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第八十七話 不穏な兆し



 ラスティネル本隊が敵横陣中央に突撃を敢行した頃、別のところでも動きがあった。



 そこは中央右翼側。ちょうどラスティネル本隊の右隣に展開していたダウズ・ボウ伯爵がいる場所である。

 ……ナダール軍の横陣はセイランの策略により意図せず横に引き延ばされたため、その縦の列――いわゆる縦深が浅くなったことは、すでに知られていることだろう。

 これを機と見て突出したルイーズ率いるラスティネル本隊に、ダウズ・ボウ伯爵は目敏く追従。ラスティネル本隊はすでに敵横陣深くまで食い込むことはできたものの、一方でダウズ・ボウ伯爵が指揮する部隊は、歩兵の壁を食い破れずにその動きを止めてしまっていた。



 抵抗激しく、突破できない。

 膠着とまでは言わないものの、状況は攻め手にあと一つ欠けるといったところ。

 馬蹄に踏み荒らされて土埃が舞い上がり、景色が黄褐色に霞む中。

 馬にまたがったダウズ・ボウ伯爵が、周囲を取り巻く従士や副官たちに、焦りを含んだ怒声を浴びせかける。



「貴様ら、何をやっている! さっさと正面を崩さぬか!」


「それが、敵の抵抗が思いのほか強く……」


「早くせぬかぁ! このままではラスティネルの兵に手柄をすべて奪い尽くされてしまうぞ!」



 ……現状ダウズ・ボウ伯爵は、部隊が敵正面を突破できないことに憤慨し、わめき立ててるといった有様だ。その様はまるでどこかの豚のような伯爵を想起させるが、それはともあれ。

 ダウズ・ボウ伯爵の頭の中は、すでに手柄のことで一杯だった。

 確かに戦で手柄を挙げるのは、武官貴族の使命であり命題だ。手柄を挙げなければ、大きな収入を得られないし、今作戦に消費した戦費の補填もできなくなる。

 ならば、こうして焦りが出始めるのも、仕方ないことだと言えるだろう。



 だが、彼をこうまで手柄に駆り立てるのには、他にも理由があった。

 それが、戦の前に彼が演じたいくつかの失態だ。

 王太子セイランの前で不用意な発言をしてしまったこと。

 そして軍議のときに、作戦にまるで寄与しない発言をしたことが挙げられる。

 それに関しては、セイランはそこまで気にしてはいなかったようだが、それが失態であることには変わりない。それゆえ、ダウズ・ボウ伯爵はここでなんとしても武功を挙げ、挽回しなければならなかった。



 だが、部隊が停止している以上、当然それはままならないもので。



「なぜだ! なぜあのような貧弱な戦列を突破できんのだ! もう敵横陣はすでに崩れ始めているのだぞ!」


「それが、援軍に現れた魔導師の魔法が強力で、歩兵だけでは対処しきれず」


「ならばありったけの騎兵を向かわせろ! このままでは我らの取り分がなくなってしまう! みすみすこの機を逃せば、手柄はなくなる! そうなれば貴様! どうなるかわかっていような!」


「ひっ! しょ、承知しました! 全員、全力を以て打ちかかれ!」



 副官が号令を掛けると、部隊の歩兵たちだけでなく、伯爵の周囲を固めていた騎兵までもが、無策極まりない突撃に加わる。しかしてそれが功を奏したのか、伯爵の部隊は敵正面を切り崩すことに成功し、ラスティネル本隊同様横陣に深く食い込むことに成功した。

