掌中之珠12
「どれ、俺が手本を見せてやるか。」
自信満々のガイア。どっしりゆったり歩を進める姿は確かに心強いのだが盾を左腕に、大剣を右手で引きずりながら歩くものだから、床からギィーギィー嫌な音が奏でられた。ちなみにガイア、片手でも大剣をぶん回せる。わざわざ床に擦る必要はないはずだが。何はともあれ、ガイアの言う戦いの手本とやらを拝ませてもらうとしよう―別に嫌味や皮肉ではない―スライムの目から見てもガイアは戦闘経験が豊富。如何なる状況にも柔軟に対応し、瞬時に解決案を見出す。加えて、その策を実行できるだけの強さと決断力を持つ。仮にうまくいかなくても、すぐに次の手を打てる。要は戦いのプロだ。そして近接戦闘に関しては天才。敵はちょっとやそっとの攻撃ではダメージすら与えられない模様。さぁ、どう出るのか。
ガイアは間合いに入っても剣を下ろしたまま。穏やかな表情で相手の目を見据えたまま、まるで攻撃の意思が見られない。我慢比べか意地の張り合いかという所で攻撃を仕掛けたのはベアーウルフ、器用に後ろ足で立ち上がり、右腕に力を込めた。まさかと、こちらの誰もが疑ったと同時に丸太みたいな腕がすくい上げるように盾をぶん殴った。面白いくらいに吹っ飛んでいくガイア。これはかなりの飛距離が出そうだ。私の頭上を越え、我々のずっと後方まで。こんな状況でも前言を撤回するつもりはさらさらないが、単細胞の大馬鹿者と追記しておく。何をどう組み立てたら正面から盾で防ぐという選択肢に辿り着くのだろうか。頑丈なのは百も承知なのだが・・・
「あのクマ公、やるじゃねぇか~。よーし、んじゃ、おっ始めるかー!」
クマではなく、どちらかというと狼なのだが、それは置いておこう。背後から威勢の良い雄叫びが響いてきた。全くダメージがないのか、頭を打ったか。ちょっとは後者が混じってくれていた方が今後の為かもと思う。
「まだ手ぇ出すなよ。も少し俺に遊ばせろ。」
通り抜け際にそう言い残してガイアは元の位置に戻っていった。困ったものではあるが、冷静さは欠いていないようだ。やられっ放しで終わる奴ではない。
さて、再度向かい合った両者。ガイアは動かない、仕掛けない。あろうことか手の甲を敵に見せて指を動かし、かかって来いよなんて挑発する始末。相手が何もしてこないのであれば、当然ベアーウルフの腕が上がる。ただしガイアの安い挑発に触発された訳ではない。自分のぶん殴った、自分よりも小さくか細い種族が起き上がり、ピンピンしていることが許せないのだ。見過ごせないのだ。本能的に警戒信号やら警報やらが◯き鳴らされてより攻撃的、暴力的になる。一発目と同じ要領で腕を振り抜き、一発目と同様に盾を殴り、一発目とは異なり盾だけが我々の後方に物凄い勢いですっ飛んでいった。
手応えの軽さはベアーウルフも気が付いていたはずだ。暖簾に腕押しなんて諺は知らないだろうが、標的が姿を消したことはすぐに悟ったはずだ。かわされた、と。しかしながらガイアとしては挑んだ力勝負に完敗。余裕の表情を見せていたものの、内心では腸が煮えくり返っていたかもしれない。まぁ、何でもかんでも力勝負から始める奴の頭の中も見てみたいが、こちらからはガイアの動きをしっかりと確認することができた。盾を囮にベアーウルフの背後に回り込む。勝負ありといいたい所だが、問題はここから。まともに入ったローグの一撃でもピンピンしている相手にどう仕掛けるか。ガイアの一撃でもダメならば考えもんである。
ガイアにしては珍しく下段の構えを取ったかと思うと、まるで稲でも刈り取るかのように剣先を下に向けたまま、ベアーウルフの膝裏を目掛けて大剣をぶつけた。いや、ぶつけるなんて生易しい響きではない。鬼も弁慶も涙する、遠心力を活かした叩き付け。見ているこっちが痛くなる。二足で立っていた巨体が膝から崩れ落ちた。突然の激痛に声も出せず、呼吸も止まって、糸を切られた操り人形みたいに、ただ質量だけはしっかりと、地下道に特大の地響きを立てた。
「行こうっ。」
ローグが我をつまんで走り出した(せめて抱えんか)。
「緒、ローグ、私は!?」
「大丈夫、ティナなら跳べる。」
そう言って、ローグはぴょ~んと道を塞いで倒れているモンスターを飛び越えて、ガイアの方へ渡ってしまった。確かにティナを抱えてでは厳しかろうて。
「ローグ!覚えてなさいっ。」
ティナに迷える時間はない。いつベアーウルフが起き上がってくるか分からない。助走をつけてティナもジャンプ。しかし惜しいことに飛距離が足りなかった。ティナも膝を抱えるようにして着地、できるかで距離を伸ばそうとはしたものの、着地したのはベアーウルフの膝の裏。追い討ちというにはあまりに無慈悲・・・
「痛ぇぞ、あれは・・・」
「あちゃ~・・・」
先で待っていた2人も顔をしかめた。
「ご、ごめんなさ~い・・・」
小声で謝りながらティナも合流した。その後は振り返ることなく、しばらくは逃げるように走って奥へと進むのだった。
幸い地下道は一本道で迷う心配はなかったが、それにしても長い。走れど歩けど出口が見えてこない。3人も疲れたというよりは変わり映えのしない外観に飽きたようで、たまにあくびなんかしながらのんびりと歩いていた。緊張感はなし。要は暇なんだな。砂漠の下を通した地下道なのだ、長くて当然。結局の所、この地下道の使用目的、建設目的な何なのか。モンスターの飼育か、商取引の隠し通路か、それとも隠し扉から別のどこかへ通じているのか。そんなことを考えているとやはりというべきか、やっとというべきか、敵さんの登場である。
影というものは実にうまくできている。普段は気にも留めない。たとえ消滅していたって気付きはしないし、害もない。反対に影が気になるという時は気を付けた方が良い。さて、実態は見えずとも角の向こうに何かいるということを、長く伸びた影が教えてくれた。ご丁寧に一体だけじゃないぞ、と。




