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深淵の少女  作者: 高城ゆず
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特別の偽装 中編

 お布施からくすねた現金を使い切ったから、すぐさま物品を売り払って現金にして当分の生活費を工面したが、やはり足りなかった。節約生活が始まって最初のうちは一日三食を二食に減らし、食べるものも肉から炭水化物オンリーに変えて腹を膨らませて食費を抑えていたが、劇的な変化はなかった。だから今度は一日一食に減らし、さらにはその一食の量も少なくしていった。だが大きな改善にはならなかった。

 とうとう所持金が尽きて安宿も追い出されたわたしは、街を放浪してホームレスとなった。

 お腹が鳴る。

「……うーん……困った……食べるものがないじゃないか……」

 空腹から足取りも重くなってきた。

 大きなため息をついて、わたしは最終手段を実行することを決意した。

 ──これはできればやりたくないんだけれど、生きるためにこれしかないのなら、やるしかないよな。

 もう一度大きなため息をついた。


 わたしは意図してぼろぼろの洋服を身につけると、体を壁に打ち付けて皮膚を絵の具のパレットのように鮮やかな色に仕上げ、路傍にしゃがみ込んだ。それから自分の前にボコボコに凹んだいびつな形をした、容量一リットル程度の金属バケツを置く。

 ──はぁ、物乞いすることになるとは思わなかった。いや、他の方法もなくはない、なくはないのだが、現状ではこれがもっとも手っ取り早いのだから仕方があるまい。

 日中のこの通りは忙しくない人がそこそこの人数通過するから、選択は間違っていないだろう。それに加えて、ここはギャングなどの反社会的な組織もないのだ。だから他のスラム街と比べたら、まだ安全なほうだと思われる。

 朝日が昇り、少しずつ街に人が増えていく。太陽が頂点に到達する頃には、通りは気をつけないと人同士がぶつかってしまうほど賑わいを見せていた。

 わたしには白化しているという特殊な容姿に加え、人を惹きつける能力があるようで、通りすがりの人々が小銭をバケツへと入れていってくれる。

 頭を下げたまま金属がぶつかる音を聞く。夕方になる頃には、金属バケツに入れられたときの音でいくらの硬貨が入ったのかを識別できるようになっていた。

 ──わたしにこのような能力があったとはなぁ……使い道ないけれど。

 日が暮れてきて通りの店も閉店の準備を始め、人通りが少なくなってきた頃、わたしはようやくバケツを持って立ち上がった。わたしの生命線を抱え、路地裏へと足を運んだ。

 人気のない路地裏でバケツの中身を確認する。

「……一、二、三、四──これで二週間は生きられそうだな」

 そっと胸を撫で下ろしたわたしはお金を持って路地裏からいつも利用していた安宿へと向かった。

 受付で未払い分と僅かにチップを付けて支払うと、職員はにんまりと笑っていつもの部屋の鍵を渡してくれた。


 またある日、物乞いをしていると、自分と同じく白化していて、ぼろ雑巾のほうがまだましだと言えるような格好をした少年がわたしの隣に腰を下ろした。それにわたしは心臓が飛び出そうなほど驚いたが、それを表層には出さずに、

「……なんだ?」

 とわたしは俯いたまま小さく言った。すると少年は、

「きみ、キモい」

 と吐き捨てるように言った。次の瞬間、少年が仰け反るようにして吹っ飛んだ。わたしの手がじんじんと痛む。

「……おい、お前、今なんつった?」

 手の痛みに対して涙を浮かべながらゆっくりと立ち上がると、仰向けに倒れた少年を見下ろした。

「きみ、キモい」

「あァ?」

 わたしは少年の脇腹を蹴り飛ばした。すると大した質量を持たない体は宙に浮く。

 ──痛ッ。靴ぐらい履いておくべきだったな。

 当然ながら蹴ったわたしの足に痛みが走ったが、少年はそうではないようだ。少年は苦痛に顔を歪めることなく、他人事のようにわたしを見つめてきた。

「……なんだよ」

 背中を嫌な汗が伝う。最初、わたしの隣に座ってきたときからこいつが異常だということは分かっていた。それは──こいつが隣に来ていたのに、その気配をわたしは感じ取ることができなかったのだ。

「こんなことしてなんか意味あるの? 馬鹿じゃ──」

 少年が声を発したのと同時に、わたしは少年の仰向けになっている少年のみぞおちを踏みつけた。薄い肉と詰まっている内臓のぷにぷにとした柔らかい感触が足から伝わった。

 ──人に馬鹿にされるってこういう気分になるんだな。不愉快だ。

 少年のみぞおちに少しずつ体重をかけていくが、少年の顔色はまったく変化しない。

「これがもっとも手っ取り早いんだ、口出しすんな、このダボ」

 片足に全体重をかけて内臓が潰れそうなほど踏むが、やはり少年は余裕といった表情を浮かべている。

「き……みも……分かって……ない……なぁ……もっと……効率……いいの……ある……のに……さぁ……」

 少年の口から声と共に空気が漏れ出した。

「効率……? そんなものは分かっている。だがそんなのお前には関係ない話だろ?」

「ぼく……に……良い話が……あるん……だけど……それを……すれば……簡単に……稼げ……る……」

 少年は薄幸に笑った。

「……はぁ……分かった、分かった。話は聞いてやる」

 大きなため息をついたわたしは少年を踏みつけていた足をどかして、立ち上がらせた。それから手首を掴んで路地裏へと引きずっていく。

「……それで? 良い話ってなんだ?」

 わたしは少年の胸ぐらを掴み、睨んで言った。

「それはねぇ……」

 少年はもったいぶってなかなか話し始めないものだから、それに腹が立ったわたしは三発ほど顔面を殴りつけてやった。

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