表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵の少女  作者: 高城ゆず
56/196

特別訓練 後編

 ヴィクトリアによる地獄に落ちたほうがマシとも言えるほど苦しい訓練を一ヶ月間耐え抜いた。

 ランニングは二時間以内にほとんど息切れすることもなく余裕を持ってこなせるようになったし、ヴィクトリアによるデコピンをただひたすら耐え続けるという意味の分からないものにも口答え一つせずに行えるようにもなった。

 そして今日は久しぶりに金属の立方体が設置された部屋で戦闘訓練をした。それは互いにクレイモアを一本ずつ持って戦うというものだ。当然ながらここで使用するクレイモアは実戦で使うものだから切れ味は抜群で、危険が伴う。

 制服は特殊な繊維から作られているので、僕たちが使用する銀の武器含め、一般人が入手できるようなものではそうそう傷ついたりはしない。──要するに金属よりもこの布のほうが圧倒的に丈夫なのだ。

 制服に覆われているところに当たる分には打撲程度で済むから良心的だが、それ以外の腕や脚に当たったらただでは済まない。

 ヴィクトリアによって四肢を切断されたのは一度や二度のことではない。切られるたびにヴィクトリアの血液で繋げられて、すぐに訓練に復帰させられた。

 そのように地獄は幾度となく繰り返されたおかげか、手足がなくなる痛みには強くなった。呼吸法を会得したわけではないので痛いことには変わりはないが、最近は『はいはい、またですか』という感じで流せるようになった。

 ──自分が人の形をしたなにか別の生命体になったような気がする。


 こうしてまた今日も訓練を終えた。


 それからしばらくしたある日、また戦闘訓練が行われた。

 これまで皮膚は疎か、服の端や髪の毛一本たりともヴィクトリアに当てることはできなかったが、それをようやく達成することができた。


 ヴィクトリアによって教えられた呼吸法を常に使えるようになったおかげで、体が昔より何倍も軽くなったように感じられた。それはまるで自身が蝶にでもなったかのようで、僕は空を舞うようにして刃を振るう。

 体力も増加し、息切れとは暇乞いをした。

 クレイモアで薙ぎ払う。そして踏み込んだ足を軸にして体を捻り、上から叩きつけるように振り下ろす。

 そこそこの質量を持つこの武器をこれほどまでに軽々と扱える日が来るとは思いもしなかった。

 ヴィクトリアに攻撃する隙は与えないほど連続してクレイモアを振り回す。しかしヴィクトリアの表情はまったく変わらない。一切の感情は表出しなかった。

 互いの武器が連鎖反応のように衝突する。音が空間にうるさいほどに響いた。

 僕はただひたすらにクレイモアを振り続けた。そして──。


 ──静寂が訪れた。


 ヴィクトリアのクレイモアを握る手を切断した。武器を握ったままの片手は宙を舞う。しかし僕はそれに気づかず、さらに薙ぎ払った。

 刹那──新しく設置されていた金属の立方体が横に両断された。

 ヴィクトリアは手を切り落とされたにも関わらず、とっさに態勢を低くして薙ぎ払いを回避した。

「……やれば……できる……じゃん……」

 その声によって僕は現実に引き戻された。

 目の前には二つに割れた金属の立方体だったものがある。

「……これは?」

 自分の手にあるのは傷のないクレイモア。僕はヴィクトリアのほうを見る。

「……セシリアが……切ったんだよ……」

 ヴィクトリアは切断された手を拾うと、向きや角度を確かめながら切断面に宛てがった。そして驚異的な速度で骨や筋肉、神経、皮膚を繋げていく。

 細胞の一つ一つが活性化し、瞬く間に手は元通りになった。

 ヴィクトリアは手首を捻って完治したのを確認すると、

「……じゃあ……これにて……特別訓練は……終了……お疲れ様……」

 と言って手をひらひらとさせながら去っていった。


 僕は訓練中ずっとついてきてくれたナスチャを頭に乗せると、すぐさまヴィクトリアを追いかけた。

 いくつか聞きたいことがあるからだ。これを逃せば次はいつ会えるか分からない。──なんとしても捕まえなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