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第六十六話 朝から剣の修復を

いろいろと修正作業をしています。

 前話でギルズの登場を削ったのと、

「旅の商人たち」で村長の台詞に、「物価が上がった」というのを追加したくらいかな……。






 ――やはり気になるのは、捕らえた賊たちが自害してしまったことだろう。



 聞いたところによると、どうやらあらかじめ口の中に毒を隠していたらしく、ディートたちが取り調べをしようとしたときにはすでにこと切れていたらしい。

 納屋に集めていた賊たちは苦しみからか、身体は一様に弓なりに反っており、激しい苦悶のあとなのか表情は笑っているかのような状態にまでなっていたという。

 なんとも苛烈な死にざまだ。



 だがここで気になるのは、彼らがなぜそんなことをしたのか、だ。

 この世界の司法は男の世界のように整備されてはいないにしろ、ある程度だが罪に対する量刑も設定されている。

 そのため、よほどの罪を犯した場合でなければ、即死刑にはなることはまずない。

 そもそも、だ。

 捕まればその場で刑に処されることはなく。

 まず、相応しい場所に連行されるだろうし。

 その間に、逃亡を企てることもできる。

 罪を償えば解放される可能性だってあるのだ。

 下手を打って捕まった。だから未来に悲嘆して、毒を飲み自害した……というのは、どうにも考えにくい。



 当然、ディートたちも訳がわからないといったように困惑していた。

 賊を捕まえる手がかりを失い、であれば調査が振り出しに戻ったと、苦々しい口ぶりだったのが印象的だったが。



 ともあれそのせいで、ディートたちから再度、聴取を受けることとなった。

 もちろんこちらを疑ってのものではなく、状況を調査するためのもの。

 当然、ディートたちの調査はギルズにも及んでおり、個別で取り調べを受けたようなのだが、すぐに解放されたらしい。

 あれだけ妙な男だ。身元不明として一定期間、少なくとも領都に着くまでは拘束されるのが筋のようにも思えるが、思いのほかあっさりと解放されていた。



 どうも聞くところによると、ギルズの解放には村長の口添えがあったからだそうだ。

 起き抜けに、村長に何故かと訊ねたところ。



「……村に、この辺りでは手に入らない薬が必要な病を抱えた者がおりまして。それで折よくギルズ殿からその病に効く薬を融通していただいたのです」



 とのこと。

 前日の夕食に招待されたとき、確かにそんな話を聞いた覚えがある。



「それで、口添えをしたと?」


「はい。ずいぶんと安値で……おそらく個人で動いていることを差し引いても、赤字だったとは思います。ですので、少しでもお力になれればと」



 なるほど。そういった事情があったか。



「でもギルズもなんでそこまで? あの男、この村になにか縁があるわけでもないんだよな?」


「ええ。ギルズ殿がここを訪れたのは、昨日が初めてです」



 だろう。

 あの強い北方(イメリア)訛りだ。この辺りの出身ではないことはまず間違いない。



「私も不思議に思い、どうしてそこまでしてくれるのかと訊いたのですが、どうやらギルズ殿は私どもの村ような地方にある村や集落を回っているらしいのです」


「なぜ?」



 このような物流に乏しい村を回る活動を行うのは……それこそ、特産品や珍品を見つけるにしても、コストのかかり方が甚大だ。利益にはつながらないし、すぐに破産してしまうだろう。

