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8.森の外は荒野

 弾道飛行で気絶して墜落死しかけ、変異種レッドキャップに捕まって生命の危機に陥り、全力で魔の森から離脱した後、比較的安全そうな木の洞で眠ること丸一日。

 ようやく人心地ついた私は、再び風の魔法で透明化すると、更に森から離れるように移動を開始した。

 レッドキャップから少しでも離れる為、レッドキャップがやってきたと思しき方向を避けた結果、どうやら森の外にある筈の、人間が作った開拓村から遠く離れた場所に出てしまったらしい。

 森から離れるごとに、赤茶けた大地はどんどんと乾燥の度合いを強め、背の低い下生えすら減り始めるのを見て、危険でも人間の村で情報を集めないと不味い、と判断せざるを得なくなった。

 もし、この魔の森の周囲が砂漠ばかりで、人間の住む場所が非常に少なかった場合、私は手持ちの水と食料を消費しつくした時点で、渇き死ぬしかない。

 手持ちの食料は、保存食ばかりとはいえ、フェアリーなら半月以上は生きられる量ではあるけれど、砂漠を、何の当ても無しにうろつくのは自殺行為に等しい、という事ぐらいは判る。

 仕方なく、一度森の近くまで戻り、冒険者の痕跡を探す事にした。

 半日ほど探し回っていると、夕方近くになって人間五人の冒険者集団が、森から出てくる所に出くわした。

 五人とも若い少年から青年に入りかけ、と言った風情で、装備を見る限り駆け出しも駆け出し、中古らしい古びた武器に、鎧とは言い難い、厚手の皮ジャケットのような物以外は、村人丸出しの服装であり、獲物らしきワイルドウルフの死体を二人が担いでいた。

 私は、姿を隠したまま近づき、会話を盗み聞きしつつ、彼らに付いて行く事にした。

 彼らは、森の出口近くに隠していた台車にワイルドウルフ二匹の死体を乗せると、ガラガラと引いて行く。

 その道には、僅かに台車の轍の跡の他にも、多数の人間が踏み固めた結果、道のようになっていたので、この道に沿って行けば、間違いなく人間の村に行けるだろう。

 五人の少年たちの会話からは、あまり情報らしい情報は得られなかったが、予想通り、彼らは駆け出しの冒険者で、酒場に冒険者ギルド、鍛冶屋といった、元のファンタジー(シミュレーション)RPG(アールピージー)では定番の施設が揃った、中立神(ニュートラル)陣営の拠点らしいことは判った。

 彼らについて行くこと一時間ほどして、荒野の中に土壁で囲まれた、小さな砦の様な村が見えてくる。

 物見櫓に掲げられた旗に見覚えがあった。

「うへぇ、央華国かぁ…央華国で砂漠地帯といったら、ガヴィ砂漠か」

 央華国は、大陸中央に広大な領土を誇る、人類至上主義国家にして、更に人間の中でも央華人以外は未開の蛮族と蔑み、亜人種は家畜と言って憚らない、実に傍迷惑な文化を持っている。

 この国で、フェアリーは「愛玩用かつ使い減りしない薬箱」もしくは「民間療法における胡散臭い薬の原料」と考えられており、見つかれば捕まって売られる事は請け合いである。

