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目を覚まし体を起こすと、枕元にメイが立っていた。愛らしい声でおはようございますと聞こえ、飛び跳ねた。昨日、自分で身支度を済ませた事が不満でリベンジですと言う。たっぷりのお湯を使いシャワーを浴びる。そこからはメイにされるがままで、丁度ブーツの紐を結び終わった頃には、
コンコン
こんな朝早くから誰だろうと思い、メイに扉を開けてもらう。そこには、セス様が立っていた。どうやら、朝の散歩に誘ってくれてるようだ。ご令嬢方はまだ夢の中だろうとメイが言うので、セス様の申し出を受ける。庭の散歩をしながら、昨日の愚痴を零してしまった。王族批判など不敬罪でどうなるかわかったもんじゃないが、晩餐中の質問連射中、セス様は全然助けてくれなかったーとプンプンしていれば、
「止めようと思ったが、私もスミレの事をもっと知りたくなってしまってね。」
と、微笑み返されたら何も言えなくなってしまった。イケメンは正義なのだ。柔らかい朝日が後光のようで今日も手を合わす。ありがたや~。
朝食は昨夜と打って変わって、穏やかだった。来客中な事もあり豪華な朝食だったが、美味しく味わうことが出来た。そして、お店の開店時間に合わせて出発することになり、後ほど玄関前で集合となった。入れ替わりでアル様とご令嬢方が食堂へと入ってきた。ギクッとしたが、慌ててワンピースの裾をつまんで、習ったばかりのカーテシーでおはようのご挨拶。顔を上げると、アル様は興味深げに、後ろのご令嬢方は眉を顰めてらっしゃる。お?なんだなんだ??何かやらかしたかな?と焦っていると、
「淑女がそんなはしたない格好、あまり殿方には好まれませんわよ。」
なるほど!エリザベス様の遠回しな嫌味で判った。今日の装いは、安定の動きやすさ重視で膝下丈のワンピースにショートブーツだ。素足を見せるのは伴侶となられる方の前でと言う貴族令嬢ルールに乗っ取り、厚めのタイツを履いている。それに比べてどうだろう、エリザベス様は清楚ながらも、明るい髪色に負けないハッキリとしたイエローカラードレスに、その下はしっかり締め上げられているであろうクビレ。そこからふわっと膨らむスカート。裾は床すれすれだ。華美な装飾はされていないが、レースをふんだんに使っている。レイチェル様は春にぴったりな淡い桃色のドレスだ。やはり控えめな印象を受ける。まぁ、一緒に居るのが王女様だものね、と根拠のない理由を想像して一人納得する。
しかーし、今朝の私は一味違うのだ!!先程、やっぱり愚痴を零していたら、ジュリアンやメイド長のカルディまで
「負けないで!」
「女は度胸です!」
と猛烈に応援された。私は一体何の勝負をさせられているんだと、思わず笑ってしまう。あと、さん付けして呼ぶのをめっちゃ怒られた。ジルさんまで釘を刺してきた。もう身寄りのない私には、それがくすぐったくもあり、温かくもあって、このまま年下にやり込められてなるものかと奮起する。
しっかりエリザベス様の顔を見て、
「セス様は普段褒めてくださるので、あまり気にしたことがございませんでした。お気に触るようでしたら、以後気をつけます。」
どう!?貴女が好きなセス様は、こういうのが好みなんですよ!とハッキリ言ってやったようなもんだ。更にエリザベス様の表情は険しい。アル様は面白いものでも見たように、顔がニヤついている。
私は笑顔を貼り付けたまま、今から出かけますのでお先にと言い残して、そそくさと部屋を出た。その後はメイと、どうだった!?とキャッキャしながら、自分を褒めそやし、簡単にお出かけ用の身支度を整え、セス様が待つ玄関ホールへと下りていった。