魂のような何か
お気に入りの場所、廃工場
さびれた場末の喫茶店。
郊外と都市のはざま。
裏路地のホームレスと捨て猫たちのたわむれる場所。
高層ビルの孤独な作家の見える窓。
マンションの住人のごみ捨てとカラスの小競り合いの現場。
いわくつきの更地とその影で誰にも知られず毎年花の咲く穴場。
俺は何物にもなれなかった、その怒りをいまこうして、孤独に癒して、あるいは発散しているのかもしれない。時に死神となり、時に天使となり、時に悪魔となり、亡霊もしくは、神の偽物になる。
ただ『脅かす』ということだけにおいて自分の存在を実感する“魂もどきの何か”。
ある時俺は、ここらじゃある豪邸に盗みに入った泥棒が子供を刺そうとしたのを、脅かした。
その時は強盗に化け物といわれた。化け物に化け物といわれたんじゃしょうがない。
『ここで過ちを犯すな』
そうさとした。なぜなら彼が昔は心の優しいやつだとしっていたが、彼は自分と同じ心の優しい人間の
嘘が許せず、いつのまにか悪い連中と馬が合い、人生の進路を間違えた。そういうことは俺の死後の能力でわかった。
ある時俺は、川に身投げ、入水自殺しようとするOLを助けた。地獄がどういうところか脅してみせたが、俺は正体を死神といった。OLはいまだにそれが冗談だとおもっていて、その冗談に救われているのだから、俺は正体を明かしていない。口のウマイ男にだまされたといったが今度は、だます能力のない口下手な男を探せといった。
ある時俺は、スタートダッシュで渋る大学の陸上競技の挑戦者に、俺より怖いものはないと脅した。あの大学には亡霊がいるという噂があった。最も早いものに盾をついた人間がもし、競技でまけたらその次の年には命がないというジンクスだ。それをうまく利用してやったのだ。
ある時俺は、神や天使や悪魔や死神に出会って、やつらの鼻にかかる態度に嫌気がさした。
『お前ら何でも知っているふうで、それぞれの目線さえ、それぞれの苦しみさえ、わかろうとしないじゃないか』
当たり前のことなのに、なぜだか許せない。俺たち人間の苦しみは、人間にしかわからない。その人間すら、その苦しみを見ようとしないことがこんなにあるのに。
俺はただの亡霊だ。生前の記憶もなく、神にさえ、悪魔にさえ、死神や天使にさえ拒絶された。
お前の同情心は度が過ぎている。そう、俺はすべての存在から嫌われている。俺はいつ、転生すべきか
ずっと迷っている。
俺はいったいだれだろうか、おれはいったい何様だろうか、俺は何かの役にたっているのだろうか。
人を脅かしては、人に指図しては、自分が生きているふりをする。不気味で中途半端な存在ではないのか。時間は限りなく、何でも見ることができるが、知ることができるか、自分何かを蓄え、世界にてを加えることはできない。ただ、俺は、ある種の脅しの中で、偽善で、何の力も知識も知恵もないのに、自分勝手に世界に影響を与えているだけではないのか。
だがこんな風に誰にでもできるユーモアが扱えるのも、死後の世界を浮遊する余裕のある、俺、ただそれだけのことが心地がよかったりするのだ。
俺は何もなすことはできないただの、亡霊なのだ。