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武芸者

 しかし、この国ではなぜに武芸者がこうも排斥される対象になってしまったのだろうか。


「チグサさん。武芸者の方々はいったいどのようにして生活をしているんですか?」

「私は運良く旦那様に拾っていただきましたが、多くの武芸者は冒険者として自由気ままに生きている者が多いと思います」

「冒険者……チグサさんも元は冒険者をやっていたんですか?」

「はい。その時にとある依頼を旦那様から受け、達成した時にそのまま雇われの身となりました」


 貴族として今まで生きてきたアルにとっては初めて知る冒険者の存在。

 ならば、剣術に秀でた冒険者も中にはいるのではないだろうか。


「ですが、私のように師に教えをこいてその身にしている者は少ないかと」

「そうなんですか?」

「はい。そもそも、先祖代々などといった武芸を継承している者はひっそりと暮らしているか、それこそ極秘で護衛任務を直接受けている者などでしょうね」

「だったら、チグサさんはどうして冒険者に?」


 チグサほどの実力者なら先祖代々の武芸を継承している方だとアルは考えた。

 これだけの実力者がゴロゴロいれば剣術が過去の産物になどなるはずがないという気持ちもあるのだが、その思いを別にしても気になるところではあった。


「……単純に、憧れです」

「憧れ?」

「はい。村の中だけではなく外を見てみたい。村のすぐ外だけではなく、もっと遠くを見てみたい。さらにその先を、先をと、世界に憧れを抱いたのです」


 さらに先へという気持ちはアルにも理解することができた。

 剣術を極めるには立ち止まってなどいられない。さらに先へ、さらなる高みへ、さらなる強者を求めて歩き続けてきた。

 毒殺という滑稽な死に方をしてしまったものの、死ななければその歩みはいまだに止まることはなかっただろう。


「ですから私は、海をも越えてこの地にやって来たのです」

「……う、海ですか!?」

「チ、チグサさん、あなた、カーザリアの出身ではないのですか?」

「はい。……? その、気付いていらっしゃらなかったのですか?」

「「……はい」」

「……恐れながら、チグサという名前はカーザリアではいないのでは?」


 普段から呼び慣れていたこともあり気にしたことがなかったが、改めて言われてみると確かにそうだとアルもエミリアも数秒の間を置いて頷いている。

 冷静なチグサもこの時ばかりは苦笑を浮かべていた。


「……ま、まあ、そういうことです。私にとっては海を渡ったことが大きな転機にもなりました。素性を知る者もなく、自由気ままに生きることができ、そして旦那様に拾われた。故郷のジーグリア大陸に留まっていたら、これほどの暮らしを手にすることはできなかったでしょう」

「……ジーグリア大陸。別の大陸かぁ」

「アル君? 変なことを考えてはいけませんよ?」


 羨ましそうな声をアルがこぼしていると、すぐにエミリアが釘を刺してきた。


「あはは! ま、まさかー! そんな、変なことなんて考えてませんよ?」

「……アルお坊ちゃまは分かりやすいですから」

「チグサさんの言う通りですよ。全く、剣術を習わせてもらっているのに、さらに別の大陸に行きたいなどと仰られては旦那様と奥様が可哀想ですよ?」

「……はい」


 チグサからも追い討ちを掛けられたこともあり、アルは渋々頷くことしかできなかった。


「しかし、アルお坊ちゃまは本当に強くなられましたね。これほど早くに完璧な一本を取られるとは思いませんでした」

「やっぱり、手加減をしていたんですね?」

「アルお坊ちゃまと同じで、私も裏庭では全力を出すことができませんでしたから。ですが、今回は全力を出して一本を取られたのですから、完敗です」

「……あ、ありがとうございます!」


 贔屓目なしの褒め言葉にアルは素直にお礼の言葉を口にしていた。


「ここに魔法を組み合わせることができれば、学園では使えなくとも実戦では相当有利に戦うことができるでしょう」

「そうですね。本当に、これからアル君への指導方針を学園よりの指導か実戦寄りの指導か、どうするべきかが私の悩みの種になりそうです」

「……ちょ、ちょっと待ってください!」


 チグサとエミリアの話を聞きながら、アルは一つの疑問に思い至った。


「あの、二人とも学園では使えないとか、学園寄りの指導とか言ってますけど……その、剣術って学園では使えないんですか?」


 魔法が全てレベル1だから剣術に活路を見出そうとしたアル。

 それは単純に剣の道を極めたいからだけではなく、学園で良い成績を出すためにも使えると思っていた。


「……アルお坊ちゃま、何を言っているのですか?」

「……アル君、学園では魔法のみが評価対象になるって言ったでしょう?」

「聞きましたけど、学園での授業にも実戦はありますよね?」

「ありますが、それも全て魔法のみを使用することになっています。剣術は使いませんし、そもそも帯剣をしている人なんて一人もいませんよ?」

「……全く評価されないんですか?」

「「されません」」

「……どれだけ強くても?」

「「されません。むしろマイナスになるでしょう」」

「……そ、そんなああああああああっ!」


 アルの学園生活は、お先真っ暗になるかもしれない。

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