掌中之珠17
ファイアーブレス。レベルが上がれば口から火の息を吐くことができるのだ、スライムでも。スライムの肺活量だから儚く、一瞬に毛が生えた程度ではあるが、スライムとて経験値を積み重ねればこれ位はできるぞという活躍をお見せしよう。伸び伸びとした、景気の良い戦いっぷりに触発されてしまった。便乗しても良かろうて。後方で一緒に待機していたティナの元を離れ、ローグとガイアに追いつき、人間族の戦いっぷりに圧倒されているベアーウルフの背後から一息吹きかけてやった。我が必殺の火炎攻撃よ。
身の丈の都合上、上を向こうが跳ねようが、ベアーウルフの尻の高さが精一杯。それでもスライム渾身のファイアーブレスが確実にヒットした。そして、何事もなかったように振り返るベアーウルフ。釣られて一匹、ついでにもう一匹。あれよあれよと3匹に囲まれ、見下ろされる展開に―終わった。素直にそう合点した。調子に乗ったと後悔しても時すでに遅し。足掻くとか抵抗するという選択肢は思い浮かばなかった。何だスライムかと無視してくれれば助かったものの、1匹が尻をこすっている。中途半端な力は早死にするぞとはよく言ったものだ。かわす技術も身を守る術も備えていないスライムを叩き潰すか、踏み潰すか。地獄の未来しかなかった。
その時、体が浮いた。ローグが私の頭を摘まんでその場を脱出したのだった(だからできれば抱えてくれないか。伸びてしまう)。置き去りにされたベアーウルフは何が起きたか見えておらず、キョロキョロしていた。
「やるじゃないか、スラ坊。びっくりしたぞ、大したもんだ。あとは俺達に任せな・・・ほれ、飛んできたぞ。」
そう言って空を見上げた。青空を背景に紅の火球が次々と通過していった。以前、洞窟内で暴発したティナの火球魔法だ。そして今回は、見事にその全てがベアーウルフに突っ込んでいった。地下道で苦戦を強いられたベアーウルフはこれでほぼほぼ片付いてしまった。実にあっさりと、至極簡単に。
「さ、ここからだ。」
誰に喋り掛けるでもなく、ローグが呟いた。更なる強敵、真打の登場ということか。そんな我々の予測は裏切られ、叶えられた。モンスター軍の後方にて幕は切って落とされていて、その食事は大尾を迎えていた。よくよく見れば残りのモンスターは二匹プラス数える程度までに減っていて、やがてその数匹もボスの二匹に喰われてしまった。立っていたのは真っ赤な顔に2本の角を生やした赤鬼。とくればもう1匹は1本角の青鬼。こいつらがザルバック最後の砦。厄介な敵が控えていたものである。同じ鬼とはいえ、小鬼と呼ばれるゴブリン族とは似ても似つかぬ凶暴性。鬼人族に雑魚はいない。全てがボスクラス。こうなってくるともう、ザルバックが怪しいというか、お前等何を企んどるんじゃという話になってくる。
赤鬼―HP2910。MP520。攻撃力125。防御力70。青鬼―HP2300。MP500。攻撃力93。防御力95。サーチの魔法でわざわざ分析結果を報告してやったというのに、こ奴等ときたら、
「何をぶつぶつ・・・どうしたスラ坊?」
「ぶっ壊れちまったか?」
「暑いもんね~。」
通じないか~、そりゃそうか~。ピーピー騒いで跳ねてもな~。それでも意図は伝わったはずだ。ベアーウルフと比べても別格でとにかく注意喚起を。さすがに3人も察しているだろうが、それ程に危険。そんな苦労と心情を汲み取ったのか、ローグがぽんとスライムの頭に掌を乗せた。不思議と勇者のそれは、人を落ち着かせる何かがある(人ではないが)。妙な説得力がある。
「サンキュー、スラ坊。ちょっと危ないからここで待っているんだぞ。すぐに片付けてくる。」
ん、伝わらなかったか。まぁ、良さそうだ。スライムを置いて鬼に向かう3人の背中のなんとも心強いことよ。完全に出る幕なしである、今の姿では。




