5 能力の差
あの日出会ってから、珊瑚ちゃんとは時々話すようになった。あんなに怒っていたのに、次に会った時は何もなかったように普通に話しかけてきたので仲良くしている。彼女が急に怒りだした理由については聞いていなかった。
誠一郎さんにも、例の確認の方法が珊瑚ちゃんとは握手でも出来たことも俺は聞けないでいる。さりげなく握手して、この方法でも俺は自分の力を感じる事が出来るんだ? とか言ってみるしかないかな。
もし握手で能力が測れるなら、なぜ誠一郎さんは俺にキスして来るのだろうと、そっちも気になってしまって、どうしてもその話を切り出せない。
色々と気になることはあるのに、後回しにして修行をしていたら、休憩していた時に誠一郎さんが
「最近は能力を調べたいと言ってこないね」
とにっこりと笑って聞いてきたので、どうしようか、迷って珊瑚ちゃんと握手でお互いの能力を確認出来た事を話したら、成る程と言う感じで納得してくれた。
「珊瑚の力は少し触れただけで溢れてくるので簡単に互いの力を感じる事が出来ます」
「珊瑚ちゃんの能力が高いという事?」
「そうです。私とは握手とかではそれ程には力が感じられないと思うのですが」
と手を差し出してきたので握ってみると、確かに珊瑚ちゃんと握手した時よりも弱く感じる。体のどこでも触れれば感じる事が出来るそうだが、誠一郎さんの唇に触れる方が早くちゃんと力を感じ取れて俺も自分の能力が把握できるようになっているらしい。
理由に成る程と思うと同時に、珊瑚ちゃんと誠一郎さんの力の違いにも驚いてもいる。
そして、あの行為にちゃんと理由があったのかと安心とともに少しだけがっかりしてる自分にそわそわしている。
「あと、触れている時間でも変わるかもしれません」
「唇に長く触れていると力を強く感じるの?」
「やってみますか?」
と、そのまま誠一郎さんの唇が近づいてきてキスされた。少し長めのそれは珊瑚ちゃんと握手したくらいの力の強さを感じる。
「わかりました?」
「うん」
「もう少し深く触れ合うと……」と言いかけるので
「え? あの、大丈夫です」と遮った。
危ない。これ以上色々されてしまうと俺から違う感情が溢れ出してしまいそう。
誠一郎さんが修行をしている間、志岐は側に立っているけど、休憩中は離れてしまうので、俺は誠一郎さんのペースにはついて行けない時は途中で休んで志岐に話しかけている。
「でさ、俺って十八歳くらいからずっと病院だったから、学校もあんまり行けなかったし、友達もいなくて。だから、ここで志岐に話せるのが楽しい」
俺の独り言に志岐が同情したような目で見てきている気がする。まあ、志岐の顔は誠一郎さんの方を向いているし、気のせいなんだけど。
誠一郎さんも休憩に入ったので、珊瑚ちゃんの事を聞いてみたら、
「私の能力が劣ると判断された時からすぐに子供を作る事を命じられ、許婚との婚姻を結んで出来たのが珊瑚です。生まれてすぐに珊瑚の能力が高い事がわかって次期当主にと決まったので、争い事のないようにと、他に子供は作らない事になりました」
とすごい話をされてしまった。修行の休憩中に何気なくする会話じゃなかった。
「それってすごい話だね。全て家の為?」
「そうですね。生まれた時からこの地を守る為と育てられましたので」
そういうとちょっとため息をついて
「自分にその力が無いとわかった時は、周りの人の期待に応えられないことに悩みました」
そんな自分の人生の全てがこの家の為にだけ生きているような話に俺は心がもやもやとしてしまう。