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9.翔べ!フェアリー

 央華国の北部、ガヴィ砂漠周辺は典型的な大陸性気候…通年乾燥しており、夏冬・昼夜の寒暖差が激しい…だが、広大な央華国は、基本的に南に行くほどに夏期の雨量が増える傾向がある。

 ライヤン州辺りはまだステップ地帯に近いが、シリ州辺りになれば、緑が増え、温暖な気候帯に属するようになる。

 つまり、進めば進むほど、過ごしやすい気候になるのだ。

 私が、商人と一緒にダバストゴイ開拓村を発って、二週間が過ぎた。

 商人の馬車とつかず離れず飛んだのは、馬車で二日かかる、と言われた次の開拓村までだった。

 塩の道と商人たちが呼び習わす、馬車の轍で踏み固められた街道を見失う事は無く、これならば…と、有り余る魔力にあかせて先行するように飛んでみたのだが、フェアリーの飛行速度は、無理をしない速さでも、時速にして二〇キロメートル近くあり、昼間だけに限って飛んでも、馬車の二倍から三倍近い速度で移動できる事が判ったからだ。

 馬車は、一日に五〇キロメートルほど移動可能、とされる。

 そして、地形の影響を大きく受け、山地や荒地では、それより大幅に移動距離が落ちる。

 しかし、飛行できるピクシーの場合、地形による速度低下が無く、そもそも馬車の三倍の速度が出るという訳で、三〇〇〇キロメートルの距離なら、単純計算で二〇日もあれば駆け抜けてしまう訳だ。

 そして、ワールドマップが頭に入っている私には、大まかな方角と、しっかりとした道を選び続ける限り、道を間違える心配は無かった。

 お蔭で、商人が一か月かかる、と言っていた王都ラオヤンまで、たった2週間で辿り着いてしまったのである。

 途中で、魔力感知できる魔術師に発見されて捕まりそうになったり、気配察知に長けた猟師から弓を射かけられたり、各地に痣の様に点在する魔の森からあぶれた、飛行型のエネミーに狙われたり、小さなトラブルは色々とあったのだけれど、生前楽しんでいた、ファンタジー(シミュレーション)RPG(アールピージー)の世界を、自由に飛びまわれる感動と、開放感で浮かれていた私にとっては、それらの危機を、ちょっとした旅の刺激、くらいに思っていて、深く考える事を止めてしまっていた。

 この順調な旅路に、私がこの世界に於いて、弱者である事を、すっかり忘れていたのである。

 央華国の王都には、当然のように高ランクの冒険者が居て、その中には、優秀な魔術師が居る事を。

 そして、彼らと同じくらい狡猾で利に敏い商人が、大量にひしめいて居る事を。

 王都ラオヤンを視界に収める場所まで近づいた私は、最初の予定なら、無用なリスクを取らず、さっさと南東へ伸びる街道へ進む筈だった。

 しかし、ファンタジー(シミュレーション)RPG(アールピージー)中では、あまり訪れる事が無かった異国の王都となれば、見た事も無い珍しい物はもちろんあるだろうし、単純に観光するだけでも、楽しめる事は間違いない。

 浮かれて警戒心を失っていた私は、少しだけ悩むと、あっさりと当初の方針を捨てて、ラオヤン観光を決定していた。

 まずは、魔術的にも物理的にも堅牢な、外郭城壁を越える方法を考えてみる。

 空を飛べるフェアリーにとって、外郭城壁を飛び越えるだけなら、とても簡単な事である。

 しかし、仮にも第一大陸最大級の中立神(ニュートラル)陣営の拠点である以上、飛行型のエネミーに対する防御も万全なことは、分かっている。

 以前、元の(シミュレーション)RPG(アールピージー)軍団(レギオン)を運営していた、と語ったと思うけれど、軍団(レギオン)というのは、自軍拠点を持った高モンスターレベルキャラクターによる、軍隊運営なのだ。

 軍隊だけなら戦術級なのだけれど、実際には、軍を支える軍費を徴収する為の支配地域経営もセットで付いており、内容的には戦略級だった。

 そして、私は人口1万人規模の都市国家を所持していたのである。

 城壁にはレベルがあり、三レベル以下なら物理的な防御力しかないが、四レベルを超えると、魔術防御力を持つようになり、更にレベルを上げていくと、許可の無い場所への侵入を感知したり、低レベルな敵陣営種族の侵入を拒絶したり、様々な効果が得られる。