 いくら抵抗が強かろうとも、被害を度外視した攻勢には堪えきれないか。敵正面がみるみる内に伯爵の部隊に呑まれていく。



「は、はははははは! やれば出来るではないかっ! ぃよし! このまま進め! 進めぃ! この勢いで敵の首級を挙げるのだ!」



 これで勝ち馬に乗れる。ダウズ・ボウ伯爵がそんなまやかしの勝利に夢を見ていたそのときだった。



「伯爵閣下に伝令! 味方右翼に異変ありとのこと!」


「右翼だと? なんだ。そんな場所など我らには関係ないだろうが!」


「それが、味方部隊が徐々に崩されているようなのです!」


「崩されているだと? ナダール兵にか?」


「は!」


「何故だ!? 一体何があったというのだ!」



 セイランの策によって、ナダール軍はほぼ死に体だ。勝勢の味方が勝手に崩れることはないし、敗勢のナダール軍に崩される理由もない。

 あまりに奇怪な出来事に、ボウ伯爵は混乱する。だがそんな渦中にありながらも、彼の頭の中では打算という思考回路が十全に機能していた。崩れた部分から流れてくるであろう敵兵の対応に移るか、もしくはそんなものを無視してこのまま突撃し、首級を挙げて手柄とするか。



 たとえ右翼が崩れたところで、自分たちの部隊に実害はない。その間にも、いくつも部隊やそれを指揮する諸侯がいるのだ。ならば手柄を放棄して守勢に入る必要はなく、むしろここで敵横陣を突破してしまえば、その後に対応に当たることもできる。



 ダウズ・ボウ伯爵が「突撃」の号令を掛けようとした直後、再度伝令の兵が黄褐色の景色の中に入ってくる。



「伝令! 右翼総崩れの原因が掴めました! 敵騎兵の一騎掛けによるものです!」


「い、一騎だとぉ!? そんなバカなことがあるか!?」


「その騎兵は、ぎ、ギリス帝国遊撃将軍、バルグ・グルバ!」


「は――?」



 伝令の言葉を聞いて、ダウズ・ボウ伯爵の混乱がさらに極まる。



 ――バルグ・グルバ。

 当然伯爵も、この名前を知っている。

 だが、なぜ帝国最強の兵が、こんなところにいるのかと。

 そもそも帝国の参陣はなかったはずではないのかと。

 そんな考えが、頭の中をさらにかき回す。



「う、右翼の部隊はバルグ・グルバの猛攻によってすでに恐慌状態っ! いまは、ローネル男爵、シャールマン伯爵が指揮を執って応戦しているようですが、このままではバルグ・グルバに呑まれてしまう可能性も否定できません!」



 ダウズ・ボウ伯爵が言葉を発せないでいると、副官が悲鳴にも似た声を上げる。



「閣下! このままではバルグ・グルバがこちらに向かってくる恐れもあります!」


「な、な、な、それは……それはいかん!」



 伯爵は思い出す。バルグ・グルバのあの途方もない偉容を。それがもたらす絶望を。

 巨馬を駆り、古の時代の遺物を思わせる二つの戦斧を以て、あらゆるものを破壊し尽くす猛牛。彼の将の最も恐るべきは、魔法が効かないという各国王侯に匹敵する破格の天稟の存在だ。尋常ならざる力を持つ国定魔導師でも、手傷を負わせるのでやっとだと言われている。



 倒すならばそれこそライノール王国国王、シンル・クロセルロードが出張らなければならないだろうと言われている、それほどの相手。帝国に対する防波堤である西側の諸侯にとっては、まったく恐怖の対象だ。



