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深淵の少女  作者: 高城ゆず
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形勢逆転 後編

「……形を変えたとしても吸血鬼に急所は必ず存在するから、きみたちは頑張ってそれを探して。ぼくはきみたちが死にかけたら助けてあげる。それ以上のことはしないよ」

「それで十分だ」

「ありがとう」

 ナスチャの言葉に二人は頷いて、それぞれが得物を構えた。

 次の瞬間、セシリアが地面を強く蹴って砂の巨人と距離を詰めた。急所が分からない今、とりあえず頸部を狙うことが得策だ。しかしそこはあまりにも高すぎて、インテリゲンツィアの支給品で筋力を上げていても届きそうにはなかった。だからセシリアは転倒を狙って足首を切りつけた。

 クレイモアで薙ぎ払うが、水を使って圧縮された高密度な砂はとても硬く、上手く刃が通らない。

 これ以上力を加えたら折れると察知したセシリアは刺さったクレイモアを引き抜いて横に跳んだ。刹那、セシリアがいた場所に巨大な拳が叩きつけられる。

 踏ん張っていなければ転んでしまいそうなほど地面が揺れた。着地した直後ということもあり、セシリアは体勢を崩していた。そこを砂の巨人は逃さなかった。

 叩きつけた拳で今度はセシリアを掴もうと手を伸ばした。

 セシリアがそれを回避しようと不安定な体勢で地面を蹴ったが、大して距離は稼げず、呆気なくセシリアは捕らえられた。

「「セシリア!」」

 ヴェロニカが発砲するが、当然ながら弾丸は弾かれてしまい意味をなさない。一方でナスチャは傍観を決め込んでいるようで行動は起こさなかった。

「──クソっ! 離せ! 離せよ!」

 叫びながら掴まれている手から逃げようともがくが無駄だった。砂の巨人はセシリアを握る手に力を込めて体を圧迫していった。骨が軋み、セシリアは苦痛に顔を歪めるが、それだけでは済まなかった。できれば聞きたくない音がセシリアの体から聞こえた。

 痛みから絶叫するセシリアの脳裏にあることが浮かんだ。それはこの任務に就く前にあったヴィクトリアによる地獄の特別訓練のことだった。

「……危うく大切なことを忘れるところだった」

 冷静さを取り戻したセシリアはヴィクトリアに教えてもらった呼吸法で集中し、クレイモアを握る手の力を弱めて適切なものにすると、手首を捻って勢いよく振り上げた。

 先ほどはまったく切れなかったことが嘘のようだった。刃は上に突き抜けて、指は綺麗に切断されていった。形作っていた砂は蜘蛛の子を散らすように崩壊してシャワーのように地面に落ちていった。

 砂の巨人の手から力が抜け、セシリアはそのまま地面に落下するかと思えば、必死に手にしがみついて落ちないように抗った。それは当然の行動だった。七、八メートルの高さから落とされては、例え地面が砂とはいえただでは済まないからだ。それにセシリアには狙いがあった。腕を伝って首を狙おうとしていたのだ。

「お前、よくも僕の骨を折ってくれたな! 万死に値する!」

 自分を鼓舞するように叫びながら、セシリアはとても骨折しているとは思えない敏捷な動きで砂の巨人の腕を駆けていった。

 小さく息を吐いて緊張してこわばった体の力を抜くと、全身を軟体生物のように柔らかくしてクレイモアを振り下ろした。硬いはずの金属は縄のようにしなって砂の巨人の首を切り裂いた。

 しかし手応えはない。それどころか切った瞬間から塞がっていき、今の攻撃はなかったことにされた。

「そりゃないだろ!」

 思わずセシリアが文句を言った。

「セシリア! とにかく切って切って切りまくって! 何度もやってれば修復が追いつかなくなるかもしれないから!」

 地上からナスチャの指示が飛んできた。

「了解!」

 セシリアは大きく息を吸い込むと、少しずつ吐き出しながら暴雨のように攻撃を繰り出した。

 一箇所にとどまっているとまた掴まれかねないからセシリアは適度に跳躍を混ぜて攻撃を躱しながら、頸部から頭部にかけてを切り刻んでいった。

 しかしどれだけ切っても傷はすぐに塞がってしまい、セシリアの攻撃はまったく効いていないようだった。

 一方でセシリアの顔からは不気味なほどに青白くなっており、限界が近いことが窺えた。呼吸は浅く小刻みで、瞳から生気は失われて虚ろになって、動きは鈍くなっている。

「なんで変わらないん──」

 言葉が途切れた。攻撃を避けようと跳躍して宙に浮いた瞬間、セシリアの胴体に砂の巨人の拳が激突した。

 受け身をとることなく後頭部から地面に叩きつけられたセシリアの意識は、抗うことさえ許されずに一瞬で刈り取られた。

 セシリアは頭から出血しており、砂の一部が赤く染まっていた。

「……そろそろ本気出すよ」

 いつまで経っても起き上がらないセシリアを見たナスチャの声は濃厚な憎悪で満たされていた。

 腹部の模様を歪ませて鋭利な牙を持つ肉食獣の頭部を形成した。ナスチャはそれで砂の巨人の足を食いちぎろうと飛ばしたが、その必要はなかった。

 突如として砂の巨人の腹部が膨張し、弾けたのだ。

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