 どういう理由で動いているのか。不思議でならない。

 村長はこちらの疑問の真意を察したのか。

 ふと穏やかな笑みを見せる。



「アークス様。物事の動きは、なにも利害だけでのみ動くものではないのでございます」


「それは?」


「世の中には、情で動く方もいる、ということです」


「人の心や行動は、ものさしや天秤じゃ測れないってことだな」


「おかしいと思いますか?」


「いいや。ただ、身内の情に絆されたり、ふとした情に感化されたりじゃなくて、人生かけて無私の行動をするっていう話は、常々不思議に思うところではあるよ」


「そうですね。人は利で動くものです」



 人から感謝されたい。

 人の喜ぶ顔が見たい。

 生活に余裕があって、心が豊かになれば、人はそういったものを求める傾向にある。



「ですが私どものような者にとっては、ああいう方の存在は、とてもありがたいのです」



 男の人生を追体験したときにも、覚えがある。夕方の情報番組の特集で、移動販売車で地方の集落を回り、移動手段を欠いた老人たちなど買い物難民を助けるという内容だ。

 要するに、ギルズはそれと似たようなものなのだろう。

 行っていることに差異はあるが、地域にいる人たちを思って動いているという点では同じだ。

 誰かを助けたい。

 自分が受けた恩を返したい。

 照らし合わせれば理由は様々挙がるが。

 危機が降りかかりそうなこの村に敢えて訪れたことにも、これで納得がいく。


 そう言ったことを考えながら、頭を掻く。



「ダメだな。なんでも、人の背景を見ようとしちゃうのはさ」


「仕方ないでしょう。アークスさまはそれをしなければいけないお生まれでしょうし」



 にしても、だ。



「なんか、きげ……昔話に出て来る【ダンウィード】みたいだな」



 その名前は、紀言書に登場する人物のものだ。

 村々を回り、その村に必要なものを安値で提供する旅人ダンウィード。

 常に滅私の精神で動き、多くの者を助け、多くの者に感謝されたという。

 この世界では、平民が子供に道徳を学ばせるときに、よく引き合いに出されるお話だ。



「昨日薬を融通していただいた折、ギルズ殿にもそのお話をしていただいたので、もしかすれば、意識されているのかもしれません」



 すると、村長はどこか思い悩んだ様子で、ぽつりとこぼす。



「……ああして口添えをするのは、出過ぎたことだとは重々理解しております」


「それは…………確かにそうだろうな」


「ですが、私には【ダンウィード】のことをあれだけ熱く語られる方が悪い方だとは思えなかったのです。私は薬のお代がいくらになるか訊ねたときに、かなりの額を覚悟していたのですが――」



 ――気にせんでええ、ええ。代わりに美味いメシ食わしてくれたらそれでええから。



「そんなことを言って村の者を助けてくれた方を、悪い方だと疑うのはどうしても……」


「確かに、できないか」


「はい。私どもにとっては、あの方は【ダンウィード】です」


「じゃ、俺は気を付けなきゃいけないな。そうなると、俺は金をむしり取られる側に見られるかもしれないし」


「アークス様にはそのようなことはしないと思いますが……」


「どうだろうな。俺に対してはずっと妙な態度だったしさ」



 村の人間には丁寧だったのかもしれないが、自分に対してはどうも

 その【ダンウィード】には、義賊的な一面がある。

 権力者に屈せず、常に民の味方であり。

 しかもそういった者たちが不当に得た利益を掠め取って、貧しい民に分配するという。

 こちらが悪いことをしているわけではないため、そういったことをないだろうとは思われるが――


 冗談めかしたオチを付けつつも、ギルズのことについて。

 まだ村長の話を額面通りに受け取ることはできないが、自分の利益優先で動く商人とはまた違うということは、頭に入れておくべきなのかもしれない。



   ● 



 朝から村長と話をしたあとは、ディートの刻印武器の修繕に取り掛かった。

 これは、昨夜に彼から頼まれたもの。

 当然、お代はすでに支払ってもらっており。

 村出立の前にやっつけてしまおうということで、朝早く起きて作業を始めていた。



 修繕の対象は、彼が持っていた巨大な剣と、腕に嵌めていたリストだ。

 剣は段平を鉈のような形状にしたもので、アークスやディートの背丈よりも一回りは大きいもの。刻印がびっしりと刻まれた、ほぼ兵器と言って遜色ない武器だ。

 その形状の無骨さとは裏腹に、刻印は見事なもの。刻まれている【魔法文字(グリフアーツ)】は男の世界で言う草書体のように文字の省略が駆使されているうえ、すべてが繋がっているため美しい模様にも見える。



