモンスターの討伐。おそらくギルガノフにはモンスターによって滅ぼされるザルバック王国の姿が見えていたのだろう。では何故、王を止めなかったのか。賛同していたんだよ、戦争に人を使わない、自国から犠牲者を出さぬという国王の信念に。
クライン城の民と若い兵は、旅の結界を使って疾うに避難を終えていた。そこでガイアには当然の疑問が生まれるわけだ。
「んで、城に残ったのは王様含めてジジィだけ。俺達が立ち寄らなかったらどうするつもりだったんだ?」
こちらは確かにその通り。ゴブリンで精一杯、ベアーウルフには歯が立たなかっただろう。
「あと・・・・・・味付け、薄くねぇか。全体的に柔らけぇし、葉物、根菜類ばっかじゃねぇか。」
対してこっちはどうでもよい。困ったように笑いながら、塩を回してやるローグ。そして歌うように唱えるのだった。
「子供は夢であり、希望であり、未来。その未来を担うのは王ではなく、若者である。」
「何じゃ、そりゃ?」
「いや、何でもない。そうそう、ここの王様は強いよ、多分いまだに俺より。時空騎士。50年前に魔王討伐を成した人だから。」
「マジかよ・・・とはいえ、もう爺さんだろう。」
「3年前の卒業試験で立ち会って、俺は30秒で負けたよ。」
「妖怪じゃねぇか。」
「そうだね。」
爺さん、立ち会おうぜなんて言い出しかねない流れである。そういえば、ティナが席を離れて随分立つが―
「運命の悪戯かの~?」
「申し訳ありません。お恥ずかしい。」
「いやいや、愉快、愉快。結構、結構。」
旅の結界を前に話をしているのはクライン王とティナ。
「ローグの奴は昔から東と西が分からなくなってしまっての~・・・・・・山に登らせれば反対側へ下りていくし、隣町まで買い物に行かせればさらに奥の町まで買い出しに行く始末。洞窟に潜らせれば中のモンスターを全滅させても戻ってこられないで、迎えにいったこともあったの~。それがよもや3人とはの。いやはや似た者同士が集まったようじゃの、傑作じゃ。」
ティナは下を向いて頬を赤らめていたが、嫌そうな顔ではなかった。
「結構、結構。村人にも訊いてみるとよかろうて。ティナ殿に託しますぞ、地図と我が子らの運命を。」
旅の結界とは、特殊ジョブである時空騎士が作ることのできる転送装置である。術者の記憶を元に空間を操り瞬間移動・・・なんて書くと神か仏かということになるが、確かに摩訶不思議な能力に違いないのだが、それだけでは世界は救えない。要は、術者の行ったことのある土地に移動できる。ちなみに類似魔法をティナが唱えられるので、そこまで稀有な能力ということではない。ただし物理的な装置を作る為には旅の結界の始点と終点、各々で1週間ずつ時間を要する。その点では魔法使いの法術の方が優れているが、1度作ってしまえばいつでも誰でも何度でも使用可能という点は大きな利点であろう。クライン城からの移動先はオーボンヌの村。魔界に最も近い村。クラインの民は皆、そこにいる。魔界に最も近いとは言わずもがな、冒険の最終盤に訪れる場所。本来であれば魔法の鍵の入手後は、奇跡の鍵の探索へと移行する。本格的な戦力強化や、魔界の情報入手はそれから始まるのだが、何から何まですっ飛ばすことになる。




