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二年後の剣術は

 魔法に関しては自信をつかみきれない状況だったのだが、剣術については徐々に手ごたえを感じ始めていた。


「はあっ!」

「良い打ち込みです」


 大きく踏み込み袈裟斬りを放つアル。

 腕、身体、足腰、全ての筋肉を使い切り放たれた渾身の一振りだったのだが、チグサには見切られていた。

 アルの身体の動きを見抜き、どういった攻撃が放たれるかを瞬時に推測、その中から目視で確かめるとアルが動き出して一秒も経たずに迎撃に動いていた。


「だけど、それも予想済みです!」

「はい、こちらも良い打ち込みです」

「くっ! これもダメなんですか!」


 アルにとって袈裟斬りは囮。

 振り抜いた後に左側に回り込まれるだろうと予想していたアルは流れるような動きでチグサの方へ身体を向けると即座に斬り上げを放つ。

 だが、それでもチグサの思考を上回ることはできなかった。

 チグサの右の木剣がアルの袈裟斬りに対して切っ先を向けると、針に糸を通すかの如き神業で刀身が逸らされると首を軽く横に傾けるだけで回避されてしまう。

 そして、左の木剣がアルの左の脇腹に当てられたことで立ち合いは終了となった。


「……はぁ。今日は一本も取れませんでしたね」

「一〇回に一回は一本を取れるようになったのは、素晴らしい進歩だと思います」


 アルは二年を掛けて、ようやくチグサから一本を取れるようになっていた。

 それでも一〇回に一回しか取れないのだが、アルにとっては子供の肉体でチグサから取れた一本というのはとても嬉しいことだった。


「魔法学園に入学する頃には、私では相手をできなくなるかもしれませんね」

「それはないと思います。チグサさん、ものすごく強いですから」

「ありがとうございます、アルお坊ちゃま」


 二年を掛けて分かったことだが、チグサの実力は前世の世界でも五本の指に入るのではないかということ。

 そして、今はまだ手加減をしてくれているということも。


「……あの、チグサさん」

「どうしましたか?」

「どうしてチグサさんは魔法を使わないのですか?」


 チグサはアルと立ち会う時に一度も魔法を使っていない。

 戦うには魔法が不可欠とされている魔法国家カーザリアでは絶対に考えられない戦い方を今のチグサは行っているのだ。


「私が魔法を使ってしまうと、アルお坊ちゃまと打ち合うことすらできませんから」

「……それは、今の僕が弱いということですね」


 当然のことなのだが、はっきりと口にされると悔しいことではある。

 しかし、チグサはゆっくりと首を横に振っていた。


「違います、アルお坊ちゃま。木剣では魔法に耐えることができずに打ち合えない、ということでございます」

「それは……それだけ魔法が強力だということですね」

「その通りです。ですから、剣術は過去の産物に成り下がり、魔法が研究され、より強力なものへと進化していったのです」


 凛とした声音で淡々と事実を告げるチグサ。

 真っすぐに立っているその姿からは隙を見つけることがアルにはできない。


「チグサさん程の達人が、剣術が過去の産物に成り下がっている姿を見るのはつらかったんじゃないですか?」


 アルがその時代に立ち会っていたなら、耐えられなかったかもしれない。

 剣術は強いのだと声をあげ、頑なに剣術に固執し、時代に置いて行かれてしまうかもしれない。

 それは、アルも達人だったから。剣術に命を懸けていたから。

 アルはチグサにも同類の匂いを感じ取っていた。


「どうでしょうか。私が生まれた頃にはすでに剣術は過去の産物になっていましたから。ですが、私の両親は何があるか分からないと言って剣術を教えてくれたのです。最初の頃は何故このようなことを? と思ったこともございましたが……今となっては感謝しております」

「それは、どうしてですか?」


 アルの言葉に、チグサは目元を笑みの形に刻んで答える。


「ノワール家に拾っていただき、旦那様の護衛に就けただけでなく、アルお坊ちゃまに剣術の指導まで。今の私は、とても嬉しく思っているのです」


 その声音も普段のチグサとは違い柔らかくなっている。

 アルは嬉しくなりチグサから貰った木剣に目を向けた。

 二年の間で刀身は所々が欠けており、柄は汗が染み込みその色を変えている。

 それもこれもチグサがノワール家にいてくれたからだ。


「……俺も嬉しく思っています。チグサさんがノワール家にいてくれたことを。これも、ヴァリアンテ様のお告げのおかげなのかもしれませんね」

「……ヴァリアンテ様、ですか」

「どうしたんですか?」


 ヴァリアンテの名前をアルが口にすると、チグサは顎に手を当てて考え込んでしまう。


「……いえ、アルお坊ちゃまが時折口にする神の名前なのですが、私は聞いたことがないもので一度調べてみたことがあるのです」

「そうなんですか? それで、どうでしたか?」

「それが……その、見つけられなかったのです」

「えっ?」

「私は教養が低いもので、単純に見つけられなっただけだと思うのですが……申し訳ございません」

「あっ! いえ、こちらこそすみません」


 突然頭を下げてきたチグサに慌てて両手を振るアル。

 自分でも調べていなかったことを調べてくれていたのだから、お礼を言うことはあれど謝られることはない。


「調べてくれてありがとうございます。僕も父上に聞いてみたいと思います」


 笑みを浮かべながらの返答に、チグサはホッとしたような雰囲気で口を開く。


「今日の鍛錬はこれで終わりにいたしましょう」

「はい。ありがとうございました!」


 アルは、チグサに指導を仰いでいれば必ず力になる、上達できると信じていた。

 魔法学園へ入学するまでの残り四年間も鍛錬を欠かさないようにしようと心に決めていた。

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