 大陸最大級の大国の、首都の防壁が低レベルという事はあり得ない訳で、最低でも空からの許可なし侵入は感知されるだろうから、空から密入国して、観光なんてのんびりした真似は出来ないだろう。

 では、どうすればいいのか。

 正門から入れば良い。

 正式な門扉には、侵入感知を設定する事が出来ない。だからこそ、衛兵を配置して侵入者を警戒する訳だけれど、人間がする事に絶対はないのだ。

 特に、人間種至上主義で奴隷制を布いている央華国なんかだと、商品として異種族を持ち込むので、厳密に法を適用してしまうと、奴隷商とか出自の怪しい商品を扱う商人が入れなくなってしまう。

 だから、そうした奴隷商人の馬車にこっそりと潜りこんで、密入国するならば、発見されずに正門から入る事が出来る可能性が高い…というわけさ。

 王都から出る時は、更に簡単だ。

 侵入には厳しい警戒をするが、出て行く分には警戒が薄い。

 城壁を越える際に、侵入感知に引っかかっても、そのまま全力で逃げてしまえば問題ない事が多いのだ。

 そこらの盗賊風情ならともかく、全力で逃げ飛ぶフェアリーを追うには、テイムした飛行型のエネミーを使うしかなく、ワイバーンやグリフォンといった高速で長距離を飛べるエネミーでも使われない限り、追いつかれる心配は殆ど無い。

 そもそも、魔力を最小限にして飛んで逃げれば、貴族が飼っている愛玩動物が逃げた、と勝手に勘違いしてくれる公算が高い。

 その場合、追いかける事すらしないだろう。

 …というか、私はそう判断して、魔力量の小さい警報は無視してた!

 よし、と私は正門の入場列に並ぶ馬車へ、透明化しながら近づき、目的に合致する馬車を探す。

 流石は王都だけあり、並んでいる馬車は数百台に達するだろうか。

 これでも、今日受付する馬車だけに限られており、別の場所に、受付の順番を予約する為の列がある。

 そっちは、割符と受付予約日が記載された木札を発行するだけなので、馬車一台当たり数分で作業が終わり、次々と馬車は道を引き返して、王都周辺の宿場町へ行き、受付してくれる日を待つ事になっているのだ。

 ちなみに、生鮮食品を扱う近隣の村からの行商人は、馬車ではなく徒歩で王都に入る為、入都に際しての調査も本人確認用の割符と手荷物検査だけ、と簡単なので、朝一番の開門と同時になだれ込むように入都するのだが、彼らが入れるのは一番外側の城郭の市場までであり、王都観光するには不向きである。

 一方、馬車で入都するような商人は、内郭に店を構えている事が多く、内郭まで入ってしまえば、王城とか軍事施設を除けば、王都観光し放題である。

 そうテンションが上がった時、バグを利用した侵入技を思い出した。

 城壁の塔楼のポリゴンには微妙な隙間があり、上手く当たるとキャラクターの当たり判定が発生せず、「*かべのなかにいる*」状態になってしまうのだが、その状態だと城壁の中を自由に歩き回る事が出来る。

 そして、そのまま別の城壁…大体の場合、反対側…にある塔楼のポリゴンの隙間が内側に開いている場所へ行き、上手く当たると城壁内に抜けられる、と言う物である。

 流石に、ゲームが現実になった世界で再現できないだろう、と思って頭を一振りすると、改めて馬車の再物色を行い、魔力量が高めな…つまり、モンスターレベルの高いエネミーを乗せた、頑丈な檻付きの馬車を見つけると、ささっと馬車の下に潜り込んだ。

 あちこち金属の板で補強された馬車の床板は、フェアリーが捕まる場所に事欠かず、恐らくは隠し収納と思われる、隠れやすそうな凹凸もあった。

 私は、外からのぞき込まれても見つかり難い場所へと潜りこむと、魔力を抑えた。

 さあ、王都観光のはじまりだ!

令和初の投稿。

2019/05/21 字下げ処理

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