 ボウ伯爵は、すでに浮き足立っていた。

 討伐軍が帝国と戦うため、事前に準備していたというのならば話は別だが、帝国の参戦についてはないものと考えていたのだ。

 準備もなしに、あんなものと戦うなど、それこそ正気の沙汰ではない。

 ならば、独断行動の責任を取らされる方がまだマシだった。



「く、クソッ! こんなところにいられるか!」


「か、閣下!?」


「私は退くぞ! 一時後退だ! ここで死んではどうにもならん!」


「そ、それは、王太子殿下のご指示に背くことに!」


「ええい! いま私が抜けたところで王国軍の勝利は揺るがないわ! いますぐ下がるぞ!」


「ボウ閣下! お待ちを! 閣下ぁああああああ!」



 ボウ伯爵は副官の制止も聞かず、後方に向かって馬を急がせる。



 ……ここで最も不幸だったのは、彼に追従していた歩兵とすぐ後方にいた歩兵だろう。

 突然の撤退に方向転換が間に合わず、歩兵たちは踏み潰されてしまうこととなった。



 ●



「この王国貴族の恥さらしめ! ラスティネルの断頭剣(ギロチン)の錆になりやがれ!!」


「ひぃいいいいいいい! 貴様ら! あの小僧を寄せ付けるな! なんなんだあの頭のおかしな怪力は!? くっ! 来るな! 来るなぁあああああああ!」



 ディートの咆哮に、ポルク・ナダールが泣き言の絶叫を上げる中。

 討伐軍左翼側では、ポルク・ナダールがディートの圧力を受けて、部隊を後方に下げているという状況にあった。

 バルグ・グルバが去ったすぐあと、ディート率いる部隊が敵横陣を裁断することに成功。

 ディートはその余勢を駆ったまま、ポルク・ナダールの背後を脅かしたため、ポルク・ナダールは部隊を西側へと下げざるを得なくなったのだ。




 挿絵(By みてみん)




 現在、ポルク・ナダールの正面はディート指揮するラスティイネル別隊や、横陣端の一部が加わり、これを押し込んでいるという状態にある。

 ナダール軍はすでに浮き足立っており、その逃げ腰は全軍に及ぶほど。機会があればすぐにでも脱走で自壊してしまいそうなほど、士気の低下著しくなっていた。



 もはや総崩れは避けられず、いつその報告がセイランのもとに届くかという状況になっている。

 すでに討伐軍の勝利は決まったも同然。セイランや近衛の仕事はほぼなくなったものと言えるだろう。



 ――しかしてセイラン率いる近衛部隊が、バルグ・グルバの襲撃から体勢を立て直し、敵歩兵部隊を最左翼から押し込んでいたその折。

 そろそろ、ナダール軍総崩れの報告が飛んでくると期待していた矢先に、とんでもない報告がセイランのもとへ届いた。



「王太子殿下にご注進申し上げます! 味方最右翼一部と、中央右翼側が崩れました!」


「……なんだと?」



 思いも寄らない報告を受けて、怪訝そうな声を出すセイランに、伝令はさらに説明を続ける。



「味方右翼側に突然バルグ・グルバが出現し、味方歩兵部隊に突撃を敢行。味方歩兵部隊はこれに対応することができず壊滅し、その影響は後方まで伝播している状態です。現在は、シャールマン伯爵が指揮を取り、絶えず兵を補充することで、どうにか食い止めているとのこと」



 そこで、エウリードが口を開く。



「右翼の状況はわかりました。ですが問題はもう一つの方、中央右翼です。なぜそんな場所が崩れたのですか?」


「……エウリード、そこにはどの部隊を配置した?」


「は。ラスティネル本隊の右翼側に付けていたのは、ダウズ・ボウ伯爵の部隊です」


「あの男か……」



 ダウズ・ボウ伯爵。セイランに謁見するときや軍議のときなど、ことあるごとに突っかかってきたあの嫌みったらしい上級貴族だ。

 彼が指揮する部隊が崩れたと伝令は言うが、しかし中央付近と言えばラスティネル本隊がある。隣がすでに敵横陣を食い破っている以上は、その近くにいる部隊が崩されることはまずないはずだ。



「は、ボウ伯爵はラスティネル本隊に続いて部隊を突出させるも突破できず、そのうえ突然その場で反転し、自らは戦線より離脱! 突然の後退に後方の味方は対応ができず、被害を被ったとのことです」


「……おそらくで構いません。理由はわかりますか?」


「は……バルグ・グルバ出現の恐慌が伝播し、その猛威に恐れをなしたのかと小官は推察いたします」


「っ、ここにきてそのようなことになるとは……」



 セイランが苦虫を噛みつぶしたような声を上げる。

 確かにそうだろう。すでに戦いは佳境であり、勝利までもう少しと言った状況。そんな中、こんなケチが付いたのだ。いくらもう討伐軍に負けはないとは言え、戦列が崩れたというのは総大将として嬉しいものではない。