 そのことから、相当な技師が作った逸品だろうということが窺えた。

 アークスも、刻印についてはこれまでいろいろなものを見てきている。

 贔屓にしている大店が仕入れた刻印具を見せて貰ったり。

 ときには書店で購入した商品目録(カタログ)を眺めたり。

 だが、ディートの剣は、これまで見た型のどれにも属さないものだ。

 それゆえ、おそらくは古代の品だろうということが窺える。

 頑強さと切れ味を維持する刻印。

 取り回し、滑りの良さに関連する刻印。

 そのうえは血と油を取り除くものなのか、撥水性のある刻印まで。

 それらが互いに影響しないよう、絶妙な構成で刻まれている。

 いまこれを作れる人間は、どこを探してもいないだろう。

 紀言書を読み込んだアークスでさえも、判別、解読できないだろう部分が数多くあるのだ。



 修復作業の終わり頃、ディートが起きてくる。

 この世界基準ではずいぶんと遅い朝だが、それは夜番から調査などに、遅くまで立ち会っていたからだろう。

 大きなあくびをしたあと目を擦って、うつらうつら。

 まだ眠気を取り切れていない様子。

 補佐であるガランガに付き添われながら、水を一杯。

 やがて、目が覚めたようで。



「いやー助かるよー。こいつ急に調子悪くなっちまうんだもんよー。参った参った」


「坊。良かったでさぁね」


「おう。これできっちり敵が斬れる」



 可愛げのあるにこにこ顔とは裏腹に、口から飛び出て来る言葉はなんとも物騒このうえない。武門の子息でももう少し大人しいはずなのだが……家風によるものなのだろうか。

 随分とまあ過激だなぁと思っていると、ディートが覗き込んでくる。



「それで、どんな感じなんだ? すごく綺麗になってるけど」


「作業はもう終わってるよ。いまは見落としがないか調べてるだけだ」


「ほんとか!? 仕事が早いなぁ」



 と言って喜びの声を上げるディートに「もう持ってみても構わない」と言うと――



「お? お?」



 ディートはリストを嵌めた手で巨剣を軽々と持ち上げ、そんな声を出す。

 白昼夢のような光景に目眩を覚えるが……驚きの混じったその声で、作業が上手くいったことを実感する。

 一応だが、



「どうだ?」



 と、声をかけると。



「あはは! すごいすごい! すごいよこれ!」


「ちょ――」



 ディートが巨剣を部屋の中でぶんぶん振り回す。

 危ないどころの話ではない。

 切っ先が家具調度品に触れるか触れないかの紙一重。少しでも間違えば、全損は免れない。

 にもかかわらず、ガランガはそれを止める素振りも見せない。

 むしろ豪快な笑顔を見せながら、ディートに訊ねる。



「坊、どうですかい?」


「うん、前よりも断然具合が良いよ! すげー! これどうやったんだ?」



 持ち上げただけでもわかるのか。

 腕を伸ばして巨剣を振り上げる姿は、振り下ろしのタイミングを待つ処刑人。

 しかして対面にいる自分は、刑のときを待つ罪人の気分だ。

 動きを制するように両手を前に出して、



「その前に、それ」


「ん? あ、ああ、悪い悪い」



 ディートは「てへっ」というようにぺろりと舌を出して、剣を立てかける。悪びれた様子というよりは、悪戯を咎められた程度のことのよう。この少年にとっては、この物騒な行為も、そんなレベルのことなのか。