 危険な敵対陣営の支配する森から逃げ出したら、より危険な同陣営の国に出たでゴザル。

 …解せぬ。

 央華国とその周辺にある朝貢国は、央華語(ファナン)を使っている。

 先ほどの冒険者たちは、共通語(コモン)を使っていたから会話を理解できたが、私が会話できるのは、妖精語(スピリス)と、派生であるゴブリン語だけ。

 読み書きも可能なのは、この大陸で商用共通語として普及している共通語(コモン)のみだ。

 リトルエルフに進化できれば、妖精語(スピリス)の派生であるエルフ語を覚える事が出来るだろうけれど、この世界のエルフは、独自の文字を持たない。

 結局、文字に関しては、共通語(コモン)に頼るしかない。

 幸い、冒険者ギルドは看板から掲示まで共通語(コモン)併記なので、外国から流れてきた冒険者でも、仕事が請けられるようになっている。

 つまり、上手く姿を隠して情報収集できる、という事だから、私は風の魔法で透明化しつつ、丸太で作られた簡素な防壁を飛び越え、村の中へと侵入した。

 これが、もっと平和な地域にある、大きめの街なら、防御結界とか、防犯用の感知結界とか、魔術的な防壁が設置され、こんなに簡単には入り込めないのだけれど、魔の森に隣接した開拓村、それも最前線の砦を兼ねているような場所では、そんな高価な魔法装置を設置しても、失われるリスクが高すぎて、割に合わない。

 つまり、多少脛に傷があるような連中でも、大手を振って歩けるのが、最前線の開拓村の良いところでもあり、悪いところでもある。

 まあ、元のファンタジー(シミュレーション)RPG(アールピージー)で大陸の大まかな地理が判る私としては、この村の大まかな位置さえわかれば、街や村を全スルーして国境を越えてしまう予定なので、危険を冒すのはこの一回だけ、と考えている。

 高い場所から見下ろせば、この村は歪ながらも円状に設置された防壁と、二か所の大門があり、村を貫通する大通りに宿屋や冒険者ギルド、商店が配置され、後は畑と質素な民家が十数件建つだけの、典型的な開拓村だ。

 人口も、二百は超えない位だろうか。

 畑はまだまだ痩せているらしく、実りはあまり良くない代わりに、小さな村には不釣り合いな、大きめの宿屋が二件、冒険者ギルドに隣接するように建っている。

 開拓してあまり時間が立っておらず、冒険者の拠点として生計を立てているのだろう。

 風の魔法で透明化したまま、冒険者ギルドの近くまで行ってみる。

 魔力感知によれば、魔法使いと思われる強い魔力は二つだけで、後は平凡な人間が三〇名ほど居るようだ。

 ギルド職員が五名と仮定すると、冒険者は二七名。

 恐らくは五から六パーティがこの村を拠点にしているのだろう。

 魔法使いが居るので、透明化して居ても魔力感知で発見されてしまうので、透明化は過信できない。

 私は、開放されている入り口ではなく、明かり採りの窓から冒険者ギルドに侵入すると、天井裏に潜り込み、透明化を解除する。

 これで、外に漏れる魔力はほぼ無くなるから、魔力感知されても、小動物と区別はつかないだろう。

 飛んでいないフェアリーの自然放出魔力など、そこらのネズミと変わりないのだから。

 冒険者ギルドに併設された酒場は、日も落ちたので冒険帰りの冒険者達が食事をしたり、酒を飲んだりしながら、情報収集している。

 天井裏へ移動して彼らの大声が聞こえる位置まで移動すると、天井の隙間から、下を覗き見る。

 かつて、ファンタジー(シミュレーション)RPG(アールピージー)で一枚絵で表現されていた、冒険者ギルドの酒場、と言う非常に見覚えのある光景が目に入り、懐かしく感じる。

 過半数の冒険者は、地元の央華語(ファナン)で会話していたが、情報収集などは共通語(コモン)で行うので、耳を澄ませているだけで、色々な情報が集まってくる。

 この村は、ダバストゴイ開拓村、と呼ばれる辺境豪族が出資して作られた村で、予想した通り、央華国の北部にある魔の森に隣接した地域である事。

 最初に進んだ荒野は、村の北西に広がる砂漠地帯であり、あのまま進んでいたら、本格的に砂漠地帯へと迷い込んでいただろうという訳で、我ながらナイス判断であった。

 砂漠沿いに西へ進めば、人馬族(ケントゥーリオ)…砂漠の民が支配する国家群のある地域に行けるし、その先には、念願のエルフ種が王や貴族をやってる国がある。

 しかし、非常に遠い。

 北へ向かい、砂漠を越えると、氷雪と荒野が広がる北の民が支配する巨大連邦国家に行ける。

 こちらは、多民族国家で、支配階級の皇帝一族は、氷の精霊の血を受け継ぐ人間と妖精族のハーフなので、目的には合致するのだが、年中寒いし、国全体が貧しいので、正直微妙。