「取り残された部隊は混乱甚だしく、現在ルイーズ閣下が部隊の一部を割いて、対応に当たっているとのことです」


「これは……まずいですね」



 その報告に、エウリードがわずかに顔をしかめると、セイランが訊ねる。



「エウリード、まずいとはどういうことだ? 趨勢はすでに決しているも同然。ボウ伯爵が退いた程度で、討伐軍の勝利に揺らぎが生じることはないはずだ」


「はい。これが勝敗に直結することはないでしょうが、ルイーズ閣下の手を煩わせているということは、それだけ決着に時間がかかるということになります。それに、私が最も懸念すべきは別にあります」


「それは?」


「これが、帝国の策略だということです」


「……だろうな。バルグ・グルバが動いている以上、帝国がなんらかの策を講じたというのは間違いなかろう」



 そう、セイランやエウリードの言う通り、バルグ・グルバが出現したのは、当然帝国の策謀あってのものだ。いまこの戦場では、自分たちの知らない何らかの策が動いているということはまず間違いない。



 その点をセイランと確認し合ったエウリードは、しばし考え事のように思案姿を見せたあと、



「殿下。殿下は近衛を連れ、撤退を。私は残りを連れて開いた穴を塞ぎに向かいます」



 そんな風に、セイランに撤退を促した。

 その提案を聞いたセイランは、エウリードではなく、まず先ほどの伝令兵に声を掛けた。



「……伝令よ。他の諸侯の様子はどうか? ダウズ・ボウ伯爵の撤退が諸侯に与えた影響を知りたい」


「は! 伯爵の撤退に各部隊を指揮する諸侯が引き摺られているということはないようですが、突然の離脱に動揺している諸侯は少なくないようです」


「ならばエウリードよ。ここで余まで退いてしまえば、味方が連鎖的に崩れていくのではないか? そうはならなくとも、士気が大幅に下がる可能性も否めないはずだ」


「いえ、それはないかと」


「なぜだ?」


「殿下。ナダール軍は戦列を裁断され、すでに死に体。先ほども申しました通り、討伐軍の一部が崩れたとしても、負けることはまずありません。この撤退が戦局に直結することはあり得ないのです」



 だろう。中央が敵横陣を裁断した時点で、すでに勝敗は決しているも同然だ。そこからナダール軍が巻き返すことは、どれほどの名将がいたとしても不可能と匙を投げるはず。セイランが撤退したからといって、『自分たちも逃げなければ!』ということにはならないはずだ。



「もう一度申し上げます。右翼が崩れたとはいえ、影響はごく一部であり、ナダール軍は劣勢。すでに討伐軍は勝ち戦の空気に包まれており、ナダール側が巻き返す余地はどこにもありません。それよりも怖いのは――」


「バルグ・グルバ。いや、帝国か……」


「殿下。帝国が姿を現した以上、何らかの策を講じているのは必定。御身をお守りする近衛として、このまま殿下を戦場にとどまらせるわけには参りません。何卒お聞き届けいただきたく……」



 そう、帝国が講じた策が、セイランを害するものだということは十分に考えられる。ここで帝国軍が参戦してでも得たいものが何かと考えるなら、それはセイランの首なのだ。むしろそれ以外ないと断言できるだろう。



 ……単にダウズ・ボウ伯爵の部隊が崩れただけならば、セイランを退かせる必要はない。

 崩れた穴を埋めればいいだけだし、最悪放置したとしても戦局に影響はないのだ。

 だが、その独断行動の遠因に帝国の影があるのなら、話は別だ。

 帝国の参戦は予期していないものであり、しかも戦が佳境を迎えるまで、その策謀が蠢いているのに気付くことができないほど秘匿が徹底されたものだった。



 予期せぬ事態に対応する手段(せんじゅつよび)を用意していない以上、策が成れば帝国の思惑通りになりかねない。

 ならばその策が成る前に、セイランだけ安全な後方に下がらせるのが現状の最善と言えるだろう。玉さえ取られなければ、討伐軍に負けはないのだから。



(姿を見せている時点で、策はすでに成っているってことにならなきゃいいけどな……)



