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ここ最近の私は社畜に片足突っ込んでいた。
うちの会社は、カリスマ☆ワンマン社長が発起した通信販売を主にしている。当初は猫の手も借りたい程に社員不足。求人誌には『主な業務:事務・雑務(未経験者歓迎)高卒可』みたいなざっくりとしか記載されていなかった。にも関わらず、高卒で就職先を探していた私は履歴書握りしめて面接に行ったのだ。
即採用され、事務作業は慣れれば私でもこなせた。事務作業は。問題は雑務だった。なんでもやらされた。今後きっと役に立つ!と周りにノセられて、まだ何も知らなかった私はヤル気に満ち溢れていた。そして、あれよあれよとお局ポジションに納まっていたのだ。
我社のマドンナ若狭さん(年齢不詳)は、私の教育係としてPC操作やお客様対応など多岐に渡って教えてくれた方なのだが、入社間もない頃、「まさに、飛んで火に入るなんとやらよね~」って呟いたのを今でもハッキリ覚えている。
休みは日曜だけ。朝6時に起床し、早めに出社。そこからは怒涛の一日を過ごし、帰宅は22時。気がついたら30歳を迎えていた。
目を開ければ、見慣れない天井が。まだ夢の中かー。まどろみつつ瞑想が始まる。
昨日の夢は良かった。めったにあんなイケメン拝めない。ありがたいなー。ありがたいなー。合掌。
「おはよう。」
「あ、おはようございます。」
「よく眠れた?」
「はい、お陰様でそれはそれは素敵な夢見れました。」
「それは良かった。少し早いけど、一緒に朝食はどうだい?」
「あ、いただきま・・・・・」
閉じかけた目をガッと見開き勢いよく体を起こした。そこには昨日の夢の中のイケメンがベッドに腰掛けコチラを覗き込んでいた。驚きに声は出ず、口があわあわと動く。私はまだ夢を見ているのだろうか??
朝イチのイケメンは、少し開けられたカーテンから差し込む朝日に照らされていた。その優しい微笑みがあまりにも眩しくて、ありがたや~と再び合掌した。
コンコン。 「失礼します。」
ノックの音がすると、一人のメイドさんが部屋に入ってきた。
「ヤマダスミレ様がご滞在中、お世話をさせていただくメイと申します。宜しくお願いします。」
物腰柔らかなメイさんは、身支度の準備を始めた。
「では、後ほど。」そう言って、セルースは隣の扉へと戻っていった。
戦いはここからが本番だった。