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深淵の少女  作者: 高城ゆず
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銃は使い方次第

 通りが騒がしい。二人と一羽で屋根から顔を出して下を覗くと、セシリアが苦戦していた。両手では足りないほどの数の人形にクレイモアを振るっている。切っては退かせ、切っては退かせを繰り返す。しかしそれはまるで意味がなかった。

 切られた人形はすぐに糸が繋がれて復活してセシリアを襲っている。

「あれを早くなんとかしな──」

 言葉が途切れ、モニカの体が薙ぎ倒される。それをしたのはナスチャだった。腹部の赤色の模様を歪ませて巨人のように大きな手を生み出し、それでモニカを横に薙ぎ払ったのだ。

 ナスチャの生み出した手がバラバラに切り刻まれてボトボトと落ちる。

「ナスチャ──」

 モニカの視線の先には本絹で作られたストールのような殺気を纏ったマルクトが立っていた。指からは糸が出ており、生命体のようにふわふわと宙に浮いている。

 すぐさまヴェロニカが拳銃を構え、銃口をマルクトに向ける。

「仲間なんじゃないの? あなたたち」

 マルクトが路傍にぶちまけられた吐瀉物を見るような目で一行を眺める。

「それなのに容赦なく首を切っちゃうなんて、人でなしよ」

 唾棄するように言うマルクトに対して、

「あなたには言われたくないよ。わたしは醜態を晒してまで生き延びたくはないの。ましてやこの手で人を……仲間を殺すなんて真っ平御免だね!」

 と声を荒げたのと同時にトリガーを引いた。祈りを込めた銀の弾丸がマルクトの頭部に吸い込まれるように飛んでいく。それを待っていたかのようにモニカも飛び起きると踏み込んで首を切り落とそうとサーベルを振るった。

「単調な攻撃ね」

 マルクトは小さく息を吐くと、弾丸を片手で操る糸で切り刻み、もう片方の手でサーベルの真ん中辺りを殴った。粉々に刻まれた弾丸だった金属がパラパラと散り、サーベルがへし折れた。

 折られた剣先が高い音を立てて転がった。

「──え?」

 想定外のことに呆然とするモニカに対してヴェロニカは冷静だった。すぐさまモニカに体当たりをしてマルクトの正面から姿を消す。

 刹那──空気が凍てつき、時が止まったような空間と化した。そこから皆を引き戻したのは、今いる建物が真っ二つに割れたことによって発生した音だった。一拍置いて建材が少しずつ崩れていく。

「それはないでしょ!」

 思わずヴェロニカが叫んだ。それもそうだ。まさかマルクトが操る糸がこれほどまでに切れるとは思っていなかったのだから。

 心ここにあらずと言わんばかりに両断された建物を眺めているモニカの口から、

「当たったら……即死だよ……あれ……どうするの……もう……だめなんじゃ……ないかな……」

 と言葉が漏れた。声は蛇に睨まれて怯えている小動物を彷彿とさせる震えっぷりだった。

「諦めないで! 死ななきゃ大丈夫! 生きているだけで勝ちだから!」

 ヴェロニカがモニカの頬を拳で殴ると腕を引っ張って無理やり立たせた。

 マルクトが二人を一瞥すると、

「私の目的はそこの鳥。あなたたちは邪魔をしないなら殺さないであげる。だから端に寄っていてよ」

 と吐き捨てるように言うと両手にあやとりのように糸を張り、ナスチャを見据えた。

「え? ぼく? やだよ、面倒くさい。きみは……えっと、あれでしょ? 動物愛護団体に喧嘩売ってる人でしょ? だから嫌い。じゃあね、ぼくはセシリアと帰るから」

 ナスチャが踵を返そうとすると、体に糸が巻きついてズタズタに切り刻まれた。肉の混じった鮮血をぶちまけて辺りを汚す。しかし体はすぐに元の状態に戻った。血肉は一ヶ所に吸い込まれていき、白くてふわふわした触り心地の良い羽を生やした鳥になった。

 ナスチャは眉をひそめ、心底うんざりした顔でマルクトを見つめる。

「この程度ではどうってことないのね。なら──これならどう?」

 マルクトが十本すべての指を曲げて叫ぶ。

「異能力──人形劇『人柱』」

 指から一斉に糸を飛ばしてナスチャに絡みついた。すると糸は指から離れて建物に刺さった。糸が張られてナスチャの体に食い込んだ。透明な糸が赤く染まる。

 ナスチャが腹部の模様から刃を生み出して糸を切ろうとすると、

「この糸の性能はいくらでも変えられるの。だから切ることはできないよ」

 と言って糸をさらに強く張った。


「早くセシリアを助けないと」

 ナスチャがマルクトと対峙している一方でモニカが通りを俯瞰して言った。

「でも……私がここで加勢してもあの数は無理だよ……」

 唸って頭を抱えるモニカを横目にヴェロニカが口を開く。

「さっき……使用済みの燃料缶を見た。だから一か八かでそれを使えば助けられるかも……」

「えっ? それをどうやって使うの?」

 モニカが首を傾げる。

「燃料缶ってのは中身を使い切ったとしてもいくらか気化したガスが入ってることが多い。だからそれにこれを使って引火させれば爆発する──はずなんだよ」

 ヴェロニカは手に持っている拳銃をクルクルと回して見せた。

「そうなんだ! じゃあ、急がないと! ──缶ってどこにあるの?」

 モニカが勢いよく立ち上がって辺りを見回す。

「今いる建物の宿泊施設側にあったよ。ここは料理店、だから他の施設よりもそこそこ燃料が──」

「分かった!」

 ヴェロニカの話の途中でモニカは駆け出した。屋根に手をかけて下の階に飛び降り、目的の燃料缶を探した。

 銀色の缶に赤色で注意書きがされているそれらしきものを見つけたモニカはそれを屋根に投擲して先に上げると、自身もすぐに登った。

「よし、じゃあこれを通りに放り投げよう。それをわたしが撃つから」

「りょーかい」

 モニカがセシリアのいる通りに向かって、

「敵を引きつけて逃げて!」

 と叫んだ。

「よし、あとは投げるだけ! モニカ頑張れ!」

 拳銃を構えてヴェロニカが息を吐いて集中した。

 モニカが缶を通りに向かって蹴落とした。金属製の重い缶は地上に向かってまっすぐ落下していく。

「耳を押さえておいて!」

 ヴェロニカがトリガーを引く。銀の弾丸が飛んでいき、宙にある缶を貫いた。

 刹那──耳をつんざくような爆音が響き渡った。衝撃波が飛んできて体に衝突する。

 尻餅をついたモニカが恐る恐る通りを見下ろすと、火柱が上がっていた。よく見るとその中には先ほどセシリアを襲っていた人形たちがいた。

 人形は燃えており、もうこれ以上動くことはないように見えた。

「……上手くいったみたいだね」

 ヴェロニカが立ち上がり、振り返った。するとそこにマルクトの姿はなかった。あるのは複数の糸で宙に磔にされているナスチャだけだった。

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