 そんな一抹の不安を感じていると、セイランが口を開く。



「……いいだろう。余は離脱する」


「は! では近衛数名は殿下に随行しなさい。しかとお守りし、後方へ無事送り届けるのです」



 エウリードの言葉に、複数の近衛が応じる。

 無事もなにも、討伐軍後方に向かうため大事などはないだろうが。



「殿下の衣の替えは持ってきているな?」


「は!」



 エウリードの指示のもと、近衛の一人が馬の上に鎧立てのようなもの設置し、セイランが着ている服とまったく同じ衣服を取り出して、それに取り付ける。

 近くで見ると、ハリボテだということは丸わかりだが――



「これで遠目からはわかりません」


「なるほど。これならば余が退いたことは悟られぬな」



 セイランとエウリードがそんな話をしている中、



「ノア」


「はい、アークスさま。なんでしょうか?」


「念のため、先に後方へ走ってくれないか? 殿下受け入れのために迎えを呼んできて欲しい」


「それは構いませんが……アークスさま、魔力量は大丈夫なのですか?」


「俺は大丈夫だ。なんたってこれがあるからな」



 ノアの心配に不敵な笑みを返して、バッグから水筒を取り出す。

 すると、それを見ていたカズィが意外そうに目を丸くさせた。



「おいおい、そんなもの持って来てたのかよ?」


「なんかあったときのために届けてもらったんだ」


「そういやあのおっさんの家から使いが来てたな」



 カズィとそんな話をしていると、セイランが訊ねてくる。



「アークス。それはなんだ?」


「え? ええと、これはその……魔力を回復する飲み物で……」


「なんだと!? そんなもの一体どこで手に入れたのだ!?」



 ソーマ酒の存在は、セイランには衝撃的だったのか、詰め寄らんばかりの勢いでまくし立ててくる。その後も、「何故黙っていた!」「隠すなど卑怯だぞ!」など、こちらが理由を口にする暇もないほど、怒濤の勢い。

 それを見かねたエウリードが、口を挟んだ。



「殿下。どうか心お静かになさいますよう」


「う……うむ、だがな」


「アークス・レイセフト。殿下にお伝えしていなかったのには、理由があるのですね?」


「はい、回復すると言っても、本当にわずかなものですので、ご報告するにはまだ尚早かと考えました」


「わずかとは、どの程度魔力を得られるのだ?」


「水筒ひとつで、400有るかないかです……」


「……そ、そうか。確かにそれでは報告もできぬな……そうよな……」



 やはり残念そうだ。セイランもまた、夢の飲み物にいましばし思いを馳せていたのだろう。

 その実用性のなさを聞いて、あからさまに落胆する。

 だが、自分には、それだけでも随分と大きいのだ。



「……ちょっと飲んでみてもよいか?」


「殿下。毒味もなしにそれは」


「エウリード。余に毒が効かぬのはそなたも知っているであろう」


「それはそうですが」


「…………」



 なんなのだろうか、この会話は。

 なんかものすごい話を聞いたような気がしないでもないが、ともあれソーマ酒をあおる。

 酒精で身体が熱くなると同時に、わずかにだが魔力増えた。



「よし。カズィは俺と一緒に近衛の援護だ。魔導師はなるべく多い方がいい。支援に回ろう」


「――いや、アークス。そなたも余と共に来るのだ」


「え?」



 唐突にセイランに止められる。一体何故なのか。そんな理由を探して、セイランを見ると、



「アークス。そなたに何かあってはならぬ。この意味はわかるな?」



 その言葉で、ピンと来る。

 そもそも自分がここにいるのは、戦場に立ったという箔を付けることなのだ。

 命を賭して戦う場面でもないし、命をかけなければならない理由もない。

 まだこなさなければならない役割がある以上、死なれるとマズいのだ。



 ……やがて、撤退の準備が完了する

 近衛の大部分はエウリードの指揮のもと、最左翼に留まる部隊と中央右翼側に向かう部隊に別れ。

 ノアは一足先に後方に向かい迎えを呼びに。

 カズィは左翼側に留まり近衛の援護。

 自分はセイランに随行することとなった。



 ふと見上げた空には、灰色の雲がかかり始めていた。




 


今回も図は、おおまかこんな感じということで……

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