 ふいに戦慄を覚え、背筋に冷たいものが走る。



「どうやってもなにも、普通に補修しただけだよ」



 ガランガが、顔を剣に近付けて、目を細める。



「……模様が綺麗に浮き出ていますね。自分が姐さんに付き始めた時分にも、こんな感じじゃなかった気がしますが」


「たぶんこれ、もとはずっと綺麗なものだったんだと思う。使いまくって摩耗させて、誰もうまく補修できずそのままだったんだろうな」


「つまり、復活させた……と?」


「完全じゃないけど」


「そいつは……」



 ガランガが唸っている一方で、その剣の持ち主の方はと言えば。



「なんかよくわかんないけど、今度からアークスに見せようかな」


「他にここまでできる奴がいないなら、そうした方がいいかもな。もっと知識が増えれば、もとの状態に戻せると思うし」


「もとってことは、こいつが作られたときのってことですかい?」


「ああ。それなりに時間はかかるかもしれないけどさ」


「ほんと!? じゃあ今度から整備はアークスに頼むよ! よろしく!」



 ディートから専属技師に決定されたあと、彼はいてもたってもいられないというように。



「おれ、ちょっと外で切れ味試してくるから」


「坊、あんまり無茶はしねえでくだせえよ?」


「わかってるってー!」



 ディートはそう言いながら、巨剣を肩に担いで飛び出していった。

 いくらリストの刻印があるとはいえ、よくもまああの重さのものを一人で運べるものだと、半ば呆れの吐息が出てしまう。

 慌ただしい中、ふとガランガから視線を向けられていることに気付く。

 どうしたのか。そう思って、首をかしげると。



「……いえ、噂ってモンはあまり当てにならないようで」


「あー」


「俺からもお礼を言わせてくだせえ。ありがとうございやす」



 武器を修復したことのお礼を口にするガランガ。

 前日は彼の視線に胡乱なものが混じっていたが、いまの彼の瞳には、そんな光は欠片もない。



「お代は貰ってるから」


「いえ。これは気持ちってヤツでさぁ」



 そんなやり取りのあと、ガランガが心配そうに窓から顔を出す。



「というか坊、ほんとに大丈夫なんでしょうか。剣の具合がよくなったからって張り切り過ぎてるんじゃ……」



 一方ディートには、それが見えたのか。



「心配ならガランガも来いよ!」


「はぁ…………へいへい。お供いたいしまさぁ」



 ディートに続き、ガランガもまた外へと出て行った。

 窓から様子を窺うと、巨大な剣を振り回している。

 修復が終わったおかげか、元気たっぷり。

 先ほどまで眠たそうにしていたのがまったくの嘘のよう。



「元気だなぁ」



 そんな感想を呟くと、従者の一人がどこからともなく現れ。



「まさに子供といった感じですね。どこかの誰かとは大違いです」


「それは俺に対する当てつけか何かか?」


「いえいえ、誉め言葉ですよ。おかげさまで苦労せずに済んでいますので」


「どうだか」


 しれっとした態度で辛口を叩くノアに、肩をすくめてみせる。



「にしても、変わった感じの集団だな」


「ええ。確かに」



 ……ディートたちは、自分たちのことを山賊の調査、討伐を目的とした部隊と言っていた。

 出自を明かさないところに不審な面はあるものの、しかし彼らがこのラスティネル領に関わっている人間だということは疑うべくもないだろう。

 領軍所属を示す印章を下げているのもそうだが、村長と顔見知りという時点で、すでにそれは知れたことだ。



 ただ、気になる点を挙げれば、

 いち部隊にあり得べかざる装備の良さ。

 過剰なまでに整った部隊編成。

 村人たちの、行き過ぎなほど畏まった態度。

 彼ら以外の何人かとも話をしたのだが、誰もがディートやガランガ並みに我が強く、肝が据わっていた。

 ただの部隊にしては、どうもアクが強すぎるように思える。

 そんなことを考えていると、もう一人の従者が顔を出した。



「よ」


「お疲れ様です」


「カズィ、準備の方は?」


「こっちのはほぼ終わったぜ。あとは出立するだけだ」



 と言って、あごをしゃくって外を示すカズィ。

 彼には、案内人の男と一緒に、出立の準備を進めてもらっていた。

 すると、



「……あと、連中のことも一通り見てきたが、やっぱりかなり念を入れた構成だったぜ? 装備がいいだけじゃなくて、魔導師も揃えていたぞ?」


「三人くらいですか?」


「いや、五人だな。二人ほど魔導師ってことを隠してるのか、前衛の格好させてやがった。ずいぶん周到なこった」


「それはそれは」



 カズィの言葉を聞いて、意味有りげに目を細めるノア。

 ディートが引き連れて来た者たちについて話し合っている二人に、ふと訊ねた。



「やっぱり精鋭なのか?」


「いいや、あれはたぶん違うな」


「違う?」


「いやまあ、精鋭は精鋭なんだがな、なんというかなんだが……」


 カズィは言語化しにくいのか。

 なんとも要領を得ない物言い。

 彼がぶつくさしつつ唸っていると、ノアが口を開く。



「私見ですが、彼らは単なる兵の集まりではなく、将の集まりといった印象です。ディート……いえ、ディートさまが引き連れていた全員が、地位と実力を持った者なのではないかと愚考いたします」


「は?」


「……ああ。たぶん山賊なんぞ寄せ集めの集団、正面からぶち当たっても鼻で笑って蹴散らせる戦力だろうな。あれは」



 二人揃って、高い評価。

 将の集まりと言う言葉から、部隊を管理し取り締まる〈長〉を思い浮かべるが……しかしここで改めて口にしている辺り、そういった規模のものではないのだろう。

 もっと名の知れた、いや、相応の地位を持つ者という気がする。



「ノアには心当たりが?」


「補佐の方がガランガと名乗った時点で、もうすでに」


「あの人、有名なのか?」


「あの方はおそらく、ラスティネル家傘下の領主の一人です。ラスティネル領アジル領主ガランガ・ウイハ。帝国との戦でいくつも武功を挙げた猛者です。他にも、私がわかる範囲ですが、ガルダリア領主クレイトン・バラン。ローベル領主スカール・ロスタ……」



