流れ星の下、草原の小さなロンジュ
私がその小さな町にたどり着いたのは、夕食前のお祈りをするような時間だった。
姉のアストが深い眠りについた。
虫の知らせで感じていたから、便りを受け取った時も動揺しなかったし、ずっと病でよく眠れないでいたから、これで良かったつぶやいて、弔いの言葉に涙をそえて風にのせて送ったけど、困ったことがある。
姉は男の子を残していってしまったのだ。
私がその子を引き取ることになる。
こちらの都合で旅をしながらの生活になるけど、彼が気に入った町があれば信頼できる人に預ければいい。そんな風に考えていた。
「今晩は、ロンジュ。どこ行こうか」
「ラエアーちゃん。お母さんの所に行きたい」
それはダメよとつい口に出しそうになったけど、
「お母さん、お星さまになるっていってたから、お星さまが落ちて来る所に行きたい」
だから私たちは、星空が良く見える草原でテントを張っている。
ロンジュは柔らかい草の上に寝転んで夜空を見ている。
「ラエアーちゃん、お母さんはどの星かな」
「たぶん、一番きれいに光っている星だよ」
あれかな。とつぶやいたと思ったら寝てしまった。
母親が居なくなったのに泣かないたくましい子。幼いこの子の頭を撫でながら、私も目を閉じた。
「ラエアーちゃん。起きて起きて」
ロンジュに起こされて空を見上げる。
夜空には星々が広げていて、流れ星が光を放ちながら頭を低くして私たちの上を通り過ぎていく。
近くに落ちる。
ロンジュはその星を追いかけて走っていく。
「お母さんが帰って来た」
星も月も明るいけど、暗闇はそこらで口を広げている。
その中でどんなモノが潜んでロンジュを待ち受けているか解らない。
「ちょっと危ないって」
とたんにドーンと大きい音と、闇が真っ白になる様な光で私はロンジュを見失う。
なんとかロンジュが走って行った方に向かって駆けだしていくけど、私の目は光にやられていて、転んだりして中々前に進まない。
「ロンジュ、ロンジュ、どこなの」
それでも必死で探しまわり、草原の片隅でロンジュを見つけた。
地面に大きな穴が開いている。あの星が落ちたところだ。ロンジュはその穴に入って落ちて来た小さくなった黒い石を手のひらの中に収めて見つめている。
「ロンジュ、大丈夫」
穴っぽこに足を踏み入れると、ロンジュは私の顔を見ると満面の笑みを作り掛けて来る。
「お母さん」
私の事をアスト姉さんだと思っているようで抱き着いてきた。
この子もあの光で少し目がボンヤリしているうえに、何よりも星が流れて落ちた場所で姉さん顔が似ている双子の妹が現れたんだから仕方がない。
それに姉さんと私の名前を合わせると「星乙女」の意味を持つ女神アストラエヤーになる。そして彼女はてんびん座になったとも言われている。右の天秤の皿には姉さんがいて、左の皿には私がいて、二人でバランスをとって正しくこの子と過ごせれば、そんな想いで一杯になる。
私もロンジュを抱きしめた。
まだゴムボールの様に柔らかい彼の体を抱きしめると温かかった。
「お母さんだよ」
星になった姉さんが下りて来たこの地で、私はロンジュの母親になった。
あれから、ずいぶんな時間が経った。私も寒い日は膝が痛み、旅に出ることもなく、暖炉の前でうとうとして過ごしている。
「母さん。今日は星がきれいだよ。少し寒いけど見に行こうよ」
ロンジュがピックアップトラックで私を迎えに来てくれた。
ダッシュボードの上にはあの時の黒い石が光っている。
童話になっていますでしょうか。それでも楽しんでいただければ幸いです。