 南は、広大な央華国の辺境域で、朝貢国を何カ国か抜けると、央華人に蛮地と呼ばれ、蔑まれている多民族国家が割拠する地域に行ける。

 問題は、やっばり遠い事だ。

 南西に行くと、これまた広大な央華国の辺境域を越えて、央華国に抗する大国、バーラート国へと辿り着く。

 ここも、妖精種が王や支配階級に君臨する大国なので、自分の目的には合致するのだが、今度は央華国と逆の意味で種族差別が酷い、超階級国家でもある。

 遠いし、日本人的に階級差別がキッツイ国は居心地が悪いので、パスしたい。

 では、本命はどこか。

 現在地から南東に進み、大陸の盲腸と呼ばれる暗黒半島から海を越えた先にある、翔竜列島。

 鬼人族と呪人族、妖精種、人族が住む多民族国家、オダバクフ将軍国。

 名前から判る通り、日本をモチーフに設定された国である。

 元のファンタジー(シミュレーション)RPG(アールピージー)では、イギリスをモチーフにしたグリテン海賊国をホームにしていたが、和洋の差はあれど、実は国としての傾向は良く似ている。

 何より、グリテン海賊国のストーンゲートから、オダバクフ将軍国の巨石遺構間にワープゲートがあるので、条件さえ揃えれば、グリテン海賊国へ行く事も可能である点も、大きい。

 唯一の問題は、南東方向は、央華国の王都がある場所でもある為、辺境を目立たず移動する、と言う方法にも限度がある点と、砂漠越えの北ルートを除けば、一番移動距離は短いが、海を渡る必要がある点だ。

 …まあ、何とかなるでしょう。

 直線距離で、約一〇〇〇キロメートル。迂回路を含めても、一五〇〇キロメートル程だろうか。

 三か月も移動すれば…多分。

 数日かけて村の中で情報を集めて居る内に、王都であるラオヤンへと向かう商人の情報が手に入った。

 この地方まで塩を売りに来た商人で、帰りには魔物の素材や、砂漠の織物などを仕入れて、ライヤン州とシリ州を抜けて、取引しつつ、ラオヤンまで戻るらしい。

 ラオヤンは目的地ではないが、道なき道を押し通れるほど、フェアリーは強い種族ではない。

 そして、当面の目的地である暗黒半島は、カンネーを経由してリョントーまで抜ける必要がある。

 確か、ラオヤンからなら、朝貢団が通る為の道が続いている筈だった。

 正直、ゲーム時代の知識があると言っても、小さな街や村の名前まで憶えている訳も無いので、知っている土地まで道案内があるなら、それに越した事はない。

 私は、その商人の馬車を尾行する形で付いて行く事にした。

 しかし、空を飛べるフェアリーと、普通の馬車とでは、フェアリーの方が圧倒的に早い。

 普通のフェアリーは、魔力の関係で飛べる距離は短いのだけれど、種族レベルを上げて伸びまくった私の魔力量なら、一日中飛び続けても、魔力が枯渇する事は無い。

 なので、普段は馬車が通れる道に沿って、分岐がある場所まで先行して飛んで、分岐まで商人の馬車が来るまで、その周辺でエネミー狩りを行う事にした。

 この方法のメリットは、「追跡する」という形にならないので、護衛の冒険者に警戒される可能性がほぼゼロに出来る事と、僅かではあるけれど、エネミー狩りをする時間が取れる事。

 リスクとしては、馬車が想定外の道を通ったりすれば、馬車と合流できずに、道案内を失ってしまう事か。

 しかし、街道沿いに移動する限り、街や村に辿り着ける訳で、リスクはあるが、そこで改めて情報収集すれば、完全に道を失う事も無いだろう。

 私は、決断した。

2019/05/21 字下げ処理

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