 ノアの口から淀みなく飛び出して来るのは、ラスティネル家から所領を預かる領主たちの名前ばかり。



「は? え? ちょっと待て! ディートってこの辺りの領主を何人も取り巻きにして動いてるのか!?」


「でしょう」


「いやいやいや! だっておかしくないかそれ!? だって指揮系統とかどうなってんだよ!?」



 要するに、この地方を治める有力者がまとまって、しかも山賊狩りなどという本来ならば下の者が行うべきことをやっているのだ。

 絶対にあり得ない。いや、合ってはいけないはずの行動である。



「地方君主の統治や指揮、構成の形態は、その地方によって様々ですからね。ないことではありません」

「ないことではないって……」


「つまりそれだけ、地域との密接な関わり合いってのが根付いてるってことじゃねえのか? 逆を言うと、王国貴族みたいに高貴な在り方が醸成しきってないとも言えるが……」



 二人の意見を聞いて、ふと思い当たる。

 ……ラスティネル家はライノール王国傘下の地方君主。

 つまり小規模ながらも王家として認められているということだ。

 当然、家臣に領地を分配し、個々に領主を任命して統治させている。

 ノアやカズィの説明通りなら、おそらくここの領主たちは、男の世界で言う武将のような扱いをされているのだろう。

 とある戦国大名のように、家臣、領主を城下に住まわせることを徹底させて、領地には代官を置くといった形態に近いやり方を取っているのかもしれない。

 そういった形態をとっているのであれば、確かに彼のように権力者で周りを固めた豪華メンバーを供回りにして引き連れることも不可能ではないはずだ。



 だが、そうなると、だ。



「じゃあやっぱりディートって……」


「おそらくそうでしょうね。ラスティネル家には十代の子供がいるという話ですので、間違いないかと」



 薄々そうなのではないかとは思っていたが、やはりここの領主の子息だったか。

 地位の高い者の子供でなければ、部隊の長に据えられることはないし、さらに小領主まで従えているのだ。これは間違いないだろう。

 ふと、カズィが外の方を向く。



「なら、さっきのあれが首狩りラスティネルの断頭剣(ギロチン)ってやつか?」


「おそらくは」



 ノアとカズィに、いま飛び出してきた物騒な単語のことを訊ねる。



「……なんだそれ?」


「ラスティネル家で代々受け継がれているという有名な武器のことです。先ほどアークスさまが補修した剣ですね」


「げっ……」


「戦場で幾多の帝国兵の首を落としたっていう曰く付きの武器だ。俺なんかでも知ってるぜ。キヒヒッ」


「もともとは罪人の処罰に使っていた斬首刀を、改修したものとも聞きますね」


「うへぇ怖え……」



 自分が修復していたものが、とんでもない武器だったことを知り、背中がぞわぞわと粟立つ。

 ともあれ、それでガランガの態度があれだけ変化したのか。

 確かにそれだけ由緒あるものを直したのであれば、ああやって改まるのも当然だろう。



「けど、それをディートが持ってたってことは」


「当主から受け継いだものなのでしょう。現当主ルイーズ・ラスティネルは、〈首狩りの魔女〉〈馘首公〉とも呼ばれ、いまも隣国ギリス帝国から大いに怖れられています」



 話からも、荒っぽさと無骨さが窺える。

 貴族というよりは武将のように思えるが、この世界、地方君主や武官貴族と言うと案外こちらの方が多かったりする。もともとこの世界の地方君主というのは、土地を武力で治めていた氏族が多いため、性格的に豪族上がりの領主という色合いの方が強いのだ。



 特にこの世界、ライノール王国周辺は争いごとが絶えないため、地方君主や武官貴族は「あらあら、お綺麗ですねうふふあはは」など過度に華々しい生活をやっていられないという事情もある。

 どころか、跡取りだろうとすぐ戦場に出すなんてことも、平気でやるのだ。

 というか、バンバン出すらしい。

 魔法という技術があり、個々人の力が強大なこの世界だからこそのものだろう。



 二人とそんな話をしていた最中、外から声が掛けられる。


「おーいアークスー。こっちはそろそろ準備できたってー」


「ああ、いま行くよ」



 窓から顔を出して、呼びかけて来たディートにそう返す。

 そして、ノア、カズィと三人、家の外に出たのだった。




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