掌中之珠14
翌日、9時の開門と共に城を訪れた。その前に30分程、まだ半分眠っている城下町を散策したが、整った、暮らし易そうな町だった。
名を名乗り、王からの手紙を門番に見せると、すぐに謁見の間へ通された。一昨日は暗くて判別つかなかったが、かなり大きな城だ。宿も城下町もきれいに保たれていた。長期にわたって平和と繁栄が持続している証。そして目前にそびえるザルバック城も、どこの王族を招いても恥ずかしくない立派なものだった。
―潤っているということはどこかに水源があるということで、その水源を物にするだけの力を有するということで、その力をどこかに行使した可能性があるということ。忘れるなかれ、手を加えない水は人にとって狂気となりうることを―
そんな城を尋ねる際に唯一、場慣れしている人間、頼りになるのがローグだったりする。
「よくぞ参った、勇者ローグよ。」
「はっ。」
「長旅の疲れは取れたかの?」
「はっ。昨晩、宿を手配して頂きましたので心配には及びません。」
「ふむ。勇者ローグよ、面を上げて構わぬぞ。」
「はっ。」
「ほ~・・・いい面構えじゃが、思ったよりも若いの~。年はいくつじゃ?」
「はっ。物心ついたころには施設に引き取られており、自身でも正確な齢は把握しておりません。」
「ほ~・・・そうかそうか。」
こんな会話がしばらく続いた。みんなして片膝ついて、のんびりとしたザルバックⅥ世の会話に付き合っていた。尤も、応答しているのはローグだけで、他の2人はずっと下を向いて時の経つのを待っていた。
「して・・・手紙の件じゃが―」
「はっ。仰せのままに。」
「結構、結構。あとの事はギルガノフに任せる。下がってよいぞ。」
通された次の間にてギルガノフなるものを待つ一行。近くに兵は見当たらないが、それでも無駄口を叩かないに越したことはない。だのにローグとガイアはすぐに喋り始める。
「毎度毎度、お前ぇは二重人格かってくらいに話し方が変わるのな。」
「勇者はみんな学校で習うんだ。貴族相手の振る舞いとか喋り方とか。」
「勇者の学校なんてあるのか?」
「もちろん。そこで講義を受けて資格を取って、実践トレーニングを受けて、卒業試験のクエストをクリアしたら、晴れて勇者だ。」
「すげぇ面倒臭ぇんだな、勇者って。」
「かもね。」
2人の会話をスライムの頭を撫でながら訊き流すティナ。そんな学校ある訳ないでしょ、なんて内心ケラケラ笑っているのかもしれない。
やがて現れたギルガノフは大方の予想通り、地下道でベアーウルフを連れていた男だった。改めて見るとガイアに近い、物凄い肉体をしていた。年もローグ達より一回り大きいくらいか・・・若い。昨日の話が本当であれば陸軍部隊長。城下町の一般人にも顔が知れていて、ザルバック王からの信も厚いようだ。武器は携帯していないようだが、城内だからということかもしれない。
「お待たせした、外に馬車を用意させたので、そこまでご案内させて頂く。」
そう言って部屋を出たのだが、ここからは周囲にしっかりと護衛がついてきた。馬車までの数分間でも無礼、非礼がないよう、訊き耳を立てているのだろうか。しかしながら案ずるなかれ、こちらが喋るのはローグひとりだ。
「ギルガノフ殿。我々の任務を改めて確認させて頂きたい。」
ローグの依頼にギルガノフは素直に応じた。実はこの任務の中身を知っているのはローグだけで、他の者は手紙の内容を知らなかった。ザルバック王から詳細が訊けるだろうと訊き耳を立てていたものの、話題には上らなかった。だからローグの振りは我々にとっても好都合だった。
「承知。ただその前に昔話を少々。私共ザルバックの歴史は戦争の歴史。独立を固持するための戦いの歴史。ザルバック城内まで敵兵の侵入を許したこともありました。そして最も苦しい時代に幼少期を過ごしたのが現国王。臣下も民も実の両親も戦争によって失った。悪名高く訊こえるかもしれないが、全てを無くした焼け野原から復興したのが現ザルバック王国である。我々の復讐を止める倫理観を、我々自身は持ち合わせていない。」
全く、人間族の悪い癖である。




