掌中之珠11
徐々に距離が詰まる。ひとまず単体、一匹狼のようだ。数歩前に出て臨戦態勢を摂るのはローグ。敵の手の内を暴くのは彼の役目だ。既に剣を抜き、隙あらば斬りかからんとするローグより、四つん這いでも一回り大きなベアーウルフ。
巨体を持つ四足歩行の猛獣というのは、目の当たりにすると腰が抜ける程に恐ろしい。種族間格差を恨みたくなる(スライムであればなおさらのこと)。自分と目線の高さが同じ獣を前にしたら、普通の人間であれば足が竦み膝が震え、その場でへたり込んでも不思議はない。同じ目線で対等に面と向かえるのは、相手が同じ人間族であるから。戦い慣れているという次元ではなく、こんな状況に物怖じせず突っ込んでいけるという時点でもはや異常なのである。常人の判断基準は持ち合わせていない。
ゆったりと接近していたローグが突っ掛けた。弾かれたみたいに加速し、一気に敵との距離を詰める。剣の間合いに入らんとするその刹那、左手で魔法を放った。それは火でも氷でも雷でもなく、煙。大量の白煙で敵の視界を奪うローグお得意の、かつ勇者らしからぬ戦法だった。ベアーウルフの胸元から上が一瞬で煙幕に隠れる。さすれば相手からはローグの姿が確認できない。一方のローグは下半身の位置でおおよそ頭の位置は把握できる。種を撒いた後は収穫で、敵の頭上高くへ跳び上がり、死角から剣を振り下ろす。狭い地下道が効を奏し天井を蹴ってさらに加速し、ベアーウルフの脳天へ一太刀お見舞いした。いつも通りの仕留め方だった。
器用に空中で一回転して戻ってきたローグにガイアが確認を取る。
「やったか?」
「手応えはあった。」
煙が晴れる。効果が長く続く魔法ではない。あくまで一瞬の目眩まし。それでも不意打ちを喰らわすにはもってこいの術だ。どう転んでもガイアとティナには真似できまい。さてベアーウルフはというと、倒れてはいない。目もしっかり開いたまま。血も出ていないし、痛そうな素振りもない。特に変わった様子もなく、首をぐるりと一回転。グォーと低く思い雄叫びを上げた。
「元気そうじゃねぇか。」
「ちっとも効いていないや。嫌んなっちゃうな。」
そんな話をしながらニタニタ笑う。兄弟みたいに仲が良いのは良いことなのだが、はてさてどうする気なのか―会心の一撃でほぼノーダメージ。大した相談をするでもなく、今度はガイアが前に出た。




