10 儀式前夜
明日はいよいよ契約の儀式の日だと思うと少し緊張してきた。
夜遅くになって誠一郎さんが離れの部屋を訪ねてきて俺と話をしたいと言う。
誠一郎さんが正座をして床に頭を付けて謝ってくれる。
「突然あのような頼みごとをしてしまって申し訳ありませんでした」
「いいえ、俺も志岐が消えてしまって動揺してたから……誠一郎さんの話をちゃんと聞かないで怒鳴っちゃってごめんなさい」
それから俺が召喚されてきてからの事を話して、最初に俺に色々話してくれていた事は嘘が多い事がわかった。話に一区切りがついたところで俺も前から気になってた志岐の話や、能力を測定する方法とか、ちゃんと誠一郎さんに確認しようと思った。
「本当に申し訳ありませんでした」
「いいよ、最初から全部聞かされてもわからない事も多いだろうし。俺の力で志岐が話すようになるとか言ってたのは嘘だったの?」
「それは嘘では無いのですが、志岐がどこまで変わったのかはわかりません」
「キスで能力がわかるというのは嘘?」
「それも嘘では無いのですが、本当でもありません」
どういう事? と誠一郎さんの顔を見ると、迷ったような困ったような顔をしている。
「志岐は多分、力が付いていて話す事が出来たと思います」
「それじゃあ……」
「そうですね。玲司さんに話しかけられても反応しないようにしてたんだと思います」
自分の運命を知っていて俺に話しかけられても無視してたって事なのか……最後に俺の方を見たのは気のせいでは無かったんだ。うなだれている俺に続けて誠一郎さんがキスの事も話してくれた。
「最初に見た時からあなたに惹かれていたのかもしれません」
何か恥ずかしい事を言われそうだったので、もういいですと遮ってしまった。
「唇に触れたいと思ってしまった」
まだ続けてきた。
もう良いですからと止めようとする俺に、誠一郎さんが近づいてくる。俺の手を両手で掴んで持ち上げて誠一郎さんの唇に触れさせるといつものように二人の力が混ざる。
「これでもわかるのです」
俺の手に唇を触れさしたままそう言うと、目をじっと見つめてくる。もう、この人……誠一郎さんは何で毎回、恥ずかしい事を真面目な顔で平気で出来るのだろうか。それに知らなかった事とはいえ、この方法でも能力が測定できるなら、俺が誠一郎さんに頼んでしてた事はキスしてって強請ってた事になるじゃないか。
何か追い詰められた気がして誠一郎さんに手を取られたままだったのだけど、急に例の生贄の話に変わったので手を思わず引いてしまった。
「玲司さんの負担になる事はわかっています。それでもお願いします」
「……わかりました」
俺があっさりと返事をしたので少し驚いたようだけど、ホッとした顔をしてお願いしますと言って部屋を出て行った。