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プロローグ・天界

 地上を見つめる神がいました。

 その神は女神でした。

 女神は一人の男性を見ていました。

 信念を、願いを持ちながら、叶うことなく、挑むことすらできずに生涯を閉じてしまった男性を。


「彼の貢献で、あのような最期はあまりにもかわいそう」


 慈愛に満ちた瞳で彼を見つめる女神は、一つの祝福を与えることにした。


 その祝福は転生。

 その祝福は彼という人格を器に共存させる。

 その祝福は願う能力をそのまま引き継ぐ。


 右手に持つ金色の錫杖を鳴らすと、同時に腰まで伸びるふわりとした金髪も揺れる。

 金色の光が錫杖から溢れ出し、うつ伏せに倒れている彼に降り注ぐ。

 そして、女神は彼に接触を図りました。


「目覚めなさい──アルベルト・マリノワーナ」

「──……な、何があったのだ? 俺は、死んだはずでは?」

「あなたの器は最期を迎えています。ですが、あなたの魂を呼び寄せました」

「俺の、魂? あなたは、いったい?」


 死ぬ間際の姿で女神と対峙しているアルベルト。

 何が起きているのか理解できないまでも、女神の姿を見た時からその言葉がストンと胸の中に落ちてしまっている。


「私は神、女神のヴァリアンテ・トゥエル・フリエーラです」

「……女神様?」

「ヴァリアンテ、と呼んでください」

「は、はい。その、ヴァリアンテ様はどうして私を? そして、ここはどこなのですか?」


 アルベルトはヴァリアンテ以外誰もおらず、そして何もない純白の空間に視線を巡らせる。

 女神、というくらいだから自分が死んだのは間違いなく、ここは天国なのだろうかと勝手に推測してしまう。

 国家騎士団長として魔物と対峙し、あらゆる戦場から生きて帰ってきたアルベルトは、分析をすることが癖のようになっていた。


「ここは私の空間」

「空間?」

「異世界へとつながる空間、といえば分かりやすいかしら」

「……すみません。私は頭が悪いもので」


 戦いに関しての知識は豊富、そして生き抜くための臨機応変さを備えているアルベルトだったが、素の知識は自分で言う通りあまり良い方ではなかった。


「構いません。ここに関してはそれほど重要ではありませんから」

「は、はあ」

「私があなたの魂を呼び寄せた理由をお伝えいたします。私は、あなたの魂を転生させます」

「俺の魂を、転生?」

「はい。あなたという人格をそのままに、望む能力を一つだけなら転生した器へ与えてあげましょう」

「俺の望む、能力ですか?」

「えぇ。あなたが転生した先でどうしたいか、何を望むのか、それを見越してお決めください」


 ヴァリアンテは分かっていた、アルベルトが何を望むのか。

 アルベルトは考えるまでもなかった、何を望むのか。


「俺は、俺の剣術を望みます」

「転生先の器でも、剣の道へ進みますか?」

「はい。俺には、剣しかありませんから」


 苦笑するアルベルトは腰に差していた剣の柄を握ろうとしたが、そこに剣はなかった。というよりも、今さらながら自分が全裸であることに気がついた。


「おあっ! も、申し訳ありません、ヴァリアンテ様! み、見苦しいものをお見せしていたようで!」

「構いませんよ。私も目の保養──ではなく、私があなたの魂をこちらに呼び寄せたのです。器を失った魂に纏うものなどありませんからね」

「……そ、そうですか」


 そうは言われても、自分が全裸であると分かれば堂々と立っていられるわけもない。

 アルベルトが腰を引いて体を折って男性の大事な部分を隠していると、ヴァリアンテは微笑みながらまさかの発言を口にした。


「堂々と、お立ちなさい」

「いや、無理ですから!」

「これでは目の保養──ではなく、話ができないわ」

「で、ですが、さすがにこれは……」

「私が構わないと言っているのですから、構わないのです。というか、立って!」

「は、はい!」


 突然強い口調で言われてしまい、女神の不興を買ってしまったと思ったアルベルトは直立不動で立ち上がった。

 顔まで上を向けてしまっていたので見ていなかったが、ヴァリアンテの視線はしばらくアルベルトのやや下辺りを見ていたことに気がつかなかった。


「……ぐふふっ、いいでしょう。それでは、話を戻しますね?」

「は、はいぃぃ」


 あまりの緊張で言葉の端々に変な声が混ざっていることに気づいていないアルベルト。

 ヴァリアンテも気づかれていないのであればとそのまま話を進めてしまう。


「それでは、アルベルトには剣術の能力を器に移して転生を行います。……この世界では、辛いことが多くありましたね」

「……辛いことばかりではありませんでしたが、そうですね。故郷を離れてからは、そうだったかもしれません」

「新しい器では、あなたが思うがままに生きると良いですよ」

「……ありがとう、ございます、ヴァリアンテ様」


 お礼を口にした直後から、アルベルトの肉体から金色の光が溢れ出した。


「こ、これは?」

「あなたの魂が、新しい器を見つけたようですね」

「……お別れ、なのですね」

「違いますよ、アルベルト。これは新たな旅立ちです。それに、私はいつまでもあなたのことを見守っていますよ」


 微笑むヴァリアンテを見たアルベルトは、涙ぐむ顔を見られないようにと頭を下げる。


「それでは、いってらっしゃい。アルベルト・マリノワーナ」

「はい、いってきます!」


 足元から徐々に金色の光に変わっていったアルベルトの肉体は、ついに全てを光に変えて消えてしまった。

 微笑みを作っていたヴァリアンテは、アルベルトがいなくなった途端にニヤニヤ顔になり両手を頬に当てて喜びを露わにしていた。


「いやー! 素晴らしいアレを見せてもらったわ! 堅苦しい喋り方も終わりだし、今日の私の仕事はおーわりっと! 残りの時間はアレを思い出しながら……思い出しながら、ぐふふふふっ!」


 女神ヴァリアンテ。

 同じ神たちからは()()()と言われ続けてきたヴァリアンテは、事あるごとに問題を起こしてきた問題児ならぬ、問題神である。

 今回の転生も、たまたま地上を見つめていたら好みのタイプの男性が倒れていたから転生させよう、あわよくば目の保養をしようと考えての行動だった。


「……あれ? そういえば、アルベルトの転生先ってどこだっけ?」


 今さらながら転生する世界──異世界について調べ始めたヴァリアンテは、口端をピクピクと引く突かせながら頭を抱えてしまう。


「……やっちゃった。これ、アルベルトにとって最悪の転生先じゃない?」


 一度転生させた魂を引きはがすことは神であってもできることではない。できるとすれば、器が最期を迎えた場合のみ。


「……まあ、いっか。アルベルトならなんとかするんじゃないかしらん?」


 両手を後頭部へ回し、口笛を吹きながらアルベルトのアレを思い出そうとしていたヴァリアンテ。


 ──しかし、この後すぐに別の神から怒られることになるのだった。

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[一言] いと芳しき駄女神の臭いが…………
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